Steal This Hook! 09/18/2006

信ぜよ、さらば救われん

ロバート・ウィーゼ


 

どのような世界においても、宗教は大戦争、不寛容、及び人の死を招くものである。なぜなら宗教が価値観と信念を押し立てるところ、常に闘争が生まれるからだ。そして闘争のあるところには冒険がある。つまり、宗教と宗教がぶつかり合う世界ではそうでない世界に比べて冒険者の可能性はずっと大きなものになるのだ。今月のスティール・ジス・フックは宗教――エベロンの宗教がテーマである。

エベロンにおいては宗教そのものがかなり複雑であるため、こうした雇い主が提供できる報酬は通常の金や魔法とは限らない。クレリックのパトロンは自らの呪文の他にも門外不出の知識、宗派の秘奥への入門、あるいは禁断の魔法すら提供できる。とは言え、概ねPCに対する教会の直接的な報酬と言うのはそれほど大した物ではない。彼らが最も高い価値を持つのはPCの後援者としてなのだ。

 

 

象徴は即ち力 ―― エベロン

ソヴリン・ホストの聖印アンデールのラスレアはオリエン氏族の交易路においてフェアへイヴンとガルトを結ぶ大きな町である。アンデールのこの地方では最も大きく、また都市の少ないこの地域の農家にとっては交易の中心地としても機能する。人々は概ね素朴であり、ソヴリン・ホストを崇めている。これらの寺院はボルドレイに仕えるこの国では指折りの高位の尼僧であるベルティア・サロンテン(Baltia Serontain)によって切盛りされており、彼女と彼女を助ける司祭たちは町の安全と霊的な調和のために日夜気を配っていた。

ベルティアがラスレアで高い地位についているのは、彼女がシベイ・ドラゴンシャードを組み込んだ唯一無二の聖印を保有しているのがその理由の一つである。彼女自身の語るところによれば、彼女はこの貴重な聖印をボルドレイの導きによって手に入れたのだという。つまり自分自身で探し出したわけではないと言う事であり、それに付随してきた高い地位をも――彼女がソヴリン・ホストの義務を怠った事は一度もないにしても――自力で手に入れたわけでもない。

その午後、新築されるいくつかの家へのボルドレイの祝福の儀式に人々は集まった。彼らはベルティアがこれらの新居にボルドレイの祝福を与えてくれるのを待っていたが、最終的には別の司祭がそれを行った。ベルティアは寺院の中の彼女の執務室で意識不明になっており、その聖なるシンボルは失われていたのだ。司祭たちは儀式をこなすのに手一杯になり、ベルティアの個人秘書は冒険者を探しに通りに飛び出した。

d100ロール:動機

01-50 ベルティアは個人的な理由のために聖印が戻ってくるのを望んでいる。ボルドレイはそれを確かに彼女に与えたのであり、少なくとも今しばらくの間は彼女がそれを守り保持するべきなのだ。

51-80 高い地位は彼女をやや堕落させている。彼女は聖職者としての地位が揺るがないよう、これが騒ぎにならないことを望んでいる。

81-00 ベルティアはずっと前に死んでおり、そこにいるのはベルティアを装ったドッペルゲンガーである。ドッペルゲンガーは聖印が戻ってくるかどうかは余り気にしないが、この事件のせいで自分の正体がばれ、犯罪組織とのネットワークが明らかになるのを恐れている。もしそれが現実になりそうなら、彼はベルティアが「死ぬ」事によって自分と言う存在への疑惑をそらそうとするだろう。

d100ロール:カスタマイズ

01-25 ベルティアがこの地位についたのは他の聖職者と王室の意図によるものである。シベイ・ドラゴンシャードはカニス氏族のメンバー(或いはオリエン氏族、また或いはあなたのシナリオで意図した勢力)を牽制するための鍵であり、ベルティアはアーララ女王の秘密の部下の一人である。彼女は誰かがドラゴンシャードの秘密に気付き、それを盗んだ事を喜ばないが、それを取り戻した人間に褒賞を与えるのにやぶさかではない。特に目撃者がきちんと処理されるなら。

26-50 ドラゴンシャードの欠片はデーモンの時代に破壊されたアーティファクトの一部である。ボルドレイはカイバーのフィーンドがそれを見つけないようにベルティアにそれを守らせたのだ。そして今フィーンド達はアーティファクトを修復しつつあり、いくたりかのラークシャサがドラゴンシャードの位置を発見し、デーモンにそれを奪い返させたのである。

51-75 アーティファクトはモーンランドの辺縁部で廃墟と化したカニス氏族の炉要塞を捜索しようとしていたカルナスのヴォルの血のエージェントによって奪われた。彼らはこの聖なるシンボルがカニス氏族の罠に対してマスターキーとして働くのではないかと期待しているのだ。PCたちは罠と人造の番人で一杯の炉要塞の通路を潜り抜け、先行する翡翠爪とヴォルの血の悪党どもから聖印を取り返さなくてはいけない。

76-00 聖印はラスレアで宗教的権力を握りたいソヴリン・ホストのライバル宗派によって盗まれた。これらの司祭は聖印が彼女に権威を与えている事を知っており、彼女を害せずともこの聖印を取り除く(あるいは破壊する)ことによってその力を彼女から奪い取り、自分たちがその地位につくことができると考えている。PC達の調査が底にたどり着いたとき、聖印はまさに破壊される寸前である!

キャンペーン適合

「Faiths of Eberron」(エベロンでの信仰について纏めたサプリ)はドラゴンシャードを組み込んだ聖印とソヴリン・ホストそれ自体について詳しく解説している。他の背景世界にはドラゴンシャードが存在しないため、あなたがオリジナルのアーティファクトである聖印をデザインする必要があるだろう。

 

信仰は時に幻の如く ―― エベロン

シルヴァー・フレイムの聖印ラーヴィオンの月十四日のシルヴァータイド(Silvertide)の祭りはライカンスロープの浄化(パージ)を記念するシルヴァーフレイム教会の聖なる日である。コーヴェア中のシルヴァー・フレイムの教会で祭りが催され、"浄化"を称える劇が演じられ、高僧が説法を行った。スレイン南東のアラルダスクはフレイムに帰依する敬虔な都市であり、ここ最近の好景気を楽しんでいる。フレイムに敬虔であるのはスレインではごく当たり前の事だが、景気が良いのは北から南へ通り抜けるライトニング・レイルの中継地点だからである。

シルヴァータイド真っ只中のアラルダスクは、至る所で祝祭ムードに溢れている。教会に仕える若者たちは"浄化"における重要な戦いを劇にして、恐るべき変身生物どもを打ち破った清浄なる勇者たちを称える。午後、人々はフレイムの高僧オッサル・デスカールのありがたい説法を聞く為に教会の前に集まる。オッサルは人々の歓声の中教会の中から姿を現し、説教壇に登り手を上げて観衆を静める。そして彼が口を開こうとした瞬間、その姿は唐突に消え去った。

混乱は収まらず、司祭たちは消えたオッサルを魔法で捜索しはじめる。が、オッサルはテレポートで消えた痕跡もなく、またトゥルーシーイングを使っても近くに彼を見つける事はできなかった。彼は、単に空中に溶けるように消えてしまったのだ。

教会のメンバーは邪悪が彼らの中に紛れ込んだのかもしれないと恐れ、善属性のPCにこれを排除し、行方不明の司祭を取り戻すように依頼する。

d100ロール:動機

01-50 フレイムのパラディン達は利害に関係ない外部の人間であるPC達に依頼する。彼らは誠実であり、オッサルの救助と何が彼に起こったかの解明だけを望んでいる。

51-75 聖職者の一人は説教壇に登ったオッサルが幻影であることに気付き、教会に蔓延する不正を正すためにこれを解呪した。しかし、彼女は表に出ようとはせず、PCを雇ったり助けたりはしない。

76-00 朝早く、2人の聖職者がオッサルが消えたことに気付き、彼らは聖なる日に混乱を起こすのを防ぐため幻影を生み出した(*)。彼らはオッサルの失踪を秘密裡に調査するつもりでいたが、必要なだけの間幻影を維持することができなかったのである。オッサルが消失してしまったので彼らは調査を自分たちで秘密裡に行うのではなく、英雄達に依頼することにする。

(*) シナリオの展開次第だが、オッサルないし他の誰かが彼の幻影を生み出したことにするならば、あなたは聖職者達がオッサルの幻像を発見したことにしてもよいし、また彼らがオッサルの不在を発見して幻影を生み出したことにしてもよい。

d100ロール:カスタマイズ

01-50 オッサルは幻影であり、魔法と影界の影物質によって生み出された存在であった。本物のオッサルは一週間前に誘拐されており、現在カルナスのヴォルの血の聖職者に囚われている。彼はまだ生きているが、いつヴォルの血に忠誠を誓うアンデッドに変えられるか知れたものではない。

51-65 オッサルは実はアンデッド、あるいはデーモンに憑依された邪悪な存在であり、アラルダスクの信仰を破壊するために密かに活動していた。活動は幾ばくかの成功を収めていたが、聖職者の一人に見破られそうになったので、彼はその前に一芝居打ったのである。

66-85 オッサル・デスカールは実在の人物ではない。大衆を誘導するため、他の聖職者が自分たちのコントロールできる偶像として生み出した幻影なのである。

86-00 オッサルは失踪したわけではない。彼はカイバーのラークシャサと戦う秘密の任務に赴くため、その間の代わりとして自分の幻影を生み出したのである。幻影が解呪されてしまった今、PC達が彼を追ってくれば彼にとっては厄介な事態になるだろう。

キャンペーン適合

「Faith of Eberron」はシルヴァーフレイム教会とヴォルの血について多くのものをもたらしてくれるだろうし、このフックには「自然の種族」がかなり有用なはずである。カイバーに足を伸ばすなら「アンダーダーク」もあったほうがいい。

 

ウォーフォージド地下鉄道 ―― エベロン

訳者注:英語の「地下鉄」は「人間(奴隷や犯罪者、亡命者など)を逃がすための秘密組織」の隠語でもある。

To be, or Not to be ?オリエン氏族の交易路とライトニング・レイルが通っているとは言え、南カルナスのヴルヤールのあたりはかなりの田舎である。この地域は最終戦争でかなりの被害を受けており、道路、軍事施設、さらに街の建物ですら未だに軍による修復を待つありさまだった。そこへ新しくウォーフォージドの守備隊が到着し、シガー・スル大尉と彼に率いられた人型種族のウォリアーの二個分隊の指揮下に入った。

ややあって、これらのウォーフォージドが失踪し始めた。当初は何らかの攻撃によるものと思われたのだが、器から少しずつ水がしみ出すように、僅かずつではあるもののウォーフォージドは確実にいなくなっていた。スル大尉は何らかの敵性勢力によるものではないかと案じている。これらの失踪の大部分は田園部の道路や民間人の家屋を修理していたときに起こっているが、ヴルヤールの都市部で消えたと思われるものも中にはいた。

ウォーフォージド一個小隊と三人のファイターによる調査も空振りに終わり、スル大尉はウォーフォージドが消えた原因を探らせるべく冒険者に接触する。ウォーフォージドは非常に高価なものであり、その損失を「やむを得ず」で済ませる事はできないのだ。

d100ロール:動機

01-50 スル大尉は誠実であり、何も隠していない。ウォーフォージドは本当に失踪している。

51-90 スル大尉のウォーフォージドの副官はロード・オブ・ブレードの同調者であり、転向したウォーフォージドをモーンランドに送り込む計画の首謀者である。彼は同志達と計り、発覚しないように用心しつつ冒険者たちを妨害する。

91-00 スル大尉はウォーフォージドを毛嫌いしており、彼らがいなくなったこと自体は全く気にもしていない。ただし彼らは高価であり、かつその損失は彼の個人資産から弁償しなくてはならないのだ――無一文になるまで。

d100ロール:カスタマイズ

01-50 一連の失踪が始まる直前、ロード・オブ・ブレードの部下であるウォーフォージドの「伝道師」がヴルヤールに現れ、スル大尉の部下のウォーフォージド達を「改宗」させ始めた。秘密の脱出ルートによりウォーフォージドはカルナスの国外へ逃亡し、モーンランドに消えているのだ。姿を消したウォーフォージドの多くはロード・オブ・ブレードに共鳴し、このようにして自主退職したのである。

51-75 カニス氏族によって戦争末期に作られたブレイ・エフィジー(「秘術大全」より。他の生物を模して作られたからくり人形のような人造クリーチャー)がここ数週間(数ヶ月)、付近の農民を苦しめており、それを目撃して生き延びた者は一人もいない。

76-00 姿を消したウォーフォージドのいくらかはヴォルの血のクレリックによって誘拐された。ヴォルと彼女の司祭たちはアンデッド・ウォーフォージド、特に知性を維持したままのそれを生み出そうと実験を繰り返している。これらの司祭たちはごく秘密裡に実験を行っており、ウォーフォージドを軍から誘拐したにも拘らず、発見されたり実験が表沙汰になることを望んでいない。

キャンペーン適合

以下の提案により、ウォーフォージドのいないエベロン以外の場所でもこのフックを運用できる。「Faith of Eberron」はロード・オブ・ブレードについてより詳細に記述している。