FRCS日本語化記念

フォーゴトン・レルムのススメ

041222
文責:いしかわ




 D&D3eの日本語化は、一部の懐疑論者(*1)をあざ笑うかのように着々と進行している。
 当初は「コア三冊がそろえば上出来」「21世紀最大の奇跡」「一冊でも追加サプリが出たらHJは神」などとあちこちでいわれていたものが、モンスターマニュアルIIをはじめとして、武器装備ガイド次元界の書、そして来年初頭には
3.5eコアルールまでもが翻訳されるというではないか。
 そうした中、奇しくもクリスマスの日である'04.12.24、Forgotten Realms Campaign Settingが
日本語版「フォーゴトン・レルム ワールドガイド」(*2)として発売される運びとあいなった。
 


 しかし、である。
 この本にどんな価値があるのか、そして来月に控える3.5eとの関係はどうなるのか。
 このあたりが明らかにならなければ、一部の「サプリを見たらとりあえず買う」という
精神的にどこか壊れた人種(*3)を別にすれば、なかなか7980円というコンシュマーゲームが2本も買えるような価格の分厚い本の購入に踏み切ることは難しい。
 まあそれも無理はあるまい。FRCSはおよそ八千円もの投資を強いられるにもかかわらず、そこに掲載されているのは
パイプ片手にキメ狂ったヒゲの老人とか紫の鎧を着たおっさんの絵ばかりであり、ポリゴンで揺れる乳もなければアンドロイドのメイド12人の妹もいないのである(*4)。
  

 だが、それでもなお(そう、たとえそこに
89cmの乳画像(*6)が掲載されていないとしても!)、いしかわは本書をお勧めしたい。
 では、レビューを含め、FRCSがいかなる本であるのかをご紹介しよう。


 注)本書は日本語版(FRWG)購入前に、英語版の記載をもとに構成されてます。

    なので「訳語が違う」とか「日本語版でここ変わってるよ!」とかはカンベンな。


 フォーゴットン・レルムセッティングの舞台となるフェイルーン世界はこれまでもっとも多くのサプリメントが出版されてきたセッティングであり、重厚な歴史と世界観、詳細な世界設定で知られている。惑星トリルに広がるこの世界は、D&D3eにおける標準世界とされているグレイホーク世界よりも遥かに巨大な魔力に彩られている。神々はより強大な力を持ち、またフェイルーンに住む術者たちは強力な魔力を振るう。ぶっちゃけた話、FR世界の著名なNPCはGH世界のNPCよりも強力な事が多いし、歴史上に記された事件や出来事もハデなものが多い傾向にある。
 しかし一方で、世界が魔法に依存している部分が多いため、一部の神の信者や組織が
無法なまでに強力だったり、信仰をもっていないと蘇生できないなど独特の面も多くある。、
 
 FRCSはこの魅力あるフェイルーン世界を、以下の9章に分けて紹介している。
 
 

第1章:キャラクター
 
 この章では、フェイルーン世界で使用できる種族、技能、特技、そして職業などについて解説されている。
 つまり、ロールケーキなんぞに興味がなく、ただひたすらに力を求める君が必要とするものの1/3がここに記されているということだ
(ついでに言えば残りの1/3は新しい魔法で、さらに残りの1/3は新しいマジックアイテムである。当然だよね?)。 
 
 この章を読んだ君は、まず大幅に使用可能な種族が増えていることに驚くだろう。たとえばドワーフはその肌の色や生活様式などに基づき5亜種に分類されている。またエルフにはかの有名な永遠の悪役にして双刀の剣士ドリッズドを輩出した地下種族ドラウが含まれているし、人間の半分ほどの大きさしかないくせにセクシーな胸毛男らしいストロングハートハーフリングなどのほか、これまで日本語版にはなかった(*13)プレーンタッチト(他プレーン種族とのハーフ的存在・通称「パラディンになるために生まれてきた種族」アーシマーなどがある)が紹介されている。

 他にもFR世界に独特なものは無数にある。たとえば基本クラスについてはGH世界と同様だが、ドルイドの「ドルイドサークル」やパラディンの「騎士団」、クレリックの属する「教団」など、世界とのかかわりについても記載がある。
 また、生まれた地方に応じて、キャラクター作成時にもらえる言語や技能、装備が異なっていたり、ある地方でしか習得できない特技があったりする。場所によってはイキナリピストルがもらえたり、20チャージのワンドが初期装備に入っていたりするからスゲエ。
 また、特技は大量に追加されている上、「マジックリッチ」と称されるFR世界にふさわしく、魔法に関するものも多く含まれている。たとえばimproved counterspell(対象の呪文と同じ系統で1レベル以上うえの呪文を消費して呪文をカウンターできる)やGreater spell focus(特定領域のセーヴDCに+4ボーナス)、Persistent Spell(4レベル分上のスロットを消費して、呪文の効果時間を24時間にする)など強力なものぞろいだ(*5)。Tatoo Focusなど、世界設定に深く関係する特技も含まれており、能力的にもフレーバー的にも充実している。

 そして続くは全プレイヤーのお楽しみ、上級クラスだ。
 魔法富む世界フェイルーンだけに術者を強力にするクラスが非常に多い。例えばアーチメイジはレベル毎に「High arcane」と称する魔法の力のコントロール能力を得る。その能力は接触呪文を30ft先まで届くようにしたり、呪文を擬似呪文能力にする(=一日何回でも撃ち放題にする)など異様に強力である。ヤバイ。またFR世界での有名にして強力な悪役赤魔道士(Red Wizard)もしっかりプレステージクラスとして含まれており、DMがPCが強力になった分をフォローするのを容易いものにしているっていうか
補って余りある。もうね、お前らPCを殺す気かと(*7)。
 一方で、ディバインチャンピオンやハーパースカウト、パープルドラゴンナイトなど、HFOを強化することの可能な上級クラスもしっかり含まれている。上級クラスの少ない日本語環境において、この章は福音となるだろう。
 

第2章:魔法
 
 フェイルーンを彩る、というよりは最大の特色であるともいえる魔法について解説した章。
 まず、”織 Weave”についての解説がある。”織”とは、他ゲームで言うところの「マナ」とでも言えばいいだろうか。通常の人間には扱えない「生」の魔法の力が変じた”織”は、魔法の女神にしてFRでもっとも愛される神(*8)、ミストラそのものであると言われている。フェイルーンの魔法は通常世界全体を覆う”織”を通じて行使され、この”織”の濃淡でWild Magic(魔法が暴発したりする)やDead Magic(魔法消失)が生じたりする。
 また、Spellfire(魔力を爆炎に変換する特殊能力)や”織”の裏の存在とも言える”shadow weave”、エルフ古代魔法、ルーン魔法、サークルマジック、ポータルなど、FR独特なギミックが解説されている。
 さらにパワープレイヤーのお楽しみ、追加魔法や新しく紹介される神の領域呪文についても追加がある。とはいえ、この方面で真に追加がなされるのはMagic of Faerun(MoF)なので、パワースキーな君はFRCSを3冊(もちろん財布が許すなら30冊でもかまわない)購入し、すべての項目を無視して太書きマジックで
「MoF翻訳希望!」とだけ書いてHJに送ろう。 


第3章:フェイルーンの生活
 
 フェイルーンの暦と季節、地方の情報、生活の様子、言語などの章。交易品や各地方の特産品、そしてそれらの流通についても触れられている。
 また、フェイルーン世界で魔法がどのように扱われ、生活に利用されているかなど、FR以外の世界でも有用な内容となっている。
 そして、この章の白眉といえばやはり装備品だろう。どんな高レベルになっても確実に有用である
ポーションベルトの初出は本書なのだ。このベルトは6本のポーションをホールドするだけでなく、そのうち1本をフリーアクションで取り出すことを可能にする。値段はたった50gp。ヤバイ便利。
 同様の品にスクロールオーガナイザー(15本のスクロールを保持するベルト)があるが、こちらはフリーアクションで取り出す能力はない。残念。
 
 とまあこのように、この章は地味ながらフェイルーン世界での生活に彩りを添え、かつ強力なキャラクター作りにも貢献するというナイスな章である。
地味だけどな
 

第4章:地理
 
 ひそかに最大のページ数を裂かれた章。フェイルーン各国の人口、政治形態や国の様子などのほか、首都や大都市、名所・名跡、著名人の情報などで構成されている。現実世界で言う国別ガイドブック的なモノにゲーム的なデータが加わったもの、といったら雰囲気がわかるだろうか。
 ここに掲載される著名人はかなり強烈なので一見の価値あり(*9)。なんか普通に20レベル超のキャラ載ってるし。
 また、国ごとに「生活と社会」などといった情報のほかに「歴史」とか「プロット・噂」などといったシナリオのネタになるような情報が含まれているのもDMにとってはうれしいポイントであろう。


第5章:神々
 
 フェイルーンの主要な神のリストと、その中でもPC/NPCにからんでくることの多い30近い神とその信仰についての詳細な解説が掲載されている。
 解説にはその神のシンボル(聖印)のカラー図版をふくめ、信徒の歴史や関連、教義などが示されている。
 また、神リストには各種族ごとに信仰される神も含め100柱以上の神が紹介されている。属性と領域、好みの武器、シンボル、象徴などがざっくりとかかれているので、詳細な解説なしでも一応プレイは可能だろう(*10)。
 あと、章末にはコスモロジー(FR世界と他のプレーンとのかかわり)や、「死後の世界」について書かれている。特に後者は短いながらFRという世界を考える上で非常に興味深い部分でもあるので、興味のある方はぜひ。


第6章:歴史
 
 第4章にも各地方の歴史的なものはあったけど、こちらは「世界史」といった趣。世界規模で起こった事件が年代を追う形で解説されている。紀元前20000年から記された年表と、そこに記された無数の事件、そしてそれに関わる物事の解説など。第4章:地理などと引き合わせてみることでFR世界の歴史と現状が、ひいてはD&Dの特徴のひとつである世界の重厚さが立体的に感じられる。FRの「D&Dの中での」歴史もかいま見えたりして楽しい(*11)。



第7章:組織
 
 こちらも世界の成り立ちと関わる章。世界中に散らばる有名な組織について解説している。
 たとえばカルトオブドラゴンなどはDDMでもフィギュアになっているし、プールオブレイディアンスIIの敵役としても現れるので聞いた事がある人もいるだろう。
 また、ハーパーズやレッドウィザードなど、
いろんな意味で強力な団体についても詳解されている。掲載されているNPCは強いとか何とか言うレベルを通り越して「僕の考えた超人」みたいな感じで面白いしね【誉め言葉】。
 組織の目的や規模、行動についてもフォローされているので、別プレーンや他のゲームでも名前を変えて出したりすることも出来るだろうし、PC的にもこうした団体について知ることはプレイの幅を広げてくれるだろう。



第8章:レルムでのプレイング
 
 フェイルーン世界でのPCメイキングについての解説。ECL(日本語訳不明)の使い方とか、MMとかにのってるクリーチャーでPC作るときの指針とかが載ってる。なにげに信仰をもってないと蘇生できないとか、サイオニックが迫害されているとか結構重要な事がかかれてたりするのでFR世界を旅する予定の人はPC,DMに関わらず読んでおこう。 

 また、DMGにあった「ゲームの進め方」を補足し、またFR用にチューニングするための記事も併記されている。ついでに有名なダンジョンとかキャンペーンの進め方なんかもあるので、DMにはかなり有用な章といえるだろう。

第9章:モンスター
 
 これもモンスター・オヴ・フェイルーンという立派な別書があるためかあっさり目の記述。とはいえアンデッド版ビホルダーである「デス・タイラント」や、いろんなシナリオのラスボスであるドラコリッチ(ドラゴンのリッチ)など、抑えるべきところは抑えている。つまりは殺す気のDM大喜び。PLゲンナリな内容とでも言おうか。
 ほかには特に書くことなし。読んでその強烈さに悶絶してください。



 以上、駆け足気味ながらざっと紹介してみた。
 ごらんのとおり、本書にはFRでの冒険のための情報ばかりでなく、
D&Dそのもののプレイング、ひいては各種ファンタジーTRPGをプレイし、あるいはマスタリングするにも非常に役立つ情報に満ちている。特に2,3,8章あたりは他の世界でも十分応用できる内容だと思う。
 正直、これだけの内容で8000円というのはお買い得とすら言える。
 いやガチで。


 また、来年3.5eが発売になったら投資が無駄になるのでは、という心配をしている人がいるならば、
それは杞憂であるということを申し述べておこう。
 たしかに、3.5eになることで一部のルールは変更され、特技や技能も統廃合される場合がある。しかし、本書においてはそうした変更によって「困ったこと」になる部分はわずかだ
。修正パッチは私家版があちこちで(日本語でも)公表されてるので大きな問題はないと思われる(*12)。
 また、3.5eに変更後、本国ではForgotten Realms: Player's Guide to FaerunというFR紹介本が出ているが、これはFRCSの追加サプリとでも言うものであり、FRCSなしには利用できないものである。 加えて、すでに発売された各種FR関連のサプリメントが本書なしには機能しないことは言うまでもない。





 結論。

 プレイヤーにも、DMにも、そしてFR世界を使う予定のない人にも、この本は安心してお勧めできる。
 そしてD&D初心者にこそ、この重厚なるD&D世界の一端に触れてほしい。









 
いいから買っとけ!
  
8000円分は確実に面白いよ!





(追記)
購入者の言によれば、FRCSの追加サプリメントともいえる「Monster Compendium:Monsters of Faerun」「Magic of Faerun」和訳版が発売予定に入っているようだ。やべえ!買うしかねえ!特に後者はパワープレイヤーのマストアイテムだよ!くそ!



*1:スンマセン。「HJはM:tGをいじってる関係上『お付き合い』としていやいや3eを出すことになったらしい」「HJはとっくにTRPGやる気は無い。数年前のWBあたりで懲りた」なんてうわさを聞くにつけ、「あー、言い訳程度に出版して終了なんだろーなー」とか思ってました。正直スマンかった
*2:以下メンドイのでFRCSと表記。つーかなんでFRWGになったのかが良くわからん。いや、「3.5e対応してて設定などは3.5e版に変更してあるから名前を変えました」とかって可能性もあるのでまだなんとも言えないが。
*3:いーじゃん、月に1冊くらい高い本買ったって。英語版持ってたって読みやすいほうがいいじゃんよ。って嫁の人に言ったら殴られた、って言ってました。誰かが。
・・・・・・・・いや、僕じゃないですよ?
*4:
7人の妹については記述があるが、さすがに12人には及ばない。戦力比で1.7倍もの差がある上、イラストが掲載されていない点から見てもこの方面では完敗である。無念。【何の勝ち負けか】
*5:もっとも多少強力すぎたのか3.5eでは修正(「Persistentは+6に、InnateSpellは該当Slotの消費で1日3回まで(PGtF)もしくは8th以上のSlotを要する(CA)に変化」だそうです)が入った。あとクラスでも「DivineChampionはPGtFにおいてRefがGoodではなかったりになってしまい、幾人ものHFOが希望を絶たれそうな雰囲気」だそうで。_| ̄|○
(通りすがりのおやじさんサンクス!)
*6:この言葉が何を意味しているかは、ヒミツなんですよ。ヒミツだな、う"ぅん。なあBM。【すでにヒミツではなくなりつつある模様】
*7:当然殺す気満々です。
*8:え?そんなことないだろって?ああ、「デザイナーに」って付け加えるべきだったかな。
*9: たとえばCormanthorの有名なローグ/ソーサラーであるJezz the Lameは《特殊武器熟練(ククリ)》を習得してしまったがために、「すべてのダガーに習熟している」はずのローグは解説に「ダガーの一種」と明記されるククリを持つ際に《特殊武器習熟》を習得しなければならなくなった。こうした無法のため、現在Jezzはフェイルーンはおろか、あらゆるプレーンのローグ達から多額の賞金がかけられ、その命が狙われているという。ウソだけど。
*10:ちなみにこれらの神の詳細な解説はFaith&Pantheonsに掲載されている。これ一冊あればFRの神の大半を理解でき、また寺院がどうなっているかとかわかるという非常に良い本なのだが、なぜかさっぱり売れずAmazonでは90%OFFで販売されるという栄誉に輝いた。プレステージクラスとかもそんなに悪くないと思うんだけどなあ・・・・。
*11:もちろん、かの有名な超投げっぱなしイベントTime of Troubleについても説明があります。なんかいま読むとそれなりにつじつま合うような事書いてあって微妙に笑える。
*12:HJの紹介文に「新しい版のために、完全に更新され」ってあったから3.5eになってるのかと思って超期待してたら苦楽さんに「いやそれ英語版の直訳だから、たぶん3eのことだよ」って突っ込まれた。ちぇっ。(苦楽さんありがとう!)
*13:実はアーシマーはDMGに入ってました。ギャー!1モカごっつあんです!