NPCの作り方
----あるいはいくつかの懺悔
かなり遅れつつも180,000hit記念
040410
文責:いしかわ
さて、第3回モカ罰原稿として書くことになった原稿が遅れに遅れていつの間にか18万hit記念原稿になってた当記事は、NPCの作り方について述べている。
でまあ、本記事作成前に、下調べとしてちょっと関連 サイトを覗いてみたわけなのだが。いやもう出てくる出てくる。D&Dに限らずいろんなゲームでのNPCの作り方や使い方が、ちょっと調べただけでもアホみたいな件数出てきてしまう。
まあそりゃそうか。TRPGやってりゃ大抵はNPCが出てくるものだし、そいつを使ったトリックやらギミックやらってのはシナリオプロットの数と同じくらいあるんだもんなあ。
こんだけいろんな方法が示されてるんなら、結局何書いてもどっかと内容かぶっちゃうよなあ。
書くの止めようかなあ。
などと考えていたのだが、いくつかのサイトを拝見してたところ、これらの記事の多くがいわゆる「ストーリー嗜好」、つまり「DMが物語を作っていく」タイプのシナリオの登場人物の作り方に類するものであり、ストーリーテリングの手法としてのNPC作成法である場合が多く、D&Dで良くやられている「PCの行動の結果として物語が出来ていく」タイプで使うNPCについての記事では無い、ということに気が付いた。また、なんか「小説の書き方講座」みたいな内容も多く、これじゃあ話が複雑になるばっかりで「プレイしやすいNPC」は作れないんじゃないのかなあ、とも思われた。
というわけで今回はいしかわの経験とか考えとかその場の思いつきを中心に、いしかわ式のNPC作成法についてちょっと触れてみよう。
大いに偏ったいしかわの書くものなのでプレイ環境によっては何の参考にもならない可能性もあるが、まあこんな奴もいるんだなくらいに考えていただければ幸いである。
どのくらいNPCを使うのか?
まずはNPCをどのくらいの頻度で出すのか?そしてどのくらいシナリオプロットに関わってくるのか?という問題がある。
この点に関しては、RPGNOWというD20関連の出版社が使っている「NPCの関係度」表がわかりやすいので、まずはこちらを紹介しよう。この表は、同社が自社のシナリオを販売するに当たって「どんな内容なのか」を示すために用いているものである。
レベル1:「NPC?なにそれ?」
例)完全なハック&スラッシュ型。知性のないモンスターの巣の攻略など。
レベル2:多少関係のあるNPCが登場。ロールプレイとしての要素は少ないものの、そのNPCを探せる
例)ワイルダネス(野外)の探索。NPCが時には出現するが、シナリオプロットには関わらず、避けようと思えば避けたままでプレイ可能
レベル3:PCがNPCと頻繁に交流する。ただしシナリオプロットがこれらのNPCに依存している訳ではない
例)田舎の小村での事件解決。PCはNPCと頻繁に話したりできるが、NPCの助けの有無に関わらず事件を解決可能
レベル4:PCはNPCと深く関わることになるだろう。プロットとその解決にはNPCが関わっている。PCは鍵を握るNPCを探し出さねばならない。
例)政府やある組織にさらわれた商人の話。PCはプロットの方向性をNPCを通じて調べる必要がある
レベル5:PCはNPCと深く関わり、またロールプレイしなければならない。PCの振る舞いが社会的、あるいはキャラクターの生存に大きく関わる。
例)PCが貴族などの役割に付き、隣国との摩擦の解消に向かう
当然ながら、どのレベルが良くてどのレベルが悪いと言うことはない。シナリオごとにレベルが違ってくるのは当然だし、DMの嗜好によってもNPCとの関係度は変化してくるだろう。とはいえ、レベル4まではともかく、レベル5のようなプロットのシナリオは、D&Dというゲームには少々不向きという気もしないではない(*1)。
ちなみに、いしかわはレベル3〜4くらいのシナリオをDMすることが多い。いしかわは前述のように「PCの行動の結果として物語が出来ていく」タイプのプレイスタイルが好きなので、「NPCが個性出しすぎるとウザい」とか「NPC大活躍でストーリー進行したってプレイヤー楽しくないでしょ」とか思ってしまうためである。いしかわにとってNPCとは便利屋であり、狂言回しであり、あるいは賑やかしであって、「主人公(PC)に並ぶ登場人物」ではない。もちろんレベル5のようなシナリオもやるが、その場合には以下に示すような点に気をつけながらNPCメイキングを行っている。
NPCの扱い(いしかわ編)
まあぶっちゃけた話いしかわのNPCの扱いは相当いいかげんである。
ほとんどのNPCは名前も無く、たとえ名前があっても単に「村長」とか「衛兵」とかって呼ばれてることも少なくない。でてきても大した特徴もなく、「いたっけそんなヤツ」と呼ばれるようなタイプのキャラクターであることも多い。
代わりに、重要なNPCが他のNPCに紛れたり、誰がだれだかわからなくならないようなキャラクターづくりを心がけている。
そうした目標を満たすために、いしかわは何をしているのか?
第一に気をつけているのは「キャラを複雑にしすぎない」という点である。
10年ほど前、ソードワールドが全盛期にあった時代、やってくるプレイヤーが多すぎてRAINBOWスタッフとしてはGM以外を許されない時代には、いしかわも、まあ有り体に言えば相当やらかした。A4用紙数枚に渡るNPCの設定、オリジナルなマジックアイテム、失われた古代王国の魔法 etc. etc.……今思えばそれらの大半は時間とコピー用紙の無駄であり、あってもなくても変わらないものであり、立派な自己満足の結晶であった。そして不幸にも、これらのことに気づいたのはTRPGブームが過ぎ、プレイヤーとしてプレイすることが許されるようになってからのことだった。当時のプレイヤー達よ、正直スマンかった。
いやね、複雑な人間関係とか設定ってのは、ヒマさえあれば誰にでも作れちゃうのよ。思いついたかっこいいこと書き連ねて、少し謎めかしてさえあればなんとなく高尚なことやってるような気分になれるしね。で、まあDMってのはそうやって複雑で葛藤の多いストーリーを構築していくのが仕事なんだと思っていたものだったが、いざ自分がPCをやるようになってみると、それは全く間違っているということに気が付いた。
だってプレイヤーはNPCの設定なんざ大して気にしちゃいねえんだよ実際。
設定についてどんなに詳細に聞かされたって頭に残ってることなんざかけらほどしかないし、その設定を元にした謎やイベント設置されたってさっぱり解けやしねえ(あたりまえだ。憶えちゃいねえんだから)。プレイが終わってからGMに「何だい、最初にXXがOOの情報持ってるって話したじゃん。アレ使えば簡単だったのに」とか言われた日にゃあ、『もう二度とこんなコンベ来るか!』と思ったね。以降ホントに行ってない。都内某サークルの人ゴメン。
また、複雑にするとそのキャラクターがその情報に埋まってしまいやすいという欠点もある。PCの目がNPCそのものより、NPCが持つ情報に集中するためだ。
次に気にしている点は「キャラをかぶらせない」という点である。
PCとは違い、NPCはDMが一人で全員をコントロールする。つまり、5歳の少年も20歳の姫君も80歳の長老も、全て一人の人間がそれを演じなければならない。
君が舞台俳優であるとか声優としての修行を積んでいるというならともかく、普通のDMにとって、5人のNPCを演じ分けるというのは結構な苦行ではないかと思う。そんな人間が同時に何人もNPCを出すと、今誰が話してるのか自分でもわからなくなるときができたりする。しかし、それぞれが異なる個性を持っていれば、その苦行は幾分緩和される。
また、この点の解消法として「NPCの数を絞る」という方法もある。人数が増えると複雑になる、というなら、はじめからその人数を減らしてしまえばいいのだ。推理もののシナリオなどでは容疑者を減らすと話が簡単になりすぎるのでなかなか減らせない場合もあるだろうが、そういうシナリオでもなければそんなに沢山のNPCが不要になる場合もある。演じきれなくているんだかいないんだかわからないNPCを大量発生させてしまうくらいなら、思い切って削ってしまうのも一案ではないかと思うのだが。
次に、「なるべくステロタイプなキャラにする」よう心がけている。NPCというと、つい独特なキャラとか珍しい人物にしてしまいがちであるが、シナリオにその「変わった性質」が関わっているのいうのであればともかく、目立たせる必要がないのなら、静かなままでいさせれば良い。エキストラに派手な衣装は必要ないのだ。DMGにだって、「現実世界の人間だって誰もが記憶に残る訳じゃない」と書いてある。
そして最後に、「はっきりした個性を一つ持たせる」。2つや3つは必要ない。「ああ、あのおっさんね」などと思い出してもらうなら、たった一つプレイヤーの記憶に残るようなものがあればいい。何にせよ、心に引っかかるようなカギがあって、それが他のキャラクターとかぶってさえいなければ何とかなるものだ。
前述の「DMが演じ分けるべき5人」が5人とも同じ背格好の典型的な兵士であるよりは、5才の少年、15才の羊飼い、40才の商人、60才の老婆、70才の老騎士という5人組である方が演じ分けやすいのはすぐにわかるだろう?それぞれの語尾を変えるだけでも「今は誰の話なのか」格段にわかりやすくなるのだ。
もちろん個性というのは話し方だけではなく、例えば話す内容であるとか、いろいろな差別化が可能である。この点も多いに書籍や映画からパクって見て欲しい。
NPCの特徴
さて、これまで個性とか特徴をつけろ、ということをさんざん言って来たが、実際にやるとなるとこれが結構難しい。人間、そうそう奇抜な個性が思いつけるモンじゃないからね。
なので、自分の引き出しが尽きたと感じたなら、まずはいろんな本や映画、ドラマなどで見かけた目立つ人物をそのままパクってしまうことをお奨めする。君の記憶に残った人物なんだ。うまく伝えれば他人の記憶にだって残るってもんさ。もちろん、印象に残っている登場人物の「何が印象に残ったのか」を分析して、バラして使ったり、何人かの特徴を組み合わせたりするともっと深みあるキャラを作れるだろう。
そのストックもなくなったら?
今度は我らがDMGの出番だ。DMGp149に載ってる「100の特徴」はランダムに選ぶような形式にはしてあるけれど、この中から君のNPCにふさわしいものを選んだっていいんだ。他のキャラ(特にPC)とキャラが同じにならないよう、適当に選びながらプレイすればいい。
このとき、アドリブにせよランダムにせよ、つける特徴はたぶん1つあれば十分だと思う。
前述のように、特徴がいっぱいあったってPC達は憶えちゃくれない。だったらしっかりしたわかりやすい個性一つだけにして、こいつが何をしたか、あるいはどんな奴だったかをしっかり憶えさせた方が効率がいいというものだ。君のアイデアストックが減る心配も少ないしね。
とはいえ、みんながみんなこんなおおざっぱなNPCばっかりじゃ困ることもある。
いしかわだって、たまには関係度レベル5なシナリオをやりたいときはあるものだ。シナリオプロットに重要な関係があるNPCを出す場合には、やはり前もってしっかりしたデータと、ちょっとした設定を考えておくとプレイが円滑に進むだろう。
では具体的にはどんな設定をつけたらよいのだろうか?
設定というと、まあさまざまだ。外見から始まり、服装の趣味、習癖、口癖、人格、性格、要領のよさ、人生の背景、etc. etc.…
ちょっと考えただけでもいくらでも思いつく。じゃあ、何から決めればいいんだ?
いしかわは、たいていの場合、「そのNPCの役回り」から考え始めることにしている。
そのNPCがシナリオやプロットの中でどんな役回りを持っているのか?直接の敵?味方?味方のフリをしている黒幕?だまされてPCを敵だと思っている騎士?犯人として疑われる役?などなど。
役回りが決まったら、その役にはどんなキャラが付くとわかりやすいかを考えてみよう。
例えば「味方のフリをした敵」なら人当たり良く知性的な、そして時には弱々しい雰囲気すら漂わせていればうまくPCをだませそうだ。「だまされた騎士」なら実直だけど単純な若武者とか、疑り深く他人をまったく信用しない歴戦の勇士のなれの果て、とか。ここでは先述したように極力ステロタイプな、ありがちなキャラを選ぶのが良いと思う(*2)。
#ちなみに、ここで役回りにあったキャラが思いつかないようなら、そのNPCは本当にプロットに必要なのかを再考すべきだと思う。そんなイメージのわかないようなキャラを差別化してプレイするのは難しいし、見直してみるとプロットの贅肉部分である場合も少なくないからだ。
役回りにあったキャラクターが決まったら、今度はそのキャラクターにあったデータを考えてみよう。
まず簡単に決まりそうなのが属性だろう。そいつが私利私欲のために法をねじ曲げるようなら「秩序にして悪」だろうし、家族を見捨てられずに法を破ることにした、というなら「混沌にして善」だろう、とか(*3)。
ついで外見、能力値あたりも結構簡単に決められるだろう。ここでもあまり奇をてらう必要はない。こんなキャラならこんな格好だろうな、とか、「こういうずるがしこいヤツなら【知力】は高いけど【魅力】は低そうだ」とか、感覚で決めちゃって十分である。
そしておおざっぱなデータが固まってきたら、あとはPHBのキャラクター作成ルールに従ってキャラクターを作り、適当なレベルアップを行えばそれでOKだ。前述のずるがしこいヤツなら〈交渉〉〈はったり〉を上げたり、変装やチャームパースンみたいな呪文を好んだり。このへんはDMのプレイヤーとしての経験が出るので慣れないウチはちょっと大変かも知れないが、自分のPCを作るときはどうしてたかなあ、なんて事を考えつつこつこつ作っていけばいつかは終わるさ。「NPCは沢山は不要」という言葉の意味を体で覚えるいいチャンスでもあるしね。
また、役回りではなく、そのキャラの動機や目標からプロットとキャラを作ることもできる。以下に示したのは、主に悪役キャラクターの動機や目標になりそうなプロット集である。これのどれかを選んでつかってもいいだろうし、適当に組み合わせて考えてみるのもよいだろう。ただ一つ、ここでも複雑になり過ぎないように気を付けた方がいいとは思うが。
<動機>
欲望:彼は単純に生まれつき強欲なのかもしれないし、何か大金の必要な理由があるのかもしれない(それは単に楽に暮らしたいとか爵位がほしいといった個人的なものかもしれないし、家族のため、自分の領地のためかもしれない)。必要な理由があるなら、その理由によっては彼の意思はより強固なものになるだろう。
復讐:彼はかつて彼や彼の家族に起こったことに復讐しようとしている。それは個人かもしれないし、街や国のような共同体かもしれないし、世間とか人類といったすべてかも知れない。こうした目標を持つものは自分こそが正義であると考えている場合も多い(ため、何らかのメッセージを残したり、正当性を示そうとする場合さえあるだろう)。
権力:権力が動機となっている。彼は権力を維持しようとする為政者かもしれないし、権力の奪取を目指す革命家なのかもしれない。また、秩序にして悪のものは権力を楯に自らの欲望を満たそうとするかもしれない。
恐怖:死への恐怖は何事かを為す大きな動機となりえる。死の神の信徒には、自らの死を避けるために必死で戦うものも少なくないのだ。また、自分や家族を害される恐怖は、善良な人々を簡単に暴虐な殺戮者へと変貌させ得る。
情熱:なにかひとつのことに惹かれる情熱は、時にとんでもないことをしでかすことがある。魔法、知識、恋、評価などへの渇望は、時に正気の壁をあっさり乗り越えてしまうものだ。
狂気:狂気の度合いはまさに千差万別でひとくくりにできるものではないが、DM的には使いやすいものである。狂気の恐ろしい点は「すべてが狂っている」ものばかりが狂人ではないという点だ。まったく自然に一般社会に溶け込み、ごく普通に生活していながら、ある一点においてのみ(そしてその点については破壊的に)狂っている、という者だっているのだから(このあたりは現代の殺人者のプロファイリング本に詳しい)。
<目標>
奪取:彼は何かを奪い取ることを最終目標にしている。たとえば王冠にはまっている宝石のようなお宝かもしれないし、そんなに特別なものではなく、単に金目の物を狙っているのかもしれない。
征服:権力を手に入れる。それは小さな街ひとつやある寺院の支配権かもしれないし、ある貴族家ののっとりや王位の簒奪を目指しているのかもしれない。
誘拐:誘拐の対象はさまざまである。著名な人物、王族や貴族など社会的地位の高いものやその家族、あるいは裕福な家の子などはよく狙われるかもしれない。一方で、誘拐の目的が個人的なものである場合もある。親に認められぬ愛する相手を誘拐しようとするものもいるだろうし、その娘こそが邪神への生贄としてふさわしい、という場合もあるだろう。
殺し:最終目標は標的の死である。その方法は暗殺かもしれないし、戦争という手段をとるかもしれない。また、単に標的を「狩る」という遊びの場合すらあるだろう。
これらは単純に「悪だから」という理由だけで済むものもあれば、社会的には悪であるにもかかわらず秩序にして善のものによって為されている場合もあることに注意。そういう意味で「役回りから考える」やり方よりはちょっと難しいやり方といえなくもない。
動機=「なぜ?」と目標=「何をする?」が決まったら、今度は「どうやって?」=方法を考える番だ。
つまりはシナリオプロットの中心となる部分を考えるのである。
プロットさえ決まってしまえば、あとは前に述べた方法でそのプロットの中に組み込まれるNPCについて考え、NPC一人一人についてキャラクター設定をしていけば良い。
ちなみに、君はNPCの人生すべてについて考える必要はない。
もちろん、経歴や家族構成、これまでの経歴を決めておくことは不可能ではないし、ランダムに決めようと思えば’04.4月発売予定の「キャラクター作成ガイド」に掲載されている『キャラクターの経歴や人生の歴史をランダムに決定表』を使って作ることだって可能だ。もちろん好きな色、愛読書、座右の銘、食事の好みなど、詳細な設定を付けようと思えばいくらでも付け加えることは可能である。
しかし、PCを「自分の店を守るためのおとりに使おうとする商人」がいたとして、彼の家族構成や幼少時のトラウマの元となった出来事、好きな色がえんじ色であることなどを知りたがるプレイヤーがいるだろうか?また、こうした物事がシナリオプロットにかかわってくることはあるのだろうか?
いや、そりゃまあかかわってくるシナリオだってあるかもしれない(彼はきっと冒険者の父親に幼少時から精神・肉体の両面に渡る虐待をうけて育ったため、冒険者に嫌悪を抱くようになったのだ。と香○リカが言ってました。流れ作業っぽく。)が、PCたちを罠に嵌めた後、自分の父親がいかにひどい人物だったかをとくとくと(しかも幾分自慢げに)語られて喜ぶプレイヤーはいないだろう(まあ、○山リカ以外には)。確かにキャラクターの背景や世間との関わりについてはそのキャラクターに厚みを加えてくれるものだが、実際にはそんな深層心理の襞にまで入り込むような(説明文を読むような方法を取りでもしない限り)表現するのは難しいものである。
そもそも、D&D世界には幼少期に虐待を受けてなくてもPCをひどい目にあわせてくれる悪属性の者たちが用意されている。いちいち複雑な背景など作らなくたって「こいつ悪だし」といっておけばそれで事足りるのだ。
そう、極端にいえば、ゲームに関係のある部分だけでも、NPCとしては充分機能するのである。
そしてそこにちょっとした「特徴」というスパイスを振りかけ、PC達に味を印象づけることができさえすれば、NPCに必要とされる役割は十二分に果たせるのだ。
わざわざ物事を複雑にする必要などない。複雑な心理とかを表現する仕事は小説家やシナリオライターに任せて、君はプレイヤー達と楽しく時間が過ごすには何が必要かを考えればよい。少なくともゲームになれるまでは、多分その方がDMとプレイヤーの互いにとって有益なんじゃないかと思う。
さて、最後に、いしかわはNPCをどのように作成しているか、PCとの関係の深さ別に分けて例を示してみよう。ここではプロットとの関係の深さから、NPCを3段階に分けてある。まあ、参考にしたりしなかったりして欲しい。
1)通行人レベル(関係度レベル2-3)
冒険者の人生とは(さほど)関わらないNPC。通行人から、行きつけの雑貨屋の商人とか、宿屋の親父とかまでを含む。ドラクエなんかで言うところの「町の人たち」レベルのNPCだ。関わりの密度には多少の差はあれど、基本的に「PCの日常生活に関わることはあっても冒険には関与しない」人たちである。
彼らは多くの場合、PCに危害を与えることもないかわりに、大した助力にもならない。よって能力値は必要になったら『平均的なNPC』の値(DMGp49-)を使うことにしとけば十分なので、決めておくべきと言えば(必要なら)職業と名前、年齢、性別、特徴くらいだろう。
例)ボブ(鍛冶屋)35歳、男、ごつい
例)宿の親父 50くらい、男、はげ・デブ、商売上手
「特徴」はDMGの“NPCの特徴表”で出たものを一つ与えておけば十分だろう。もちろん適当なものを考えて与えても良い。そして何らかの判定が必要になったら、全ての能力値が±0と考え、この特徴に合わせてボーナスを付加した上で判定を行えばよい。例えばボブと飲み比べになったのなら「ごつい」ボブは判定に+2とか、宿代を値切る相手に宿の親父は<交渉>+4とか。
ちなみにこのレベルのキャラクターは前もって考えてあることは少なく、PCの行動に合わせてアドリブで作られることも多い。このレベルのキャラクターには個性はあってもなくても変わらないので、アドリブが苦手な人はおおざっぱに作った「町の人」を10種類くらいプールしておいてそこからランダムに出すことにしてもいいだろう。
2)名前のあるレベル(関係度レベル3-4)
通行人レベルでも名前を持っている場合はあるが、こちらは「頻繁に出てくるので名前を付ける」という意味で前者とは異なっている。通行人レベルよりもうちょっと、冒険に比較的深く関わってくるレベルのNPCたちである。特定の情報やアイテムなどを持っているとか、イベントのキーとなるような人物。
彼らも能力値は『平均的なNPC』の値で十分だが、多少の設定は必要だろう(名前、職業、年齢、性別、特徴など)。「名前のあるレベル」と銘打ってあるが、実際に名前が必要なわけではない。そのキャラクターが誰であるかがわかれば(そしてシナリオ展開上、それで問題がないなら)、職業名や地位名で十分だ(「薬草師」とか「隊長」とか「大地主」とか)。
このレベルになると多少の特徴は必要になってくるかも知れない。イベントによってはPCに彼らのことを思いだしてもらう必要があるからだ。もちろんこの特徴はDMGの表で振ったものでも構わないが、イベントに関係ある特徴が思いつくならその方がPCにしっかり憶えてもらえるのでそうした方がいいだろう。例えば疫病におそわれた村を救ってほしいと依頼されるとき、相手が単に「びっこをひいている」とか「どもりのひどい」中年であるよりは、「病弱そうな中年の治療師」の方が憶えやすいだろう。また、その特徴にあった外見を与えておくとなお良いだろう(「治療師」の例なら「色白でひ弱そうな男」とか)。
ちなみに、このレベルであればおおまかな設定を前もって作っておく方がマスタリングが簡単に進むだろう。アドリブで対応するときにもちょっとしたヒントになるしね。
例)◎◎村の村長 3レベルコモナー、50歳くらい、気弱なふりをしながらPCに助力を乞うしたたかな男で、PCにコボルド退治を依頼。500gp持ってるけどまず300gpを提示。<交渉>+8、<はったり>+6。
例)ジドー少年 10代前半。冒険者にあこがれ(友好的)。素直。コボルドの住み着いた洞窟の裏口を知ってるが、同行を要求。AC13(サイズ+1、Dex+2)、Hp4。
彼らの役割はシナリオ進行の道しるべであったり、次のステップに進むための扉の鍵であったりする。友好的か敵対的かでも役割は異なってくるだろうが、基本的にはPCの進行のためにいるものなので、あまり複雑にしすぎない方が良いだろう。
3)関係者レベル(関係度レベル4-5)
より緊密な関係にあるNPC。パーティに同行(*4)してPCを助けたり、逆にPCに害をなすこともある。
共に戦ったり、あるいは対戦したりする関係上、能力値はPCくらいのレベルで設定しておく方が何かと便利。シナリオの案内役/進行役/イベント発生装置としてのNPCなので、多少の設定と特徴がある方が使いやすい。
一方で、「DMが使うPC」のような扱いをする場合にはPC同様に詳細なデータが必要になることもある。また、戦う相手として設定してある場合にも、やはりこうした能力を決定しておく必要があるだろう(能力値で判定する場合や、能力値ダメージを処理するため)。
例)ジェネレス・カリンストン 混沌にして善、女性の人間、ファイター9: CR9; Medium-Sise Humanoid(Human); HD 9d10+27; hp 79; イニシアチブ +1; 速度 20フィート; AC24(対接触 AC16、Flat-Footed AC23); 攻撃 +13/+8(1d8+4/19-20 x3、ソーラニアの純鉄製キーンロングスピア+1); ST 頑健+9、反射+4、意思+3; 筋力16(+3)、敏捷力13(+1)、耐久力16(+3)、知力12(+1)、判断力11(+0)、魅力14(+2);身長 5'3"; 体重 125lb.; 年齢 26歳
技能と特技: <騎乗>+7、<交渉> +6、<動物使い> +14、<知識(貴族&王族)> +5、<知識(地域:ファーヨンディ)> +4、<知識(戦争)> +5; ≪強打≫、≪薙ぎ払い≫、≪武器熟練(ロングスピア)≫、≪Chariot Combat≫、≪Monky Grip(ロングスピア)≫、≪武器開眼(ロングスピア)≫、≪統率力(統率力値13)≫、≪Chariot Sidewipe≫、≪Chariot Charge≫、≪Landlord≫
装備: ソーラニアの純鉄製キーンロングスピア+1、スピード(3rdFAQ前)フル・プレート+1、ジャヴェリン・オヴ・ライトニング×5、アダマンティン製ダガー
背景:カリンストン家の後継者であるジェネレスはグレイホーク戦争当時から軍の率いて戦っている女丈夫で、女男爵の称号を得ている。戦車(チャリオット)での戦いを好み、いつも前線で兵を指揮する。現在クロックポート領の統治に務めている。混沌にして善らしく、豪放磊落で姉御肌な人。財貨や地位にはこだわらず、PCのような流れ者にも分け隔てなく話しかけてくる。優秀な人材(特にファイター)を好むが、堅苦しい人間に口で押されると頭が上がらないタイプ。
#なお、「シナリオに書いてあるのはこの程度」というだけの話で、実際の運用時にはその場の思いつきがアドリブで加えられたり、PCとの掛け合いでキャラが変わっていたりということもしょっちゅうであることに注意(こんな事が頻繁にあるのがわかっているからこそ、いしかわはいい加減にしかNPCを作らなかったりもするのだが)。
くだくだと長話を書いてみたが、ここにあることすべてを実行する必要はないし、ここにあることをまったく使わなくたってかまわない。
君のやり方でプレイヤーとDMが楽しい時間を共有できるというならば、その方法が正解なのだ。
そのやり方の構成に、私の雑文がちょっとでも役に立ってくれたのなら、それは望外の喜びである。
良いNPCはプロットに深みを与え、プレイングに良い刺激を生み出すものだ。
君の卓に良きNPCの現れんことを!
* 1:無論、やればできないことはないが、D&Dにはこうした問題を解決するためのシステムとしては<交渉>を中心とした技能しかなく、結局ロールプレイングで解決しなければならなくなる部分が多いように思われる。
* 2:そしてPC達がステロなキャラに慣れてシナリオを先読みするようになった頃に、今度は役回りとはまるっきり正反対なキャラを出したりするのも楽しいぞ!
* 3:まあ同行する、といっても「壁役が足りないから雇っていくよー」というタイプのNPCであれば戦闘力くらいわかっていればいいので「名前のあるNPC」程度の扱いでもいいかも知れないが。
* 4:ちなみにこのへんの指針はそのサプリででも明確には示されておらず、「DM次第」な部分が非常に大きい。よって、いしかわの例などまったく気にせず君が思った属性を付けてまったくかまわない。「まあしょせん“悪”なんてのはディテクトイーヴルが反応する相手ってだけのことさ」というSageのありがたいコメントもあることだ。自信を持って属性を決めていこう。
◎本稿はDragon#238“Campaigns of Intrigue, from Foe to Finale”
(Steve Miller and Sue Weinlein Cook)を一部参考にしています
あといまやんさんと例のアレ氏のご指摘に基づき、文章を一部改定しました。
お知らせありがとう!