020108

Pulp Heroesで遊ぼう!Dungeon誌#90(のおまけ)Polyhedronより

文責:石川

 最新号であるDungeon誌#90にはイカすおまけが付いている。いつものDungeonとリバーシブルの形で、PolyhedronっていうD20専門誌(今度刊行されるらしい)が読めるようになってるんだ。こいつはクールなアイデアだよ。普段Dungeonを買ってるのはほとんどがDM(よそのゲームじゃGMっていうんだっけ?)だろう。マスターやるようなコアなユーザーなら、ちょっとおもしろい記事が載ってりゃ毎月買ってくれるに違いない――そんなWotC社の作戦なんだろう。

 そして、この号----特別号に記載されているPulp heroesは文句なくおもしろい----少なくとも僕が、以降のPolyhedron誌を毎月買ってもいいと思えるほどには。

さあ、パルプ小説の世界で遊ぼう!

 え?パルプ小説ってなにかって?ああ、ちょっと説明が必要だね。

 パルプ小説ってのは、いわゆるパルプ雑誌に載ってるような小説のことを指す。パルプ雑誌ってのは、その名の通りパルプ紙(安っぽいざら紙)でできてる雑誌で、安いのがウリの読み捨ての本、てのが一般的な見方だろう。英和辞書によれば『(米俗)「低級雑誌」「安本」「扇情的な小説」』なんて書いてある位だから、「三文小説」とか、まあそんな小説だと思ってくれ(*1)。代表的なところで言えばハーメットやチャンドラーのハードボイルド探偵もの、ドック=サベッジのヒーローものなんかが本文の例として上げられてるけど、日本人にもわかりやすいのは映画インディ=ジョーンズとか007シリーズだろう。あるいはこの号の表紙が一番わかりやすいかも知れない。インディ=ジョーンズ風の冒険家らしき男が金髪女性を片手に護りつつ、鉄球を振り回す青銅製のロボット(?)に光線銃を撃つ----こういう「1930年における」近未来的な世界観――「地震発生機」「モグラ型地底探検船」「ニードル銃」など、何でも(ときにばかばかしく思えるようなものまで)ありの世界---のなかで、初期のSFもの、ハードボイルド探偵もの、ギャングスターものを楽しもうってのがこのPulp Heroesなのさ!

 あ、そうそう。

 こいつはD20システムのゲームなんだけど、D&D(3rd)のルールを基盤においてるもんで、「3rdのルール(プレイヤーズハンドブック(PHB)、ダンジョンマスターズガイド(DMG)、Psionics Handbook)がないとプレイできない。マスターはモンスターマニュアルを持っていれば便利だろう」なんて書いてある。もっともMysticを出場させる予定がなければPsionics handbookは必要ないし、DMGにしたってそんなに使うもんじゃないけど、PHBだけはないとプレイが不可能なので、この点は肝に銘じておくように。

 本文は全部で8つの章に分けられている。まずキャラクターの種族、クラス、スキル、フィート(特殊能力)なんてD&Dではおなじみの順でキャラクター作成のためのデータが並べられている。ついでPulp Era----Pulp世界のワールドガイドだ----、金と装備、戦闘ルール、Discovery and power(魔法みたいなもんだ:後述)と、これまたおなじみの並び方でゲームを進めるためのルールが記載されている。こうやって章立てを3rdと同じにしているのは良いアイデアだと思う。3rdで慣れ親しんだ形式で書いてあるから、3rdのルールブックと行ったり来たりしなきゃいけないとき、どこを探せばいいのかがすぐわかるし、3rdのPHBを持ってない人たちに『こんなにもPHBが必要なんだよ』と思い知らせることができるのだから。

 さてまずは種族から。といってもこの世界にエルフがいるわけではなく(残念がってるXXX野郎どもに呪いあれ!)、「どんな生まれなのか」を決める、と言った方が正確だろう(英文も“origin”だし)。各プレイヤーは自分のキャラクターがどんな生まれなのかを「一般人」「隠者」「風来坊」「原始人」などから選ぶ。なんかこの時点でかなりトンでる気がしないでもないが、パルプ小説の醍醐味ってのはこういうごたまぜの雰囲気なんだな・・・・まあ、たぶんね。

 お次はクラス。「探検家」「ギャングスター」「格闘家」「ミスティック」「私立探偵」「科学者」「兵士」のなかから好きな職業を選択できる。クラスにはそれぞれ固有のヒットダイス(ヒットポイント決定のためのダイスの種類)とレベルアップ時にもらえるスキルポイント、特殊能力、防御ボーナス値、知名度などがあり、それぞれ表になっている----まあ3rdと一緒だ。3rdがベースになってるゲームだから、もちろんマルチクラス(複数のクラスに就くこと)だって可能だし、「ギャングスター」のスニークアタック(不意打ちで大ダメージを与える能力)や「格闘家」の素手ダメージ増強など、3rdプレイヤーにはおなじみの能力が記述されている。基本的には似たような名前の職業(ローグ=ギャングスターとか格闘家=モンクとか)に能力が対応しているのでさほど迷うことはないだろう(「兵士」(=ファイター)が他クラスと比べて明らかに見劣りする能力しか持ってないところまで忠実に再現されている)。各クラスにはそれぞれ特徴があり、そのクラスならではの特殊能力が無数にあるので、クラス選択のし甲斐があるだろう(この点では3rdそのものよりも上かもしれない)。

特筆すべきは「ミスティック」と「科学者」の両クラスだろう。

前者は超能力者を指し、Psionics handbookを持ってる人に大きなアドバンテージを与えてくれるだろう。“超能力power”は8章にもいくつか----1レベル用のものだけ----書いてあるので、仮にPsionics handbookを持っていなくてもプレイは可能だが、「ミスティック」のプレイヤーはキャラクターが成長するたびに大きくため息を付くことになるだろう---- Psionics handbookを購入するその日まで。

 一方「科学者」はちょっと特殊なクラスである。彼らはレベルに応じてDiscovery(以下「発明」)を作成できる。「発明」品はちょっとの経験値と時間を費やすことで3rdのメイジ呪文(と同じ効果を持つなにか)を50回まで投射できるものだ(これは3rdで言えば「ワンド」とほぼ同様のものである)。たとえばメルフズアシッドアロー(酸の矢を投げる呪文)を『溶解銃』として作成したりとか。ただし「発明品」は体のどこかにくくりつけなくてはならないため、もてる個数には制限がある(そしてそれを解消するためのフィートもちゃんと用意されている)が、それでも充分強力だ(君がアフガン生まれのテロリストなら、今すぐ『スリープ発生装置』と『ファイヤボール投射銃』を作成することをお薦めする。まあ、『ウイッシュ発生装置』でもかまわないけどね)。おまけにワールドガイドの項には「発明品名称ランダム決定表」もあり、パルプ世界のことを知らない君にもイカした「発明品」が作れること請け合いだ。

 

 さて、この世界は1930年代のSFとかホラー小説(それもどっちかと言えば「三文小説」と言われる類の)なんかにベースをおいている。よって、この世界に生きている者たちは銃や自動車、果ては飛行機を乗り回すことさえ可能なのだ。これらのアイテムを所持できるかどうかは「生まれ」を決定したときに決まる『resource rating(経済力)』による。経済力は『貧窮』から『億万長者』まで7つの階級にわかれ、そのランクに適合する品ならいくらでももらえる、というシステムになっている。マンチな君の「両手にサブマシンガンを持ち、弾を百万発持ち運ぶ」という夢だって、このルールでは簡単にかなうってワケだ。イヤッホウ!自分のランクより高いものを買うためのルールや、経済力ランクを上げるためのルールも完備しているので、頑張れば飛行機の入手だって夢じゃない。目指せリンドバーグ!

 戦闘ルールも1930年代ということを踏まえて、車でのチェイス、車上での戦闘、車でチェイスしているときに起きる事件表などが完備されている(車を使わずに戦闘する方法もわずかながら掲載されているようだ)。また、銃器がある世界なので、キャラクターが死ににくくなるよう(*2)、HPの代わりに「バイタリティ」と「ウーンズ」という2つの生命力が設定され、バイタリティが0になったとき、あるいは攻撃がクリティカルだったときにのみ「ウーンズ」が減るようにルール化されている(そして「ウーンズ」が0になったとき、そのキャラクターは意識を失うのである)。

 かけ足の紹介になってしまったが、パルプ世界の一端なりとわかってもらえただろうか。「D&D3rdを持ってないから」とか「英語だから」と二の足を踏んでる君も、是非チャレンジしてみて欲しい。アメリカ人らしい豪快なアホさ(←ほめ言葉)が炸裂するこの世界は、きっと君の魂を揺さぶってくれるはずだ。ルールや訳の質問はMage advicesでも受け付けてるしね。あちこちにくさすようなことが書いてあるけど、ホントにゴキゲンなゲームだぜ!(そして蛇足ながら、このゲームを端緒にあなたがD&D 3rdに手を出してくれたならこんなにうれしいことはない)

*1:とはいえ、かのH.P.ラブクラフトをはじめとするたくさんの作家により編まれたクトゥルフ神話シリーズも大半はこのパルプ誌出身だし、チャンドラーの探偵シリーズは何本も映画化されているのはご存じの通り。大衆的であるためにやや不等な評価を受けていると感じるのは筆者だけではないだろう。

*2:だと思う。たぶん。むしろ3rdに欲しいルール(笑)。