Eberron Under the Glass 11/01/2004

ゴブリン類の台頭

ショーン・K・レイノルズ


 

失われたアーティファクトの探索であれ、古文書から見付かった伝承であれ、はたまたゴブリンの暴動への対処であれ、エベロンではそれぞれ少しずつ、普通のD&Dとは異なっている。本シリーズは、エベロンで遊ぶプレイヤーやDMがこの世界における「それらしさ」を理解する一助となるべく執筆されたものである。

さて、今回のお題はゴブリン類である。おなじみのやられ役である彼らはエベロンでは一体いかなる存在なのだろうか?

 

過去の栄光

典型的なキャンペーンではゴブリン類は文明的な地域の周辺で野蛮な生活を送り、時折群れをなして国境近くの農場を襲う原始的生物である。一般にその装備は人間その他の文明化した種族より粗末な物であり(より軍事的なホブゴブリンはもっと良質の装備を保有している傾向はあるが)、文明化された種族の歴史において村を襲う害獣以上のものである事は少ない。

これとは対照的に、エベロンにおけるゴブリン類はかつて強力なダカーン帝国を築き上げ、コーヴェア西部の大部分を統治していた。帝国そのものはすでに崩壊しているが、エベロンのゴブリン類、特に原始化したガールダー族ではなく、僅かながらも帝国の文明を受け継いだダカーニ族にはかの帝国の誇るべき遺産が二つ残されている。

殆どの世界とは違い、エベロンのゴブリン類はドルカラ(哀歌の歌い手、ゴブリン類におけるバード)の歌う、人間やエルフやドワーフよりも先にコーヴェアを支配していた偉大なる帝国の栄光を聞きながら育つ。これらの昔語りはダカーニ族の長たちが戦士たちの人間への復讐心をかき立てるのにしばしば利用される。他の世界のゴブリン類達が食料と戦利品の為に略奪を行うのに引き換え、ダカーニのゴブリン類たちは「偉大なる帝国の為に!」と雄叫びを上げて戦場に進軍していくのである。熱狂は飢餓よりもよほど強い動機であり、戦士たちの覚悟は死を前にしてもいささかも揺らぐことは無い。

あらゆる古代文明と同じく、ダカーン帝国には驚異的な技術が存在した。現在のエベロンからすれば原始的に見える部分もあるが、古きゴブリンの都市には今なおエベロンないしカイバー・ドラゴンシャードで作られた古のアイテムが埋もれており、狡猾な将軍の手によって掘り起こされるのを待っているかもしれないのだ。失われた帝国にはデルキールとの戦いの為の強力な武器(恐らくは異形に強烈なダメージを与えるそれ)が存在しており、またデルキールの精神攻撃を防ぐためのアイテムも存在しただろう。

 

永遠の下層階級

エベロンは殆どの大都市に下層市民としてゴブリンが存在する、珍しい世界である。ゴブリン類が「遠くに」存在する生物である典型的なキャンペーンと異なり、エベロンのキャンペーンでは文字通り人間の足元にゴブリンがいる。それらの都市の市民は庭を手入れし、動物を世話し、家を建て、鉱山で働くゴブリンのことを忘れていたり無視したりするが、彼らのほうでは特権階級の雇い主に対する憤りを忘れることはない。こうした労働者ゴブリン達も、カリスマ的なリーダーの手にかかれば容易く殺人者の群れと化す。庭師の道具、大工の槌、鉱夫のつるはし・・・予期せぬ敵によって振るわれれば、どれも戦争に用いる武器と同じくらい致命的な凶器となり得るし、都市の中に浸透しているゴブリンによる反乱は門を破る必要がない分、下手な軍隊が攻めて来るよりも危険なものとなる。

追い詰められた奴隷ゴブリン達は時折逆襲のためにゲリラ戦法を取ることがある。例えば、ゴブリンが誰かの庭を汚せば、そこから利益を得るのは結局ゴブリンである。こうする事によって都市は痩せ細り、ゴブリンが潤うのだ。考えてみればよい。ゴブリンの鉱夫と大工が働かず、家は完成せず、船はいつまで経っても修理されない。こうした状況が経済にも軍事にも多大な影響を及ぼすのは言うまでも無い。ゴブリンの抵抗が必ずしも血生臭い物である必要は無いのだ。しかしこれらの「受動的」抵抗は怪物の群れを排除して解決するわけではないし、暴動の原因とアイデンティティに関する厄介な問題は依然として残ったままである。人間とゴブリンどちらにとっても痛し痒しと言ったところであろう。

 

新国家

典型的D&Dの背景世界におけるゴブリン類とエベロンに存在するそれらのもっとも大きな違いはゴブリン達に主権国家として認識された故国が存在するということである。ブレランドから来た冒険者がダーグーンに無断侵入したり、ゴブリンを殺したりすれば、それは犯罪ないしテロ行為(冒険者たちの規模によっては戦争行為)となる。ラカーン・ドラールから北進する武装したホブゴブリンの一団は暴力的な略奪者ではなく、契約により行動する傭兵のグループかもしれない。その一団が後でキャラバンを攻撃したとしたら、それは過失だろうか、雇い主が犯罪者なのでその命令に従っているのだろうか、それともリーシュ・ハルークによって周到に計画された戦争の前段階なのだろうか? 都市ゴブリンの反乱と同じく、そうした者たちを殺したとしても問題の解決には繋がらない。真実の解明には調査を必要とするし、その結果更に大きな問題が浮上するかもしれない。勿論独立した軍事力を率いる将軍がダーグーンには存在するし、ハルークの軍の一部が(ハルークの許可の有無を問わず)そうした攻撃を行ったのだとすれば、ハルークは彼等が裏切り者であるとの声明を出し、盗賊たちを排除する努力を促進することをスローンホールド条約の他の署名者達に約束するだろう。もっとも、こうした主張は常にある程度の懐疑の目を向けられる物である。公式に非難はしていてもその実黙認していたり、あるいは奨励さえしている活動に対する政治的隠蔽に過ぎないことなど良くあるからだ。