次元界の歩き方
――― 次元界の書レビュー ―――
040331
文責:いしかわ
先日とうとう和訳された『次元界の書』は、ひょっとしたら君が期待しているようなサプリメントではないかも知れない。
つまり、強力なプレステージクラスやマジックアイテム、新呪文でキャラクターをバリバリ強化し、モンスター(というよりむしろDM)をヒーヒー言わせるようなサプリを期待する君を、大いに裏切る可能性がある。
むしろ本書導入に伴って四六時中炎に包まれた世界に放り込まれたり、ご自慢のブリンクやイーサー・ブラスト、シャドウ・ウォークはただ単に無効化され、クリーチャーは得体の知れないテンプレートをくっつけて出現し、あるいは聞いたこともないような不可解な生物に襲いかかられることを考えれば、相対的に君のキャラクターの地位を危うくする危険すらあるとさえ言える。
しかし、そんな内容であるにもかかわらず、『次元界の書』は、特にPCパーティがミドル〜ハイレベルになってきた頃に、非常に有用なサプリであると断言できる。
いったいこの本の何が魅力なのか?
本稿ではこの本の紹介とともに、『次元界の書』を使ってのプレイングについて触れたい。
次元界って何?
タイトルにもなっている『次元界』とは英語版でいうplaneプレインに当てられた訳語で、おそらくは日本語化に向けた造語だろう(*1)。これまでプレインシフトとか、ゲート呪文、アーティファクトの説明でPHB・DMGに掲載されていたほかにはほとんどお目にかからなかった言葉だが、本書では第1章と第2章で次元界とは何か、次元界同士の関係はどうなっているのか等について触れられている。
次元界とは、その名の通り「界」すなわち「世界」であり、「宇宙」でもある。次元界はそれぞれ異なる本質を持ち、これら次元界が相互に繋がり、織り合わさって一つの『宇宙観』を作り出している。それぞれの次元界にはそれぞれの特長があり物理法則でさえそれぞれ異なっている。例えば火の元素界は常に炎に包まれ、炎への耐性なき者の生存すら許さない。一方、アストラル界は重力も時間もなく、そこには銀色に広がる無限の空と、遠くまばらに見える明滅する色彩の渦だけがたゆたっている。
そして我々の地球にもっとも近いであろう、PC達の住む世界は、これら次元界の一つ『物質界』として分類されている(物質界については第4章で一通り説明がなされているので参照のこと)。そしてこの物質界は、p8「D&D標準宇宙観:大いなる転輪」にあるように、密接し、あるいは遠く離れた様々な次元界に取り巻かれ、一つの宇宙を形成しておるのである。
ではサモン呪文でおなじみのファイア・エレメンタルやセレスチャル・ドッグ、PCたちの強大な敵であるデーモン達も我々と同じ世界に暮らしているのだろうか?
答えは否だ。彼らは普段は火の元素界、七つの層なす天界山セレスティア(*2)、奈落界アビス(*2)に住まい、呪文による招来か、あるいは自由意志によってゲートやポータル、呪文を通じて物質界(あるいは他の次元界かも知れない)へやって来るのだ。
次元界が異なれば、時間の流れ、重力などといった物理法則すらも変化する。
しかし、それぞれの次元界にはその世界に適応した生き物たち(時にそれは物質界の生物そっくりだったりする。多くの場合その次元界にあった形に強化されていたりするのだが)がおり、時に他の次元界へ移動したり、侵略や交易などといった方法で互いに干渉しあっている場合もある。また、物質界で信仰されている神々の住処は多くの場合他の次元界に存在しており、熱心な信者には神との直接の謁見を求めてその次元界へと旅立つ者もいる。
そして当然ながら、PCも他の次元界に旅立つことが可能である。第3章 キャラクターと魔法 には、「旅」の役に立つ新しい呪文やプレステージクラス、そして他の次元界の種族でゲームを始めるための指針などが示されている。特に新呪文にはアテューン・フォームやリヴァイヴ・アウトサイダーなど、高レベルキャラクターの冒険に非常に役立つ呪文がいくつか掲載されている(特に他次元界の環境ダメージの一切をうち消す前者呪文なしに別次元界へ渡るのは結構な自殺行為であるといっても良いと思う)。
大いなる転輪----D&D標準宇宙の成り立ち
さて、前述したように、D&Dにおける標準的な宇宙観はp8の図に示したような「大いなる転輪Great Wheel」に抽象化される。
エーテル界と影界の二つと併存している我らが物質界は、その周辺を6つの内方次元界、そして17の外方次元界に取り巻かれ、その間隙を埋めるような形でアストラル界が存在している。
この図における位置関係はそのまま次元界同士の距離をも示している。例えば外方次元界は図の上で環状に隣接しているが、実際これらの界の末端は互いに通じ合っており、「世界の端」まで歩いていくことが出来れば、そのままとなりの次元界まで移動してしまうことすら可能なのだ。
大いなる転輪上の次元界は、大まかに5つに分類されている。
1.物質界(マテリアルプレイン)
我々のいる世界にもっとも近い物理的性質を備えた世界。通常ならここがホームプレインになる(*3)。
2.中継界(トランシティヴプレイン)
ある場所から場所へと移動する際中継として用いられる界。アストラル界、エーテル界、影界の三つが中継界に分類される。
3.内方次元界(インナープレイン)
宇宙の構成を具現化した界。すなわち元素やエネルギーを具現化した界である。
地・水・火・風の元素界、正・負のエネルギー界がある。
4.外方次元界(アウタープレイン)
神々やその僕(天使や悪魔)のほか、力ある存在が住まう世界。また、物質界を離れた霊魂が最後にたどり着く場所でもある。
セレスティア、アビス、メカヌス、アウトランズなどがある。
5.擬似次元界(デミプレイン)
呪文や神格の力によって、あるいは自然発生的に生じる次元界。たいていは非常に小さく、高位の魔道士が隠れ家にしたり、力ある存在を封印するために用いたりする。
本書はこれら次元界一つ一つの特長と特性、各々の住人達、その界の有名な場所などについて書かれている。詳細な説明は本書を読んでいただくとして、ここではおおざっぱな解説を。
中継界
物質界と隣接した3つの次元界は中継界と呼ばれている。我らが物質界から、直接行き来が可能な次元界はこの3つの次元界しかない、と言い換えてもいいだろう。
これらの中で最も重要なのはアストラル界(p47)だろう。次元界一つ一つを恒星や惑星だとするなら、アストラルは「宇宙空間」に当たる次元界である。無限に広がるその次元界には時間も重力もなく、そこにはひたすら銀色の空が広がり、はるか遠みに管状の雲がゆっくり渦を巻いているのみである。
なぜこんなところが重要なのか?それはこの世界が「宇宙空間」に当たる、すなわち「すべての次元界の合間に広がる次元界である」という点にある。前述のように物質界と直接接しているのは中継界の3界しかない。つまり、物質界のPC達が火の元素界や天国・地獄を訪れなければならない、となったときには、必ずアストラル界を通過しなければならないのである。
また、テレポートやディメンジョン・ドアはアストラル界を通過して物質界を移動する呪文である(SFで言うところのワープという奴だ)。イセリアル・ジョウントとかシャドウ・ウォークとかも同様の方法で移動しているが、それぞれエーテル界(p53)と影界(p59)を通過する点が異なっている。何だ、似たようなものじゃないかとお思いかも知れないが、この「使っている次元界が違う」という点は非常に重要である。
なぜなら、全ての次元と接しているアストラル界を用いる呪文は全ての次元界で使用できるが、一部の次元界としか接していないエーテル界・影界を用いる呪文は内方・外方次元界では使用できないのだ!つまり、エーテル界と物質界を行ったり来たりすることで身を守る呪文であるブリンク呪文や影界の力を用いるシャドウ・エヴォケーション呪文などは、元素界やゲヘナ、アビスなどでは利用できないと言うことになる。
また、エーテル界の住人であるゴーストなどはエーテル界なしでは存在すらできなくなるし、エーテル界の力を利用しているフェイズ・スパイダーや影界の力を利用しているシャドウ・マスチフはただの蜘蛛や犬に成り下がってしまうのだ(どの呪文・能力が使えなくなるかに付いてはそれぞれの次元界の解説に書かれているので参照のこと)。
内方次元界
内方次元界はありのままの形の力が渦巻き、世界を構成する純粋な元素が究極的な形で存在しているものである。6つの次元界はそれぞれが司る物質あるいはエネルギーに満たされており、同時にエレメンタル達の故郷でもある。正直物質界出身のPC達には少々堪える環境であることうけあい。
例えば火の元素界(p74)は炎に満たされており、その中心にはかの有名なイフリート達の住処である黄銅城(シティ・オヴ・ブラス)が存在している。一方で風の元素界(p67)には無限に広がる空(飛行能力を持たない者がここを訪れれば、文字通り「永遠に」落下し続けることになる!)と、ごくまれに宙に浮かぶ土塊に建てられたジン達の要塞があったりする。
外方次元界
17の次元界からなる外方次元界は環状に(あるいは屋根状に、という方が正確かも知れないが)物質界を取り巻く(p8)次元界であり、死者の魂が向かい神の住まう世界----いわゆる『あの世』である。そこにはアビスやハデス、アルカディアやイスガルドといった我々の世界でもおなじみの神界ばかりでなく、メカヌスやアウトランドなどのオリジナルな次元界も用意されており、非常にバラエティに富んだ次元界であるといえる。AD&Dの時代からしっかり作り込まれた各世界であるがゆえに、次元界中に冒険の種があふれている。
イヤな世界環境やダメなクリーチャーの住む次元界ほどしっかり作り込まれているという説もあるが、それはD&Dのお約束というものだ。そのすさまじいまでの特殊な能力や効果を目の当たりにしたら素直に「スゲエ!」と感動しつつ、笑ってパーティメンバーと運命を共にしよう。
外方次元界は次元によっては「階層」を持つ(p87の模式図がわかりやすい)。例えば九層地獄(p114)はその名の通り9つの層を持っているし、アビス(p99)に至っては無限に続く階層を持っていると言われている。また、物質界のように一層しか無い次元界も存在している。
これら次元界は前述したように物質界を環状に取り巻いているが、その一端はp8の図で言えばちょうど逆さにした屋根のように下の方に収束していく。そして、屋根の天辺に当たる部分に存在しているのがアウトランズ(p147)と呼ばれる次元界である。
外方次元界は他の次元界に比べると移動しやすい。環状に連なる次元界はそれぞれの第一層の端で他の次元界と連結しており、「世界の端」まで移動できれば歩いてでも隣の次元界に行くことが可能である。例えばメカヌスからアルカディアへ、九層地獄からゲヘナへと、歩いて移動することも可能なのだ。
また、「屋根の天辺」(「大いなる転輪」との相対関係から「転輪の車軸」という言われ方をすることが多い)であるアウトランズは全ての外方次元界と接続しており、また様々な世界に繋がるゲートを無数に有していることから、様々な世界から商人達がやってくるという不思議な世界を形成している。
本書の中でもっともエキサイティングで、しかも読み応えのある箇所がここであろう。各世界はそれぞれ独特の雰囲気を持ち、「似たような世界」はほとんどないといって良い。同じ「地獄」でもこんなにいろいろあるものか、と思わず感心してしまうほどだ。
またそれぞれの次元界の解説の項には冒険の助けになるような(DMにとってはシナリオ作成のネタになるような)情報が示されており、読み物としても非常に楽しい。
擬似次元界
神や魔道士、強力なマジックアイテムの力によって作られたり、自然発生的に生じることもある次元界。大きさは様々だが通常はごく小さい(ために詩的に『アストラルに生ぜしうたかた』と呼ばれることもある)。通常の次元界には他の次元界に通じる『導管』と呼ばれるものがあるものだが、擬似次元界にはそれすらない場合もある。そうした次元界には出入りすることは出来ないため、その性質を利用して強力なマジックアイテムやアーティファクト、時には神そのものを封印してしまう場合もある。
また、中にはこの擬似次元界の中に独特の世界が形成されている場合もある。悪名高き暗黒と呪詛の世界レイヴンロフトがその好例だ。
ちなみにこれら次元界それぞれにはちゃんとランダムエンカウンター表が付いている。「空以外なんにもない」風の元素界とか「無常なる混沌」リンボにさえ、ちゃんと(それもハンパ無く強力な)エンカウントが用意されているからDMの君も安心だ。どんどん使え。
次元界への旅
さて、旅の準備を終えた君は、長年冒険を共にしてきた仲間達と再び相まみえることにした。集合場所はすでに「塔持ち」となっているウィザードの応接室。
全員が揃い次第、そこから他の次元界に「跳ぼう」って寸法だ。
逸る気持ちを抑えきれずにちょっと早めに家を出たのだが、それでも到着は君がいちばん最後だったようだ。仲間達はすでに顔をそろえ、緊張と、好奇心で満ちあふれた笑顔を浮かべている。どうやら気持ちは皆一緒だったようだ。
塔の主であるウィザードが、手元の呪文書を閉じて立ち上がった。
「全員揃ったようだな」
ウィザードの指示により、パーティは一列の輪になって互いに手を結んだ。輪の中心にはウィザード。彼の持つプレインシフト呪文のスクロールが、彼らを別世界へと誘ってくれるのだ。まだ駆け出しの頃、古株の冒険者達が肴代わりに聞かせてくれた、まるで夢物語のような世界が君の胸に去来する。
・・・・・・ん?待てよ?
「おい、ところで俺達、どこに行くんだ?」 (*4)
冒険者達のやや上気した目が、ふと冷静さを取り戻す。目をしばたたかせ、互いに視線をかわす冒険者達。輪の中心で詠唱を続けていたウィザードも一瞬眉をひそめ、小首を傾げたが、呪文の詠唱を止める様子はない。すでにあたりの景色が曲がったガラス片を通したかのように不規則に歪みはじめており、今呪文を止めたらどんなことになるのか予測もできなかったからだ。
そして、呪文の最後の1語が紡がれた。
詠唱が途切れると同時に、ウィザードの応接室には低く思い音が響き渡り、冒険者たちはあとにかすかな魔法風を残して消え去っていた。
*
「・・・・・ウィザード。ここ、どこだ?真っ暗で何も見えないぞ」
冒険者達全員をめまいにも似た奇妙な感覚が過ぎ去ってから、最初に口を開いたのはローグだった。
呪文が成功したのは周囲が突然暗やみに包まれたことでわかったが、足下がやや不安定になったほかに、わかるようなことは何もなかった。
「なんか変な音が聞こえないか?金属音みたいな。」
エルフの僧侶が幾分おびえを声に含ませながら、誰に聞くでもなく問いかける。
「ああ、待てよ。今明かりをつけるから」
ファイターの取り出したエヴァーバーニング・トーチの輝きがあたりを照らし出す。
しかし、そこには視界の限り壊れた機械に埋め尽くされた地表が広がるばかりだった。
緩く生暖かい風は鉄錆と機械油のにおいを運んでくる。
生物の気配も何もない、あたかも廃品置き場のような空間だった。
「・・・・ん?」
気が付いたのは、鋭敏な感覚を持つ、エルフのモンクが最初だった。
何か動くものがいる。
モンクの指し示す先。そこには彼らの声を聞きつけたのだろう、プラチナ色に輝く虫のような生物が数匹、がらくたの隙間から這い出してくるのが見えた。
虫のような生物----もしかしたら機械仕掛けの戦闘人形かなにかも知れないが----は口元の丸鋸を、まるでPC達との邂逅を喜ぶかのようにリズミカルに回転させながら、遠まきにPC達を取り囲む。
「・・・・ありゃ一体なんだ?」
歴戦の強者である前衛陣はその丸っこく、かわいらしくすらある外見に惑わされることなく武器を構え、敵を観察する。
回転を続ける剣呑な口元は確かに危険そうだが、あの体格ではさほど素早い動きは出来まい。魔法が効くかどうかはわからないが、ドラゴンすらも屠ってきた我らが剣ならば・・・・。
君が剣を握りしめながらそう考えている矢先、何かに気が付いたらしいウィザードが息をのむ。
「逃げろ!あいつはク・・・・」
ほとんど悲鳴に近い金切り声を上げたウィザードは、すべてを話し終わる前に、件の生物が突如として放った閃光に撃たれ瞬時にして消え去った。
いや、消えたのではない。それが証拠にあとには一握の塵と、彼の履いていたブーツが『中身入り』で残されていた。
ウィザードが懐から取り出そうとしていたスクロールが、ばさり、音を立てて機械が原に落ちる。
虫のようなそれは、その姿をあざ笑うかのように、あるいは喜びの歌を歌うかのようにリズミカルに口の丸鋸を回転させ、甲高い音を立てた。
それは、終わりの始まりだった。
どんなイントロだ。とかいうツッコミはさておき、プレインを移動できるようになったPCは、気を付けないと上記のような目に遭うこと必定である。いや、むしろ、彼らはこのような目に遭う時間があった事を幸運と思うべきかも知れない。なぜなら、例えば地の元素界になんの準備もなく移動すれば突然岩の隙間に押し込まれ、身動きひとつできなくなる可能性もある。あるいはゲヘナの溶岩の川の流れる急斜面に放り出され、長く厳しい重力方向への旅を強制されるかも知れないし、有毒なガスのまっただ中に放り出されてじわじわと死んでいくことだって十分あり得る話なのだ。
いくら各々に住人がいるとはいえ、次元界は物質界とは全く別世界であることを忘れてはならない。そこには有形無形の差異がどっしりと横たわり、その違いは時にはPCの生命さえも脅かす。下手をすれば物質界の物理法則すら通用しない。それが他の次元界なのだから。
では、それを避けるためにはまず何をするべきなのか?
まず必要なのは『行き先』の情報であろう。行き先の環境がわかれば、本書に掲載されている耐性呪文(アヴォイド・プナイナー・エフェクツなど)で環境によるダメージを回避することが可能になる(*5)し、どんな敵がいて、それに対してどんな準備をしておけばよいのかがわかる。例えばエーテル界に移動する際、エーテル界の住人であるイセリアルクリーチャーがどんな特徴を持っているかがわかっていれば、ウィザードはいつものファイヤーボールより、マジックミサイルやウォール・オヴ・フォースなどの[力場]呪文が効果的であることに容易に気が付くだろう。
こうした知識は基本的には〈知識(次元界)〉からもたらされる。PHBp70によれば、「基本的な知識は難易度15でわかる」ということなので、プレインシフト前にはDMにチェックを要求しておくと良いだろう。
しかし、チェックに失敗したとか、そもそも〈知識(次元界)〉なんて取ってる余裕ねえよ!てな人もこの世にはあるだろう。そりゃそうだ。これまで和訳されたサプリだけで考えれば、〈知識(次元界)〉なんて技能、〈職能(積み木)〉とか〈芸能(南京玉すだれ)〉ぐらいの役にしか立たなかったのだから(これらの技能の方が糊口をしのぐ役に立つだけいくらかましという考え方すら出来るかも知れない)。
そう言う人は、酒場で飲んだくれている先輩冒険者や図書館、魔術師ギルド、(もしその世界が神の住まいであるなら)関連する神の神殿などで話を聞いたり金を払ったりする事で、その界に関する重要な情報が得られるだろうし、バードの知識や占術系呪文でも同様の答えが得られる場合もあるだろう(特に「助言を求める」タイプの呪文であれば、準備すべきものについてのヒントも得られるかも知れない!)。
また、その次元界にはちゃんと空気はあるのか?気温、気圧、重力はどうか?魔法はどのように振る舞うのか?etc.etc. 一度得られた情報を元に「どんな準備をするべきか」を考えるのも重要である。
特に魔法の変化は術者にとって致命的な変化をもたらすことに注意。界によっては頼んでもいないのに特定の呪文の威力が最大化・高速化されたり、逆に全く働かなくなる場合だってある。特にエーテル界ならびに影界に根ざした呪文を得意とするPCは外方次元界や内方次元界を訪れる際には十分な注意が必要である。なぜなら、これらの次元界は物質界とは異なり各次元界と隣接しておらず、その影響力を物質界同様に行使することが出来ないからだ。よって、例えば君のイリュージョニストのシャドウ・エヴォケーションやシャドウダンサーの影歩き、ウィザードのイセリアル・ジョウントなどは一切効果を発揮しなくなる。特に、移動や防御をこうした呪文に頼っているキャラクターは大幅に戦力ダウンすることとなるので、持っていく呪文やアイテムの組立を十分考えた方がいいだろう。
ちなみに、こうした環境の差異については本書の各次元界の解説にまとめて書かれているので参照のこと。
ついでにいえば、可能ならその次元界での生物相も調べておくことをお奨めする。例えばアビスに行くのに対デーモン用の呪文を用意しておかないのはマズイだろうし、逆にセレスティアでもプロテクション・フロム・グッドやロウを用意しておいた方がいい。天使は存外狭量で、他者、それも下等な物質界の人間ごときの意見に耳を傾けようとしないという事実に直面したときに、きっと有効に機能するだろうから。また、次元界によっては特定の宗派や種族が優勢な場合もあるので、それに敵対する(あるいは敵視されている)PCは自分の素性を知られないようにする必要があるかも知れない。
さて、上記イントロで示した例は行き先の次元界について何一つ知らない(というより考えない)で移動してしまったものであり、実際のプレイングではこういうことはまず起こらない。たぶん。てゆうかそう信じたい。
しかし、プレインシフトに潜む危険はこれだけなのか?
君のパーティの備えは、本当に万全といえるだろうか?
例えば、プレインシフト呪文の記述を読むと「意図した目的地から5-500マイルのところに現れる」とある。この事実はプレインシフト呪文を使用する際には、術者は少なくともシフトした人数全員を転移できるだけ移動呪文(テレポートなど)が使用できなければならないということを示唆している。
考えてもみるがいい。5d100でズレの距離を決定ということは、平均すれば253マイル離れた地点に出現するということだ(*6)。この距離は、どんな軽装備でも通常なら1日に24マイルしか歩けない君のPCが勝手のわからぬ異世界をほっつき歩くに少々酷な距離だと思うのだが。
また、目的地が術者のよく知った場所ならともかく、はじめてゆく世界であった場合などは、これに加えてヴィジョンなどの目的地を知るための呪文を用意する必要があるだろう。行く先のことを知らずしてテレポートを行えば悲惨なる運命が待ち受けているのは必定である。決して忘れないこと。
さらに、プレインシフトする前に、パーティ全員を飛行状態にしておくこと、そして可能ならインビジビリティ・スフィアなどで姿を隠しておくことをオススメする。先ほどプレインシフトの到着地がずれるという点に触れたが、このズレが水平方向には限らないという点を忘れてはならない。意地悪なDMなら、プレインシフト直後に嬉々として「垂直方向に150マイルずれたよ!」なんて事を言い出しかねないのだから。
また、仮に君のDMが温厚な好人物で「水平方向にしかずれない」と裁定してくれたとしても、ずれた先に何があるかはわからない。運が悪ければ大洋の真上や魔物の昼食会のまっただ中、前述ゲヘナの坂や崖の真上に転移することだって考えられる。もしそんな不幸な事態に見舞われたなら、転移終了と同時に君は新しいキャラを作成するハメに陥るだろう(*7)。もちろん相手によってはインヴィジビリティの類は効果を発揮しないかも知れないが、出来ることをしないで後悔するくらいなら出来ることを全力でやっておく方がいいのは間違いあるまい。もちろん可能であれば護衛&囮として召喚獣をサモンしておくとか、防御系呪文をキャストしておくなど出来ることは無数にある。
備えあれば憂い無し。君の身を守る者は君しかいないという自覚を常に持ち、がんばって己が身を守ってほしい。
で、何しに行くのさ?
さて、身を守る術を固め、安定した旅が出来るようになればこっちのものだ。
君は次元界を行き来する楽しみを味わうことが出来るようになる。
もちろん、各次元界は物質界よりはるかに危険に満ちていることが多く、その旅は決してなまなかなものではない。
しかし、物質界にはない産物や魔法の物品、そして遠い昔に忘れ去られたはずの知恵と知識が、未だに次元界には眠っているかも知れない。
最後に、PCにとっては「次元界旅行の理由/目的」となるもの、そしてDMにとってはシナリオソースとなり得るものを列記しておこう。ごく一部ながら、『次元界の書』をひもとくことで可能にある冒険のアイデアである。プレイの参考にしてほしい。なお、(p***)とあるのはMoPの参照ページ数である。
・買い物に行く
アウトランズのシギル(p149)、ゲヘナの第一層は涙滴宮のバザール(p112)、セレスティア第1層はマールヘヴィク城(p133)は、外方次元界でも高名な『販売所』である。特にシギルはあらゆる次元界に通じるアウトランズらしく様々な次元界の商人が持ち込んだ商品と手広く扱っていることで有名である。また、価格を気にしさえしなければそんな商品も―――盗品の故買品としてだが―――手に入るといわれる涙滴宮のバザールも、珍しく貴重なものが手に入る場所として知られる。
変わったところではカルケリの第2層「罪業の薬屋」(p105)では、「シンメイカー」と名乗るデーモンの手によって尋常ならざる毒までもが取り引きされているという。
・移動のため
何らかの理由で特定の場所に行けないような場合でも、次元界に抜け道が見つかる場合もある。物質界でいえば、エーテル界からの侵入は行き先をよく知らないと使えないテレポートによる転移よりも安全で確実な場合もある。
また、アウトランズのシギル(p149)は“扉の街”としても知られており、宇宙の至る所に通じるポータルが街中にあるという。
また、隣の次元界へ歩いて移動できる場合もあるし、次元界によってはそこを貫く川(かの有名なステュクス河など)を船で移動することも可能である(そのリスクはきわめて大きいものだろうが)。
・治療に行く
セレスティアはエムピレア(p133)には無数の泉が存在し、それぞれが特定の病気を癒す魔法の水を湛えているという。通常の手段では直らない病気であっても、ここの水があれば治療できるかも知れない。
また正のエネルギー界(p82)に住まう聖なる騎士と癒し手によるホスピス(p84)は他の方法では直せないような病気を治癒することの出来る呪文や治療法を身につけていることで知られている。
・古の英雄を求めて
英雄界イスガルド(p89)は、英雄達が集って永遠に戦い続ける世界である。この世界では四肢が失われるほど傷でさえ自然に治癒し、死者すら翌朝には蘇生しているのだ。力と勇気の神たるコードはあらゆる世界の英雄を集めては毎夜宴を催し、そして時にはレスリングや剣の腕を競うのである。
祝福の野エリュシオン(p138)は善の属性を持つ者が安らかな最期を迎えるために訪れることがあるという―――ときに強力な善の力に捕らわれてエリュシオンを出られなくなっただけのものもいるようだが。ちなみにこのように訪れたものを捕らえて逃さない特性を持つ次元界には他にカルケリ(p104)やハデス(p107)がある。
・強力な存在に助力を求めて
前述したように、外方次元界には神格が住んでいる。神格に直接の助力を得るには相当な苦労が必要だろうが、その見返りは強大だ。例えば死の神ネルルの鎌を借り出すことが出来れば、あらゆる者を殺すことが出来るといわれている。また、その神格に近しい強力な存在や、もっと手っ取り早くフィーンドやデヴィル・デーモン・セレスティアルクリーチャーとの交渉のために次元界を訪れることもあるだろう。
一方で、次元界によってはその次元界に反する者を捕らえ、封じている牢獄のような場所を持つ場合がある。前述カルケリ(p104)やハデス(p107)にもそうした囚人はいるし、エリュシオンはベリエリン(p140)の囚人にはかつての下方次元界の大公や傷ついた神格すらいると伝承されている。
・失われた知識を求めて
前述「捕らわれ人」や「囚人」、神格や強力な存在が、すでに物質界では失われた知識を持っているかも知れない(バード知識や占術で誰が知っているかを探したら多次元の世界にいた、というのはよくある話ではある)。
また、メカヌスの「規律正しき啓発の要塞」(p129)やセレスティアのマールヘヴィク城(p133)、アウトランズの伝承図書館(p149)などはその知識の集積で高名であるし、アルカディアの大聖堂(p131)におわす聖カスバート神は英知の神として知られており、神やその神官の言葉には大いなる知恵が含まれていることだろう。
他にもシナリオソースになりそうなもの―――ぶっちゃけた言い方を許されるなら、面白そうなものは本書のあちこちに無数にちりばめられている。
また、本書にはこれらの世界をベースにした、ちょっと変わった世界をプレイする場合の指針や選択ルール、あるいは一から宇宙を構築する際のヒントや世界の例なども示されているので自作派の君も安心だ。
『次元界の書』は非常におおざっぱで、しかも情報量が多い本であるがゆえに、読者に読みづらい印象を与えることもあるだろう。しかし各々の次元界は魅力に富んでおり、単に読み物としても、また冒険のアイデアソースとしても充分耐えうる内容に仕上がっている。
また、少しの資金(*8)と英文を読む労力を払えるなら、各次元界における過去の遺産―――膨大な蓄積量を誇るデータ(サプリメントやシナリオ集)を利用できる点も見逃せない。
さあ君も――――レッツプレインシフト!
*1:まあ、たぶんね。とりあえずぐぐってみたところ、『次元界の書』について述べてるサイト以外にはうさんくさい宗教関連のサイトしか見つからなかったので(笑)。
*2:ここ以外の場所に住んでる場合もある。詳しくは本編参照のこと。
*3:DMによってはギスヤンキPCでアストラル界スタート、なんて場合もあるだろうが。
*4:実際行き先を知らずにプレインシフトできるかどうかは不明(笑)。焦点具に使う金属棒くらいしか規定する物がないんだよなあ。テレポートみたく「行き先を知らないとどっかに飛ばされる」ルールもないし。スクロールならあり得る・・・のか?
*5:まあアヴォイド〜は行き先がどんなところかわからなくたって機能はするんだけどね。
*6:あってるかどうか自信なし(笑)。誰ぞ算数得意な人、計算してんか。【投げっぱなし記事】
*7:ちなみに件のゲヘナの坂はどこも45°の傾斜を保っており、滑り落ちれば10d10ダメージか、溶岩の河に落下する事になっている(MoP:p112)。いや死ぬだろフツー。
*8:昔は個人輸入などでサプリメントを購入しなければならず、ずいぶんな金額が必要だったが、現在ではpdf版が安価にダウンロードできるようになった。良い時代になったものである。