日本語版
グレイホークワールドガイド

Gary Holian ,Erik Mona ,Sean K Reynolds ,Frederick Weining 著

全192ページ+カラーマップ1枚

定価3800円


特別付録 「はじめてのキャンペーン講座」

2004/02/07
by B.M


世界を創造せよ!
ついに出た日本語のワールドガイド
FR(フォーゴトン)の方を期待していた人も多いと思いますが…なかなかどうして
グレイホークも味があって面白い世界ですよ
この本さえあればキャンペーンが開始できるといっても過言じゃない!!


内容
この本は全部で7章、それに付録という形で構成されています。

第1章 グレイホークの世界
 グレイホークの世界観、気候、暦といったことについて少しずつ紹介されています。1週間の呼び名や祭りの名前と言った要素はキャンペーンの雰囲気つくりには必須でしょう。
第2章 フラネスの住人たち
 オアリディアン、オーマン、スエル、バクルーニー、フラン、レンといった人間の主要6種族。それからエルフ、ドワーフといったPC用種族。そしてゴブリンやノールといったNPC用種族についての紹介です。フラネスで使われる言語についても紹介されています。
第3章 歴史
 災害と移住から始まる約1000年間のグレイホークの歴史につい簡潔にまとめられています。もっとも有名な戦争である「グレイホーク戦争」も紹介されています。
第4章 フラネス・エリア・ガイド
 おそらくこれがこの本のメイン記事でしょう。100ページを超す詳細なフラネスの地域ガイドです。
 フラネスの様々な国家(及びそれに類似した組織)に関して【正式名称、支配者、政治形態、首都、主な町、行政区分、資源、貨幣制度、人口、言語、アライメント(属性)、宗教、同盟国、敵対国、概要、歴史、抗争と陰謀】の各項目に渡って精密に描写されています。
 この章を読めば、たとえば『グレイホーク自由都市は商人ギルドや魔法ギルド、宗教ギルドの代表者による会議で統治されているのだな』とか『ニロンドには 12の行政区分があり、混乱しているのだな』とか『やっぱりパワーJじゃなくてポマージなんだな…っていうかオーク帝国じゃねぇかここ!』などといったこ とが分かります。
 選んだ一つの地域でキャンペーンを始めるのに十分な情報量が詰まっていると言えます。
第5章 フラネスの地理
 キャンペーンをやるとしたら欠かせないのが地理。この章ではフラネスの各地域が森林、山岳、丘陵といった各地形ごとに分かりやすく分類されています。検索しやすいのでとても良い感じです。
第6章 パワー・グループ
 フラネスで力を持っている12の組織についての解説です。フレーバーとして使うもよし、どれかを中核に据えてキャンペーンを始めるもよし、敵として出してPCを困らせるもよし。
 かの有名なモルデンカイネン先生の”サークル・オブ・エイト”も紹介されています。
第7章 グレイホークの神々
 神々についての簡単な記述があり、Domain(領域)と神性武器ついて説明されています。クレリックには必須ですし、自分のPCに神を信仰させたい人も参考になるでしょう。1つ1つの説明は短めですが、そのぶん数は膨大です。まさに多神教といった感じがよく出ています。
付録
リヴィング・グレイホーク・
キャンペーン
 最初の方は日本には関係無さそうな記事ですが(ぉ
むこうでどのようにしてグレイホークがプレイされ、拡張されているのかを知る良い資料です。
また、キャラクター作成ガイドラインが若干載っています。
索引・その他
 最後に控えるのはしっかしりとした索引で、人名・地名はもとより有名なアイテム、モンスター、事件なども網羅されています。
 表紙と裏表紙の裏には紋章リストがあります。ビッシリと描かれた紋章を見ていると、あちらの人は紋章好きということにも納得できます。好きやのうー。
 付属のカラーマップは 色味はアッサリですが都市の位置関係はバッチリ分かります(むしろそれがメインでしょう)。ヘクスに描かれているのでキャンペーン中に都市間の距離を知り たくなったときも簡単に調べることができるでしょう。ところで、ヘクスの数え方(”ヘクス54B”など)が載っているにも関わらず本文中にはその数え方で 場所が表記されていないですね。んー、トラベラーみたいにしっかり書いてあると便利なんだけどなぁ…。たとえばグレイホーク市の説明のところに”場所:ヘ クス28Y”とか。


総評
 TRPGで使うことを考えるとこの内容は文句のないものだと言えます。プレイする際に必要な世界のソースがしっかりと網羅されています。よーくゲームを知り、かつプレイしている人たちが厳選して書いた情 報だというのがわかります(これはRPGAネットワークの功績でしょう)。特に何が…というわけでもありませんが世界設定集というのはその作者の”言いた いこと”だけが羅列されている場合が多く、使い勝手にまで踏み込んでデザインされたものは数少ないと言えます(※1)。その点この本の使い易さというのは 特筆に価すると思います。

 これだけの内容で3800円というのも素晴らしいと思います。シナリオの倍の価格なのですが、ページ数も内容も倍どころじゃない充実ぶりです。ハッキリ言ってお買い得。素晴らしい!。

 また、それぞれの情報が”生きた”使える情報ばかりであるというのも素晴らしいところ。メインの4章(地域ガイド)の「主な町の人口」は即ゲームで使い ます。「貨幣」の名前が国によって詳細に決められているのも便利です。プレイ中に『それは50ガルだ!』などと雰囲気のあるセリフを吐けるようになりま す。その国で主に使われている「言語」は追加言語を取りたくなったPCの良い指針になるでしょう。そしてなによりマスター用の細かい「地域の歴史」や「行 政」といったシナリオ作成に必須の情報。本当に痒いところに手が届くという感じがします。
 反面、アッサリしているなぁと思ったのが第7章の神々。必要最低限の情報(神の立ち位置や教義、シンボル、崇拝する人種など)はありますが、神話や神々の関係など、シナリオに使う部分はもうちょっと突っ込んで書いて欲しい気もします。

 この本を使えばすぐにでもグレイホークでのキャンペーンを始めることができるでしょう。
 D&Dのキャンペーンをやってみたいけどセッティングが大変そうで…と、足踏みしているアナタ!
 この「グレイホークワールドガイド」でキャンペーンを始めましょう!





特別付録 「はじめてのキャンペーン講座」
実践編〜グレイホークキャンペーンの始め方〜

では、3分クッキングよろしく「グレイホークワールドガイド」を使用して速攻でキャンペーンを開始する方法を紹介しましょう。
これならば数日、いや1日の準備でキャンペーンを始めることができます。
キャンペーンをやったことが無い人もこれを読んでパパっと始めてしまいましょう。


(1)キャンペーンの雰囲気を決める
 なんとなく、でいいのでまずどんなことをやりたいか明確にしておきましょう。ヒロイックなのか?それともコミカルなのか?。ダンジョンを中心にするの か、それともシティアドヴェンチャーを中心にするのか?。謎解きと陰謀なのか、それともハック&スラッシュなのか?。簡潔にキャンペーンの方向性をまとめ ましょう。あまり長ったらしく、複雑なものにしてはいけません。最初はごちゃごちゃと長ったらしいテーマを考えてもまず成功しません!!(笑)。ポイントは”なるべく簡単に”です。できれば一言で済ますくらいのがいいでしょう(たとえば「陰謀と裏切りの渦」、「痛快なアクションもの」、「戦闘とアイテム」、「ダンジョン」etc)。
 これさえしっかりしていれば後は突き進むだけです。

例)
新米DMのデイヴは陰惨で猟奇的なキャンペーンを始めたいと思った。
テーマは要約すると”血”になるだろうか?。
PCもNPCも血まみれになり、その愛憎と謀略が渦巻く中で悲惨な事件が起きるのだ。
デイヴはこれから始まるキャンペーンにワクワクした。





(2)場所を決める
 まずは地図を見て、シナリオで使えそうな地形を探します。森の近くでやりたいなら森を。大都市を舞台にしたいなら大都市を探します(☆印の”首都”が大 都市の可能性が高いでしょう)。フラネスには平原、草原から砂漠、沼地まで幅広い地形がありますのであなたのキャンペーンに合う様な地形を見つけるのは容 易でしょう。
 どうしても見つからない時は索引をパラパラとめくりながら眺めるのも手です。きっとキャンペーンに沿うようなフレーズが目に飛び込んでくることでしょう。
 え?それでも決められない?。優柔不断はDMの敵ですぞ。
 そんなアナタはグレイホーク(都市国家連合)を舞台にするといいでしょう。
 なぜなら一番有名だからです。言うちゃ悪いけど間違いない!!。

例)
地図を眺めていると”恐怖森林”というおぞましい素晴らしい名前が目に付いた。
デイヴはそこを冒険の舞台にすることに決め、近くのキーオランドを冒険者のホームエリアにすることに決めた。






(3)説明を読んで発展させる
 場所が決まったらその地域の説明を読んでキャンペーンの骨子を考えます。どのようにキャンペーンが進むか、キャンペーンの中心となる出来事は何かを考え ましょう。やりたいことができるように設定をすり合わせるといいでしょう。これを逆(説明を全部読む→場所を決める)にすると全てを理解するのに膨大な時 間がかかります。その方が整合性がある奥深いキャンペーンができるでしょうが…最初からそんなものをやろうとするとロクなことになりません(笑)。お りゃ!と決めて男らしく見切り発車してしまいましょう。大事なのは”振り向かない”ことです。もしかすると、その方が勢いがあって良いキャンペーンになるかもしれませんよ?。

例)
デイヴは便利な索引を駆使してキーオランドが47ページにあることをつきとめた。
説明を読んでみると、とても古い国だということが分かった。
【古い国→古い因習→血の宿命→ウヒョー!!】デイヴの腐った頭はすぐに邪悪な想像をした。

さらに歴史を読み進めると”憎悪戦争”というよだれが出そうになるほど甘い単語を発見した。
人間以外の種族とウレク各国が戦った、とある。キーオランドはここで日和見をして嫌われたらしい(笑)。
これをキャンペーンの根底のテーマにしようとデイヴは考えた。

さらに現在の「抗争と陰謀」の欄を読むとウレクとキーオランドは現在緊張関係にあるという!。トレビアン。
”憎悪戦争”で虐げられた人間以外の種族がウレクに復讐するために動き出すのだ。
そう、そこにはキーオランドに伝わる大いなるデミヒューマンの秘密が絡んでいるのだ!(それについてはデイヴも良く知らない)。





(4)シナリオを考える
 あんまり最初から全体を考えない方がいいでしょう。その方が突発的なPCの行動に対応しやすくなりますし、プレイ中に活発なアドリブも効かせられること にもなります。シナリオは1〜2話ぐらいを考え、あとはキャンペーンの大筋だけメモしておけばいいでしょう。最初から全30編からなる大抒情詩を紡ぐのも 結構ですが、そうするとストーリーラインを守るためにシナリオが一本道になりがちです(※2)。失敗するかもしれないのだから余分な準備はしないにこしたことは無し!。つま り、ここでもキーワードは見切り発車!(笑)(でたとこ勝負とも言う)。
 地域の説明のところにはあちこちにシナリオに使えそうなフック(ひっかかり)があります。それらをチョイスすれば始めのシナリオになるでしょう。キャンペーンなので第2話へのつなぎくらいは考えておきましょう。

例)
「抗争と陰謀」には”南方でモンスターが暴れている”とある。
まずはこれでPCに”モンスター退治”でもやってもらって肩慣らしをしてもらおうとデイヴは思った。
しかし、このキャンペーンのテーマは”血”である。単純なモンスター退治にすることはデイヴのちっぽけな脳の中のさらに小さな小さな美意識というヤツが許さなかった。いわゆる美しくないというやつである。
そこで、ある辺境の村で”先祖帰り”を起こしてしまった村人が山に逃げ込んだ話にすることにした。
PCは怪物退治ということで村を訪れる。
だが、怪物になった村人の娘がPCを追い返そうとする!。そして村で発生する猟奇殺人事件!
とまぁそんな感じで陰鬱になるようにデイヴは腕によりをかけてシナリオを書いた。
第2話へのつなぎはこの場合簡単である。
“憎悪戦争”の元にもなったデミヒューマンの”大いなる3つの秘密”がこの先祖帰りにも関係しているのである。
もしかするとウレクに対抗するデミヒューマン勢力(の組織?)がこれを裏で操っていたのかもしれない。
そういった情報を撒いて第2話へとつなげるようにしようとデイヴは思った。




(5)まとめ
 と、まぁこんな感じでサックリとキャンペーンが始まると思います。簡単でしょう?。
 まずは最低限のことだけを決めて第1回セッションをやってしまいましょう。そしてプレイ後にPCの反応などを見つつストーリーを練っていけばいいでしょ う。また、「グレイホークワールドガイド」を全部読む必要も全くありません。情報量は膨大ですが、使うのはそのうちのごく一部。使う所だけを読み、情報が 必要になったら読めばいいのです。

 …少しいい加減過ぎるような気もしますが(笑)。なにより”キャンペーンは難しそうだから”と敬遠してしまうのが一番良くありません。それは非常にもっ たいない。最初のキャンペーンなんて破綻して当たり前、失敗は序の口、崩壊してナンボです。ガンガンやって経験を積みましょう。 

 『世界を創造せよ!』
 さあ、キャンペーンを始めよう
 創造者であるあなたにすら予期しない出来事が数々の冒険を彩っていくだろう
 それはかけがえのない宝石のようなひとときとなるだろう
 恐れるな 前に進め
 君の前には広大なグレイホークの世界が広がっているのだ!

例)
 デイヴのキャンペーンもついに佳境に入った。次回のシナリオでは壮絶な殺し合いと血みどろの陰謀の挙句、おそらくNPCが10人前後死ぬだろう。最終回間際でたくさん殺すのはデイヴの(小さな小さな)美学というやつである。デイヴはニヤニヤしながら殺すNPCを決め始めた…彼にとって至福の一時である。
  デイヴはヒマなときに「グレイホークワールドガイド」をパラパラとめくっては読んでいる。キャンペーンを進めるうちに本文と若干のズレも生じてきたが、デ イヴは細かいことは気にしないことにした。キャンペーンは上手く動いている。それが大事だ。ページを適当に開いていると”キーオランドの物言わぬものたち”という項目が目に入った。ほほう。そんな組織があったのか!!。これはきっと”大いなる7つの秘密”を解く鍵を握っているに違いないな…。
 デイヴの”世界の創造”はつづく。






※1 ソースの利便性
まぁ、その世界の創造者のはっちゃけぶりが面白ければそれでいいのですが…
とはいえゲームをプレイする際に便利かどうかはまた違う次元の話であって。
使い易いソースってありそうで無いよーな。


※2 一本道うんぬん
プレイヤーが納得するのであればそれもアリでしょう。