キャラクターは”作る”ものではなく”創る”ものである。
作成ではなく創造。
そう感じている人には是非読んで欲しい内容のガイドブックだ。

ヒーロービルダーズガイドブック
Hero Builder's Guidebook(HBG)
Ryan Dancey,David Noonan,John D.Rateliff 著
キャラクター作成ガイドブック
64ページ

2002/9/9
byB.M

はじめに
この本はサード全体の中で重要な意味を持つと思う。

TRPGというのは基本的にはロールプレイとゲームを両立させるものだと思う。
そのバランスは人それぞれだろうが、どちらかに偏りすぎてしまっているものはTRPGとしてどうかと思う。

サードはやや偏っているのでは無いかという印象を受ける。
現にサード発売からかなり時間が経ち、様々なサプリメントが出版されたがロールプレイに関する本はこのHBGぐらいである。
これは少々寂しい。

「ロールプレイに関する考え方やセオリーなどはセカンドの時代にほぼ完成し、サードではあえて復習しなかったのだ。」

そういう見方もできないことはない。
現に以前からのTRPGプレイヤーはその辺を十分にわかってプレイしているのだと思う。
が、それにしても新しくTRPGを始めようというプレイヤーに対しては配慮不足ではないかとの印象を受けた。
新規参入者の視界を狭めることになってはいないだろうか?。

あくまでもサードのサプリメントはパワー嗜好、追加されるものはキャラクターの強化案。
何かこの状況と某カードゲームの末期の粗製濫造とがダブって見える。
サード(TRPG)をカードゲームと同じように一過性のものとして消費してしまうのではないかという恐るべき危惧が私にはある。
陳腐な言い方だが、バブルはいつかはじけるのだ。

パワープレイの楽しさは否定しない。
現に私はコンピュータゲームやカードゲームでそれを堪能している。
その風味をTRPGに持ち込むことにも特に異論は無い。
楽しければいいのであるから。

が、やはり要はバランスである。
ロールプレイだけに偏っても、ゲームだけに偏っても、TRPGは真の面白さを与えてくれないと私は思う。
今のサードはやや偏っている傾向にあると思う。

サードの流れを客観的に見ての私なりの結論である。
で、あるからこそ、この本の存在をここで主張しておきたい。
サードにも良心はあるのだ、と。
 

本の概要
キャラクターに厚みを与え、活き活きとしたものにするためのガイドブックである。
キャラクター作成の指針や、背景設定の手助けとなるマテリアルが満載で、はじめてサードをプレイする人は必読の内容である。
…この内容がPHBに入っていないことに疑問を感じる。
これすらもサードにおいてはヴァリアントでありアペンディックスなのだろうか。
TRPGにおいて極めて普遍的な内容を取り扱っていると思うのだが…。

ハッキリ言ってこの本によってキャラクターが”強く”なることは一切無い。
それを期待しているならば、このガイドブックを買わない事を強くオススメする(笑)。
 

ローリング・ユア・アビリティ・スコアズ(能力値を振れ)
ここで紹介されていることは能力値の意味、振り方、といった基本的なことから”能力値の紡錘分布”などという数学的な説明まで幅広い。
”低い能力値をどうするか?”、”あなたのキャラクターはあなたでは無い”といったコラムも興味深く、役立つこと間違いなし。
これらはサードプレイヤーならずとも押さえておきたい内容なので、興味があれば(知らなければ)一読を薦める。
 

チョージング・ユア・レイス・アンド・ユア・クラス(種族と職業を選べ)
この章はレイス(種族)とクラス(職業)の説明。
それを組み合わせた”人間の戦士”や”エルフのメイジ”などが各々詳細に解説されている。
これは全ての組み合わせを網羅しており、”ハーフオークのバード”などといったキワモノまで説明されている。
レイスとクラスの説明が詳細に、そして明瞭にまとまっているのが素晴らしい。
自分でやりたいと思っている組み合わせの情報がすぐに手に入るようになっている。
ゲーム慣れしているプレイヤーならともかく、最初はこのレイスとクラスというのは大いに迷うもの。
そんな時はこの章を読んで参考にすると良いだろう。
 

クリエイト・ユア・パーソナル・ヒストリー(背景設定の創造)
私の一押しなのがこの章。
キャラクターのバックグラウンドを決める(ランダム)チャートで、サイコロを振るのがなかなか楽しい。
そういった背景設定の決め方がまったく分からない初心者から、”決定した設定を自分なりに消化して楽しむ”という楽しみ方ができるベテランプレイヤーにも推奨できる。
あくまでも自分で決めたいプレイヤーには無用の長物だろうが、どのような背景の例があるかの参考にはなるだろう。
全てをチャートで決めるのではなく、一部だけ(家族だけ、出身地の設定だけetc)使うのも良いと思う。
プレイヤー次第でいくらでも使える便利なチャート類だ。
サード以外のファンタジーゲームにももちろん流用可能。
これは素晴らしい!。
 

セレクティング・アン・アライメント(アライメントを選択)
アライメントはサード(D&D)のわかりにくいルールの1つである。
便宜上”性格”と訳されたりするが、実際にはそう簡単に表現できるルールではない。
”属性”というか”信条”というか”キャラクターの行動の指標”のようなものである。
非常にわかりにくい(笑)。

この章では”あなたのキャラクターはどう考えているか?”という質問に答えることによって、キャラクターのアライメントを決めることができる。
しかし、アライメントというのはキャラクターに大きな影響を与えるものなので、このようなチャートで決めることには抵抗があるかも知れない。

そもそもアライメント自体がTRPG(というかD&D)では論議の元となるものである。
このレビューではアライメントの是非や使用法については述べないことにする(※1)。
この章ばかりはDMとプレイヤーの好みで、と言うしかない。
まったくのサード初心者に対する一種の解答にはなっていると言えるが。
 

プラニング・ユア・フューチャー・キャリア(将来設計)
”究極のアーチャー”、”スワッシュバックラー”、”死霊使い”などといったキャラクターのタイプを示し、それぞれを実現するためのフィートやスキルの組み合わせを提示している。
いわゆるプレステージではない。
プレステージを使わずにPHBの範囲内でキャラクターの個性を実現するというやり方だ。
キャンペーンスタイルによって、プレステージを使用しないと言う選択も有り得る。
そういう時はこの章が役に立つだろう。
 

付録:ザ・ルール・オブ・ザ・ネームズ(名前の法則)
これは文句無く便利!。
キャラクターに付ける名前の例や、その付け方について詳しく説明している。
名前のサンプルリストは種族別になっており、大変に有用である。

欧米の人でもこのようなガイドを必要とするキャラクターの名前付け。
我々日本人にとっては、より困難であるのは間違いない(笑)。

この章を参照しながら付ければそれらしい名前になるのではないだろうか?。
(サンプルは大量にあるのでそのまま使ってもいいし)
 

まとめ
どうだっただろうか。
あなたのプレイスタイルに必要なものだっただろうか?。
それとも周知の事実ばかりだっただろうか?

ある程度ゲームに慣れているプレイヤーでも、慣れているがこそ見落としている”初心”を見つけることができるかもしれない。
ありきたりのキャラクターに飽きてきたら、このガイドブックを紐解いてみよう。
倦怠期のあなたの刺激になるかもしれない。

やや薄いガイドブックなのでボリューム不足の感は否めない。
しかし”ヒーローをビルドアップする”という作業の大いなる助けになることは間違いない。

サードのサプリメントの中では文句無く最高の出来映えの一冊である。
これからサードを始めるプレイヤーはクラス紹介系ガイドブックを買うのを諦めてでもこちらの本を買うことを強くオススメする。

Create your character.



※1 あくまでも個人的見解としてのアライメント小論
アライメントは各々の行動にバリエーションをもたせることができる。
また、キャラクター間の意見の相違を”あくまでもキャラクターの意見の相違”にとどめるためにも必要である(笑)。
TRPGを長くやっている人ならばその便利さを理解してくれると思う。
そういった意味でアライメントは非常に有用であるし、使い方によってはセッションを大いに盛り上げてくれる。
抑止力でもあり、潤滑油でもあり、決してただの足かせではないと思う。
アライメントを巧く使ったプレイには、”なんでも自分の思い通り、やりたい放題、ご都合主義”のプレイには無い深い楽しさがあると思う。
あくまでもそういう”ツール”であるというのが私の見解だ。
ただし使い方は慎重である方がいい。
チャートでアライメントを決めるのは上級者に限ると思う。
わけもわからずチャートで決めたCEやCNだらけのパーティ。
これは想像しただけで恐ろしい(笑)。