Dragonshard 04/04/2005

ライカンスロープと"浄化(パージ)"

キース・ベイカー




エベロンにおいてはライカンスロープの属性はその動物の姿と連動していない。ワーベアが悪である場合もあれば、ワーウルフが善である事もある。かつて悪属性のライカンスロープはエベロンでもっとも恐れられた生物の一つだった。生まれつきのワーウルフは人間の姿を取ってはいても、まぎれもなく人の血を好む生来の捕食者である。属性の変化やその善悪に関わらず、ライカンスローピーに罹患したものは人格に多大な変化を強要される。その結果、あらゆるライカンスロープは常に恐れられる存在であった。ひとたびライカンスロープに噛まれてしまうと、それは最良の場合でもアイデンティティの一部喪失を意味するし、最悪の場合は善良な人を凶暴な殺人者に作り変えてしまう事になる。

後天的ライカンスロープの場合、この精神的な変化は永遠のものである。この超自然的な病気の前にはもっとも強い意志でさえ抗うことは出来ず、一度変化してしまえばミラクル、アトーンメントといった魔法的効果でしか治療することは出来ない。先天性のライカンスロープの場合はこれを「治療」することはできない。ライカンスローピーは生まれながらに彼らの心身の一部であり、それを除去することは出来ない。悪属性として生まれたライカンスロープが善に転向することも可能だが、その場合でさえ彼女は自分の中にある肉食獣の本能――常に弱く罪のない者を餌食にしようとする衝動――から完全に解放されることはない。

ライカンスローピーの起源は占術の介入すら拒み、いまだ神秘のベールに包まれている。コミューンやレジェンド・ローアといった呪文さえもこの種族と内に抱く闇については謎めいて、しばしば矛盾した答えを返す。これまでにも秘術評議会とコランベルグ図書館の賢者は多くの説を提唱してきた。曰く、源を辿るとデルキールまで遡れる。曰く、グローミングが生み出したものである。曰く、ラマニアの顕現地帯の影響である。或いは曰く、太古のドルイドが原因であるなど。またエルデン・リーチでは更に突飛な説がシフター達によって提唱されている。多くのシフターの部族はエベロンの月が地上を見下ろす偉大な精霊だと信じており、彼らは自分達がライカンスロープの子孫ではないと主張している。この伝説によればオラルーンの月は自然の世界を守るための守護者を生み出そうとし、その力に触れた一握りのシフターに完全な獣に変身する力を与えたのだという。しかしムーンスピーカー達は十三番目の精霊――人の目に見えぬ闇の月が天空にあるという。この闇の月がオラルーンの贈り物を汚し、彼女に選ばれた者たちの多くに悪と狂気を与えた。またこの伝説は云う。何世紀にも渡り、そうした信念を持つシフターたちは邪悪なライカンスロープたちを狩り出して来たと。その脅威が絶えなかったのはただ狩人達に充分な力がなかったのだと。これらの狩人は少数派であるが、種族としてのシフターがライカンスロープに大いなる友愛を感じているということもまたない。シフターの共同体が善良なライカンスロープを保護することはあっても、まっとうな分別を持つ者なら悪のワーウルフを歓迎したりはしないだろう。

ライカンスローピーの起源は誰も知らなくても、殆どのものは"浄化"――危うく終わりをもたらしかけたそれを知っている。王国暦800年ごろ、呪いの力は増大し始めた。アンデールの学者は次元界の合か、いまだ知られざるフィーンドの影響であろうと考え、一方エルデンリーチの奥深くにいたシフターのムーンスピーカー達は見えざる月の力の増大を憂えた。悪属性のライカンスロープ――彼らは変身種族の中の最多数派だった――は更に無慈悲になり、善ないし中立のライカンスロープまでも暗黒に惹かれ、後天的ライカンスロープが呪いを他者に伝染させるようになりさえした。800年代の初期にはワーウルフの群がコーヴェア西部を闊歩し、ワーラットがこの時代屈指の大都市の下町で一大勢力をなすまでに至った。農夫は人間のように歩く狼を恐れながら日々を送り、かつて子供を寝かし付けるためのおとぎ話だったものがいまや現実を脅かしていた。

"浄化"(The Purge)

シルヴァー・フレイム教会の聖堂騎士たちは長く変身生物と戦ってきた。しかしシルヴァーフレイム教会の本拠地はスレインにあり、伝統的にライカンスロープが多いエルデンリーチからは距離が離れていた。アンデールとブレランドに響く弔いの鐘が増えつづけていったことが枢機卿を決断させ、聖堂騎士たちは大陸西部においてより積極的な行動に出た。シルヴァー・フレイムのピューリタンの学者達は敵を研究し始めたが、幾つかの要因がこれに影響を与えた。

  • 研究の対象は悪属性のライカンスロープであった。善のライカンスロープは第一に少数かつ身を隠しており、その上多くが強大化する呪いの力の犠牲となった。結果、ピューリタンは全てのライカンスロープは生来邪悪であると早々に結論付けた。
  • 多くの聖職者はライカンスロープの中間形態と一般的なラークシャサの姿との類似性に気づき、ライカンスロープはデーモンであるか、或いはやがてフィーンドになると断言した。
  • ライカンスローピーの治療は至難の業である。先天的ライカンスロープは治療することが出来ず、後天的なそれにしても本人がそれを望む場合のみ治療が可能である――変身生物は、常に変身しないでいるためのセーブを失敗することを選択できるのだ。最初に治療に着手した聖職者達は治療が不可能であると結論付け、より穏健かつ高潔な聖職者たちの一団がそれが可能であると証明したのは、"浄化"の最後の十年になってからであった。

この問題のある研究結果に加えて、炎の護り手には彼自身の意図があった。ジョアン・ソルはこの状況をアンデールにおけるシルヴァー・フレイムの影響力を強化する好機であると考えたのである。王国歴832年、彼はライカンスローピーの呪いが魂そのものを堕落させると宣言した。この宣言はブレランドとアンデール中に恐怖を広げ、西方に遠征したシルヴァー・フレイムの戦士たちは地上からこの疫病を根絶するというその決意を更に強くした。

戦いは長く、残忍な物だった。今日では多くの者がライカンスロープが無力であったなら、かえって教会の圧倒的な力から逃げ延びていたはずだと考える。これはほぼ真実であろう。典型的なワーボアはシルヴァー・フレイムの平均的な聖堂騎士より遥かに強力であり、そして更に戦士達が彼を殺したとしても、一度でも噛まれたならば呪いが伝染し、新たなワーボアが生まれるのだ。悪のワーウルフは村一つを丸々罹患者に変えたし、ワーラットは聖堂騎士達に呪いを伝染させることに大きな喜びを見出し、ライカンスローピーが発症するまで彼らを捕らえ、その後に元仲間のところに送り返した。頭の切れるライカンスロープはピューリタン達にシフターへの疑いを吹き込み、シフターが呪いを媒介しないと証明されるまでにこの偏執狂たちは数百のシフターを虐殺した。後に何人かのシフターが聖堂騎士団と共に戦ったが、彼らは一度たりともシルヴァー・フレイムを――その行いを、人類を、そして同胞の死を許したことはない。

ゆっくりと状況が変わっていくにつれ、この遠征は人間とシフターの共同体に隠れたライカンスロープを捜索するものとなった。再び多くのピューリタン達が過剰に攻撃的な行動を取り、ライカンスロープを絶滅させるためのその凄惨な探索の中で、多くの無辜の民を殺しつづけた。最終的にメダーニ氏族がライカンスロープを探知するドラゴンシャード焦点具を用い、彼らを真の敵の元に導いて、これにより"浄化"は終わりを告げた。王国歴880年、シルヴァー・フレイム教会はエルデン・リーチから軍を引き上げ、呪いの脅威はいまや根絶されたと宣言した。

現代のライカンスロープ

今日、シルヴァー・フレイム教会の勢力のバランスは穏健派に傾きつつあり、多くのものは前時代の出来事を恥じ、また後悔している。悪のライカンスロープは止められなければならなかったのは事実である。しかし狂気と熱狂に満ちた時代の流れが多くの無辜の民を死に至らしめた。しかしながら、目標の一つは達成された――シルヴァー・フレイムは"浄化"の結果多くの信奉者を獲得し、現在アンデールはピューリタンたちの本拠となっている。ピューリタンたちは"浄化"を輝かしい勝利であるとして疑っていない――ピューリタンはこの九世紀初頭の恐るべき怪物たちとの戦いにおいてその地位を確立したからだ。彼らは悪でないライカンスロープや回復の可能性があった罹患者たちの死に対して全く後ろめたさを感じていない。ピューリタンにとってライカンスロープは怪物であり、聖堂騎士の義務は怪物に情けをかけることではなく、悪から無辜の民を守ることなのである。

スレインの教会はもはやジョアン・ソルの方針には従っていないが、教会は今でも変身生物たちを探し続けている。ジャエラ・ダランは治療ないしラマニアへの追放のため、可能であれば常にライカンスロープを生け捕りにし、またその降伏を認めるよう聖堂騎士達に命令しているが、ライカンスロープが大人しく従わない場合は殺害も厭わない。これらの活動はガリファーの法において「教会の聖堂騎士団は超自然的脅威に対して五つ国の人々を守るために戦うことができる」旨保障されており、自らの現状を肯定するライカンスロープは民衆への明白な脅威と見られているからである。アンデールのピューリタンはジャエラの布告を無視することで悪名高く、アンデールの聖堂騎士でライカンスロープに慈悲を示すものは殆どいない。

枢機卿と護り手がライカンスローピーの脅威を公認し続けていた間にも、エベロンに残ることの出来た例外的なライカンスロープの噂が存在した。例えば教会がエルデンリーチで異形と戦い続けていたワーベアを捕らえ、彼の話を聞いた後に炎の護り手が彼を釈放したとする話。またアンデールのピューリタンの一部はジャエラ・ダランその人がライカンスロープであるという噂を広めている。仮にこれが真実であれば、シルヴァー・フレイムは過ちによって傷ついた自身の名声を回復するために彼女を選んだのかもしれない。一般人の偏見と教会との問題を解決する必要性の間に置かれたライカンスロープのPCにとって、エベロンは中々厳しい世界である。しかし、自身の暗い衝動と戦わなければならない、迫害される英雄というのは実に魅力的な主役になりうるし、そのようなキャラクターが居場所を見つけられるのがエベロンという世界なのである。