011216

クモ男になろう!――Song and Silence : Fang of Lolth

文責:石川

 

<あるLolth信者の日記(抜粋)>

Hammerの月12日:無数の試練を乗り越え、遂に晴れてFang of Lolthの一員として認められることとなった。顎の下に揺れる水晶の牙の重みを感じる度、幾多のライバル達の屍の上に自分が立っていることを自覚し、彼らのことを決して忘れてはならぬと自戒する。先達の言葉通り、肌が段々と黒ずんできたような気がする。よい兆候だ。一時も早く『変態』を終え、Lolth様の御側に近づきたい。

Chesの月6日:下顎が前に突き出す形に湾曲を始める。牙も大きくなり、やや喋りにくくなった。夕食の後、十分な食事を摂っていたにも拘わらず非常な飢餓感を感じ、堪らず洞窟蝙蝠に噛み付いてしまった。思ったよりも簡単に、しかも効果的に牙を突き立てることができた。その血と肉はこれまで味わったあらゆる食材にも勝る味であった。

Flameruleの月17日:最近毛深くなった。その上、皮膚も昔より明らかに硬くなっている。Lolth様のお側に控える栄光の日が近いのだろう。夜目が効くようになったのはよいのだが、ちょっとした動きにも反応するようになってしまったのが少し困る。今日も息子が横を通り抜けた拍子に殴り飛ばしてしまった。

『Eleintの月16日:せ中に生えたこぶがやぶれてあたらしく手が生えてきた。ちゃんと4本ある。きっとこのあいだ食べたつまがきいたんだとおもった。これで全ぶで8本になって、Lolthさまににてきてうれしい。おいわいにとっておいたむす子を食べることにする。

『Nightalのつき:みんながさいだんをよーいしてくれていっぱいどれえをくれたのでぜんぶたべたうまかったこどもがひめいおあげていてたのしい。からだもからにおおわれてじょおぶでこれならろあるすさまもよろこんでくれるとおもうのであなにむかう。
 ついしん どーかついでがあったらうらにわのつまとむすこのおはかに花束をそえてやってください。』*

 

 

 

D&D3E Guidebookシリーズに、バード&ローグのクラスガイド、Song and Silence(以下S&S)が追加された。TemplerやCandle Casterをはじめとする様々な強力クラスが発表され続けているこのシリーズだが、今作ではついに、人間外キャラクターをプレステージクラスとして作成できるまでになった。

クモ男(いやまあ、別に女でもかまわないのだが)は正しくはFang of Lolthというプレステージクラスである。Lorthとはフォーゴットンレルムにおける女神の1柱で、「クモの女王」等の通り名を持つ、邪悪な神である。かの女神を信仰する者の中には、信仰が過ぎるあまり、自らの体をクモに変える者までが存在する。これは比喩でなく、体の構造そのものを実際に変化させるのである。そうした者たちをフィーチャーしたのがこのクラス---- Fang of Lolthなのだ。

 

クモ男になるための条件はそう難しくない。BABが+5の他に、Use Magic Deviceスキルが10ランクあればいいだけだ。ああ、そういえば「非ローフル、非グッド」とかいう条件もあったっけ。もし君がこの条件に適合していないようなら、今すぐ消しゴムか修正液を用意しよう。Lolthはカオティックイービルの神だったっけ?ならカオティックイービルにしておけばいい(アライメントが何であってももらえる経験値が増えるわけではないのだから)。え?他のキャラとのかねあい?そんなことはウツクシい物語が好きだとか言う×△◎野郎をおだてときゃ何とでもなる。「邪悪な心を持った男が正義に目覚めるまでを描きたいんだ」とか何とか。マスターを同じ手で丸め込めれば、もう一つの必要条件であるFang Scarabも容易に手にはいることだろう。Fang Scarabってのは、S&Sの記載によれば『銀の鎖のついた牙の形をしたクリスタルのダングル。クモの巣のメダリオンが付いている』ものだそうだ。一度つけたが最後、身体的な変化(牙が大きくなったり、後頭部に黒い毛が生えたり)が始まり、はずしたとたんそいつは死んでしまう。おまけに信者はこれを通してLolthのささやきが聞ける(おかげでクモ男は全てのアタックロールに+1のボーナスを受けられる)のだ。牙とクモの巣のシンボルマークで、着けたら変身、はずしたら即死、首領の命令が聞ける通信機能が付いている。こうして列挙してみると、なんだかどっかの秘密組織の軍団章みたいだが、身も心も正しいクモ男を目指す君ならそんなことは気にせず先へ進もう。

 

 クモ男はレベル上昇に伴って、本当に「クモ」男に変身していく。肌が黒ずんでいくのから始まり、顎が噛み付きにむくように変形し(3lv)、複眼化し(4〜6lv)、ついには背中のこぶから4本の新しい手が生え(9lv)、10lvで最終形態に至る。そしてこの最終形態において、クモ男はそのクリーチャータイプがVerminになる(!)。そう、名実共にクモ男となれるのである。

 むろんクモっぽいのは外見だけではない。Climbのスピードが上がったり、ナチュラルアーマーがついたり、とローグにはうってつけのクモ的能力がレベル上昇毎に付加され、6レベルではdarkvisionまで身につける。9lvで手に入る4本の追加の腕も、無数にあるシーヴスツールを操るのに便利だろう。もちろんスニークアタックだってちゃんと+3d6まで追加されるのだからいうことなしだ。もしこのクラスにつく前にローグで7lvの経験を積んでいれば、スニークアタックは+7d6になっているはず。クモの手はそれぞれが個別に攻撃できることになってるから、そんな君が相手の不意をつくことができれば・・・・そう、なんと6回以上のスニークアタックも夢ではないのだ!もうばかばかしくてファイターなんてやってられない。

 

しかし、こんなすばらしいクモ男にも、欠点はある。

そう、最大の特徴でもあるその外見である。「いつも部屋の中に閉じこもってテレビとゲームとパソコン三昧、外にでるのはコンビニとアニ○イトだけ」なんて君ならさして問題を感じないのだろうが、世界を旅する冒険者としてはクモっぽい外見が人種差別主義者達からのかっこうの標的にされてしまう危険がある----悲しいことだが差別に反対する君の声は、「良識派」と名乗る、外見で人を判断する者たちの偏見に満ちた声にかき消されてしまうだろう。1対1ならお得意の多数回スニーク攻撃で黙らせることも可能だろうが、彼らはたいてい大勢で、しかも迂闊に手を出せばパラディンとかいう狂信的な戦闘種族を召喚するやっかいな存在だ。そのような不幸な事態を避けるためにも、「冒険者クモ男」には上手に一般人の中に紛れる工夫が求められる。

まあ手っ取り早いのは魔法だろう。Change selfをはじめとする変身系呪文を学ぶまで、ウィザードかソーサラーとして修行を積みながらUse Magic Deviceスキルを10レベルまで上昇させるのだ。変身呪文なら(少なくとも効果時間の間は)見破られにくくなるし、同時に他の呪文を学ぶことが君のクモ男としての活動範囲を広げることにつながっていくだろう(Web呪文やSpider climb, Summon Swarmを使いこなすクモ男って、なんかそれっぽいだろ?)。ただし、Use Magic Deviceスキルがメイジ系クラスのクラススキルに含まれていない(なぜ?)ため、早くクモ男になろうと思ったらどうしてもローグ/バードクラスを混ぜていく必要が出てくる。逆に言えば、この方法ではどうしてもクモ男になるまでに必要な時間が長くなることは否めない。

ではローグ/バードクラスでできることといえば?そう、Disguise(変装:スキル)である。今はVerminだけれども、元はといえば人間だったんだし(君が弁論術に長けているならこのことを理由にボーナスすら要求できるかもしれない!)、異種族に変装するためのDCペナルティは2に過ぎないのだから、どんどん変装してやれ。幸いローグ/バードともにDisguiseはクラススキルだ。それでも足りないと思ったらマジックアイテムを買いに走ればいいだけのことさ(ほとんど全ての判定を無条件に成功させ得る+20のアイテムだって8000gpなんだから安いもんだ。ルールのどこにも上限なんて書いてないから、一万gpでも十万gpでも払ってやればいい。金で解決できることは全て金で解決するのがクールなやり方ってもんだ、そうだろ?)。

そこまで金がない、という君はやはりS&S所収のプレステージクラス『スパイマスター』を混ぜる、という手もある。スパイマスターはCover Identityという特殊能力(Disguiseに+4など.)を1,4,7lvで得る事ができる。また、3lvではQuick Change(素早く変装する能力)をも身につけるので、クモ嫌いから身を隠すにはうってつけだ。クラスのための必要条件もローグ/バードにはさほど厳しいものではないし、スニークアタックやuncanny dodgeを身につけられるなどバード出身者にはうれしい特典もある。とりあえず4lvまでスパイマスターとして修行を積んでおけばDisguiseに+8ボーナスが付くので、一般人なら充分だましきれるのではないだろうか(ただし重ねて言うが、スキルへの+8ボーナスは1280gpで購える。しかし、4lv分の経験値は1280gpでは買えないことを忘れてはいけない。大事な経験値を浪費するよりも、しみったれたDMを言いくるめて1gpでも多く巻き上げるのが賢いプレイングってもんじゃないかな?)。

 

スパイマスターの必要性の有無はともかく、クモ男になるための最短の道はバードかローグで7lvまで修行を積むことだろう(他のクラスではスキルの上限がどうしても邪魔をしてしまうのだ)。両者を比較すると

・バード7lv:バード呪文3lvまで使用可(ボーナススペルがあれば)

・ローグ7lv:スニーク+4d6まで。各種Uncanny Dodge能力, Eversion能力。

 となる。一長一短があるのでどちらがいいかは好みの問題になるかも知れない。ただ、バード3lv呪文にはInvisible sphereやDispel magic, Hasteなど強力な呪文がそろっているから、Uncanny dodgeやスニークはあとで補うことにしてバードで修行しておくのが有利かも知れない(不要ならなおけっこう。そのままクモ男への道を邁進すればいいのだ)。各能力値に恵まれているようなら、両者の組み合わせでもかまわない。バード4lv/ローグ3lvの組み合わせがいいだろう。バード呪文が2lvまで使用でき、スニークもEversion能力も付くし、uncanny dodgeも最低限のものが得られるからだ(サプライズを受けたラウンドに、スニーク+攻撃呪文を受けて即死、という事態を避けられるのは大きい)。Featのやりくりなどの面で多少苦しい思いをすることになるが、Templerを混ぜておくのも有効だ(一応宗教関係者だしね)。いや、むしろDMに賄賂・強迫・催眠誘導剤などを使ってでもTemplerになる許可をもらっておくべきかも知れない。ほんの1レベルであれだけの特典が受けられるチャンスは、他には考えられないからだ(あとはエラッタが出ないことを祈るばかりである)。

 

最後に、晴れてクモ男になった君が最も注意しなければならないのはバッタ男の存在である。もし君の所属する教団でバッタに変身する男が作られそうなら、万難を排して殺しておくべきだ。古来より『クモ男はバッタ男に蹴り殺される』との言い伝えがあり、そしてそれはよくある迷信ではなく真実なのだ。なに、一度に6回ものスニーク攻撃が可能な君なら簡単なことだ。改造前の手術室に忍び込んでFull attack actionを選択すればいいというだけの話なんだから。

ほら、アライメントをカオティックイービルにしといてよかったろ?もしそれがPCでも何の遠慮もなく殺せるじゃないか。それがロール・・・・ええと・・・ロールケーキじゃないし・・・・まあ、ロールなんとかってもんさ。

 

 

*冒頭ではクモ男が変態を進めるにつれて知能が低くなっていくように記述しておりますが、実際のルールにはそのようなペナルティはありません。安心してクモ男になりましょう。