Eberron Under the Glass | 01/10/2005 |
ショーン・K・レイノルズ
「エベロン・アンダー・ザ・グラス」へようこそ。ここはいつも遊んでいるD&Dがエベロンではどう変わるか、という点について述べるコラムである。キャラクター達はいつものように、例えば失われたアーティファクトを探索しなくてはならなかったり、古文書から知識をあさったり、はたまたゴブリン達の暴動に対処しなければならなかったりするわけだが、エベロンではこれらがみな多少違った風に行われることになる。本シリーズは、エベロンで遊ぶプレイヤーやDMの皆さんがこの世界における「それらしさ」を理解する一助となるはずだ。
今回はエベロンにおける治療行為の扱いについて見ていこう。
典型的なD&Dキャンペーンでは、例えパーティのクレリックやドルイドのレベルが足りなくて呪文が使えないとしても、街に戻れば魔法による治療が簡単に利用できる。しかしエベロンではPCクラスを持つキャラクターが少なく、NPCクラスは高レベル呪文修得が遅い。よって低レベルの魔法が豊富な一方で中〜高レベルの魔法は極めてまれである。これは最も基本的な回復魔法以外は殆どのNPCの手に負えないという事を意味し、PCは必要な回復魔法(ヒールやレイズ・デッドはおろかリムーブ・ディジーズのような低レベルの物まで)の使い手を見つけるのに苦労するかもしれない。
アデプトの僅かな増加(標準的D&D:全人口の0.5%、エベロン:同1%)を考慮に入れるとしても、彼らの呪文能力の伸びは遅く、2レベル以降の呪文が使えるアデプトは殆どいない。加えて冒険者が必要とするであろう呪文の多くはアデプトの呪文リストに存在しない(例えばレッサー・レストレーション)か、非常な高レベルのアデプトでなければ修得していない。つまり冒険者が蒙った痛手を回復させる手段としてNPCに期待できるのは、事実上キュア・ライト・ウーンズ位しかないと言っていい(これはまた、エベロンの人々にとって低レベルの秘術魔法が身近な物であるのに対し、信仰魔法による治療はまだまだ驚異の対象であると言うことでもある)。
幸い、魔法が唯一の解決策と言う事は無い。治療技能は応急手当を施し、長期的な看護を行い、毒を処置し、病気を予防することができる。これらは典型的な冒険者が望むよりはるかに長い時間を必要とするが、世界中に存在する普通の人々の面倒を見るには十二分である。結局の所、エベロンに住む普通の人々は50点以上のダメージを急いで治療しなければならない状況になど陥らない(そもそも、殆どの人々のHPは20に満たない)。赤痢やコレラ(あるいはそれに相当するような病気)は確かに危険ではあるものの、その治療はミイラ腐敗病ほどには急を要するものではない。そもそも平民が魔法的な治療を受けられることは殆どなく(アデプトにリムーブ・ディジーズを掛けて貰おうと思えば150gp=未熟練労働者の5年分の年収が必要になる)、非魔法的な手段は彼らにとっては唯一の望みである。
これらの要因の為に、寺院付きの医師の殆どは呪文使いではなくエキスパートであり、1レベルのエキスパートでも技能ランクで+4、《自力生存》特技で+2ないし《技能熟練(治療)》特技で+3と、能力値ボーナスを除いても+6〜+7の修正値――負傷した、或いは毒を受け、病にかかった人の生死を分かつライン――を確保できる。であるから、例え魔法でなくとも一般の人々にはそれで充分なのである。勿論PCの1レベルクレリックはこれと同じかより高い数値の治療技能を持っているであろうから、こうした治療師も典型的な冒険者パーティにとってはそれほど頼りになる物ではない。
上で述べたようにエベロンでは熟練した呪文使いは珍しく、寺院も例え大金を積まれてもそうした呪文使いを金で貸し出す事はしない。典型的なキャンペーンではペイロアかイルミターの教会が(適切な金額か奉仕と引き換えに)魔法の治療を施してくれるのを期待することができるが、シルヴァー・フレイムやソヴリン・ホストなどの恵み深い教会でさえ、信者でないものにその治療の呪文を与えようとはしない(キース・ベイカーが「エベロンの宗教」で言及したように)。小汚い冒険者でなくとも、自身が信者であることを証明できなければ、何者だろうと信仰魔法の恵みを得る事は出来ないだろう。
教会が幸運にも呪文を使える聖職者(高レベルのアデプトか聖戦の騎士たるクレリックであるかを問わず)を擁し、かつ冒険者に魔法をかける場合、代償として金銭よりも奉仕活動を期待する傾向がある(金銭や単なる好意は商人や貴族からいくらでも得られるのに対し、冒険者は「誰にも真似できないことをやってのける誰にも真似できない人々」であり、教会はそうした貴重な能力を利用したがる)。これは冒険の丁度いいとっかかりにすることができるだろう。特に一人以上のPC――クレリック、ドルイド、パラディン(或いはその他の信仰心篤きキャラクター)――がその宗教と強い関係を持っていたりするなら尚更である。
キース・ベイカーが前述の記事で指摘したように、堕落した聖職者は「呪文を売らない」原則の例外となる。そうした個人は最終的に何らかの形で教会の利益になると信じている限り、神から授かった力で金儲けを続けることだろう。このような振る舞いはいずれ教会からの追放に繋がるかも知れず、そうした堕落したクレリックは面白い腹心ないし雇い人になるかもしれない――元同じ宗派の、堕落していない信者に出会えばひと悶着起こることは必至だが、回復呪文の予備タンクとしては中々便利であろう。こうした追放された堕落したクレリックは有名な冒険名所の近くに(例えばモーンランドへの街道脇に、霧から安全な距離をとって)キャンプを張り、瀕死の冒険者から高い代価を取ってえげつなく稼ぐことすらある。
勿論PCは呪文使いの希少さにつけ込んで、その賜り物を何らかの取引に使うこともできる。例えばホブゴブリンの略奪者から街を救った後、PCのクレリックが地元民に対して一年に一度の治療呪文の無料提供と引き換えにその地方の寺院の建て直しを依頼するなど。これはその地方のエキスパート聖職者(より良い生活スペースと宗教活動の拠点の獲得)、教会(寺院の改築と地元民からの好意)、およびPC(度量が大きいという名声と宗教からの支援の約束)それぞれにとってメリットがある。更にこの行為によって街が発展すれば、いずれ冒険から引退するときにこの町の教会を任されるかもしれないし、街における世俗的な地位を得ることすらあるかもしれない。
上の仮定における唯一の不確定要素はジョラスコ氏族である。寺院と違い、彼らは適切な対価を支払えば誰に対しても(魔法か否かを問わず)治療サービスを提供する。1レベルキャラクターでさえ最下級ドラゴンマークを保有できるので、氏族として神へのアクセス手段を持っているわけではないにも関わらず、ジョラスコ氏族には多くの魔法医師が存在する。ジョラスコ氏族の有能な医師と商業的なあり方故に、誰もが――特にその地方の寺院と関係がなかったりもてなかったりする人々――治療となれば彼らを頼る。エベロン・ワールド・ガイドで示された「典型的な」ジョラスコ氏族の医師は3レベルアデプトであるが、キース・ベイカーはドラゴンシャードのメイジライトの記事の中でその代用になりうる治療師(ジョラスコの薬剤師)を提示している。薬剤師はドラゴンマークなりアデプト呪文なりによってキュアポーションを作ることが出来、ジョラスコ氏族はエベロンにおけるキュアポーションの最大の供給元である。
エベロン・ワールド・ガイドにあるとおりジョラスコ氏族には対価を払わぬ者を治療してはならないという掟がある。これは時折彼らをとんでもなく不快な人々としてしまうが、それ故にこの氏族が冒険者の助けを必要とすることもある。これは例えば二つのグループの間に存在する敵意を和らげたり(例えば二つの名家の争いが血で血を洗う抗争に発展しかかっていたりする時)、望まざる政治的圧力から身を守ろうとして、しかし表立って氏族上層部の調停を仰げないような状況で起こる。