Steal This Hook! 05/21/2007

"お願い、助けて!"

ロバート・ウィーゼ


 

今月、ついに勇者大全は発売された。新しい特技、上級クラス、英雄の「神に導かれし者」としての側面をプレイするための多くの興味深い情報がいま本棚にある。「勇者」は常に目的を必要とする。そしてその目的の大半は次の二つのうちどちらかに当てはまる。すなわち、悪を討つか、善良な人々を守るか、である。主に邪悪と対峙してきたこれまでのフックに対して、今月は純潔な者を守るそれに焦点を当てようと思う。今月のフックにおいて災厄に見舞われた善良な人々はそれを救ってくれる「勇者」を探し求める。あなたのプレイヤーが操る英雄を、いかなる要素が英雄たらしめているのか。それをこのキャンペーンで見つけ出して欲しい。

 

 

涙がちょちょぎれる話 ―― フォーゴトン・レルム

ジンニー、それは魔神と呼ばれるこの世の外より来たりし者達である。ライドを旅するのは危険ではあるが、大鴉の城塞とイリンヴォー間の街道を通れば少なくとも野蛮な遊牧民の襲撃を避けることは出来る。PCたちは今その街道を何らかの理由で旅しており、北側の荒野で死体を発見する。死体は「チェンカー」というあだ名で呼ばれているハーフリングのバードのもので、驚いたことにまだ生きている(よって実は死体ではない)。彼は服を殆どはぎ取られており、寒さ、乾き、飢えで死にかけている。PC達がこれを助けるなら彼は神に感謝し、悲しげな低い声で事情を話し始める。

「おそらく逃げ延びたのは俺一人だろう。友人と仲間は全て・・・・それ以上は俺にもわからないんだ。俺たち八人は"大氷河"を目指して旅してた。"ねじれた地"の端を横断してライドにやってきたんだ。"ねじれた地"は無人だからな。だが彼の地に入って二日目、俺たちは火山岩の大地から屹立する城塞を見つけてしまった。当然俺たちはそこを調べようとしたんだが、入る前にみんなまとめて気を失っちまった。気がついたときには真っ赤な皮膚を持ったでかいジンニーが目の前にいて、お前達は俺の奴隷になった、これからは『ご主人』である俺の命令に従えと言ってきやがった。けど俺にはわかってた、こいつは俺たちの頭をどうにかしようとしてるんだって。仲間達は次々に奴の魔法にやられていったが、俺は屈服したふりをしてチャンスを待った。数ヶ月後、俺は排水口から脱走して"ねじれた地"を縦断し、蛮族の闊歩する土地を抜けてどうにかここまで逃げてきたんだ。それでもあんた達に助けてもらわなかったら飢えと渇きでこのままおだぶつになってた所だ・・・。ヤンダーラよ、この親切な人々に巡り会わせてくれたご配慮に心よりの感謝を」

チェンカーは彼とともに戻り、ジンニーと対決して彼の仲間を解放してくれるようにPCに懇願する。彼の逃走で仲間達全てが殺されるかもしれないのだ。彼は、彼ら全員の全財産と引き替えに魔神を倒して仲間を助けてくれと依頼する・・・彼らの財産は全て、今や魔神の物なのだが。

d100動機

01-60 チェンカーは全く誠実である。

61-75 チェンカーは「ご主人」に仕えるデーモンのしもべである。PCたちが何か「ご主人」の欲しい物を持っていたために、彼らを誘い出すべく一芝居打ったのだ。

76-85 チェンカーはPCが彼を殺すのではないかと恐れて一芝居打った。砦は本当に存在するが、それ以外はでたらめである。彼は砦に近づいたところで姿を消すつもりなのだ。

86-00 チェンカーはPCの一人の友人ないし親戚である。本来彼は獲物を誘い出すための撒き餌であるが、彼は意を決してPCたちに真実を伝えたのだ(彼の友人と仲間は『保険』としてジンニーに捕まっている)。彼はPCが「ご主人」を殺して彼の友人を解放してくれることを望んでいる。

d100ロール:カスタマイズ

00-25 「ご主人」はジンニーではない。彼はウィザードに捕らえられたデーモンであり、ウィザードを殺してその城塞をこの地にまで移動させたのだ。力を蓄える間、衆目から自らを隠すために。

26-45 他の冒険者がジンニー(またはデーモン)の奴隷になっており、彼らは解放されることを望んでいない。彼らは冒険者の存在を「ご主人」に告げたりはしないが、城塞から連れ出されることには抵抗する。これは魅了の魔法による物かもしれないし、自発的な選択の結果かも知れない。

46-70 "ねじれた地"の脅威は魔神の城塞そのものに勝るとも劣らない。冷たく凍てついた荒野は大氷河からやってきた怪物の闊歩する恐るべき土地であり、その中にはアイスワームやルモアハズも含まれるのだ。

71-00 PCが到着したとき、城塞はどこにもない。ハーフリングが逃亡したため、「ご主人」は城塞を数マイルも移動させてしまったのだ。PCは城塞が存在したことを信じるかどうか、また信じたとして今やどこにあるかもわからぬそれを探すかどうかを決めなくてはならない。「ご主人」は城塞の痕跡を消しており、容易く発見は出来ない。

キャンペーン適合

寒冷地帯でプレイするためには「Frostburn」、デーモンを用いるなら「魔物の書」が鉄板だろう。ジンニーに関してはモンスターマニュアルがあれば十分だ。

エベロン:チェンカーを発見するのはエルデンリーチ、ジンニーの城塞はデーモン荒野というあたりが適当だろう。

D&D一般設定:無人の荒野である必要は必ずしも無いが、城塞は文明地からある程度遠くになくてはならない。チェンカーがたどり着く前に死んでしまってはいけないので、あまり遠すぎてもいけない。

グレイホーク:ジンニーの城塞は塵海の端にある。チェンカーは奇跡的な逃避行を続けて地獄炉山脈の反対側で力尽きたのだろう。

 

"私の代わりに戦ってくれないか?" ―― エベロン

闘技場。そこは命をチップとした賭博場だ。生きるも死ぬも、己の実力と運任せ。ドロアームはモンスター種族やモンスターの末裔がひしめく、危険な場所である。この地にはオーガ、メドゥサ、ノール、ハグ、その他有りと有らゆるモンスター種族がいると言っても過言ではないし、他の国で大多数を占める主要種族は不審の目で見られるのが常である。法律もまたしかりで、ドロアームの法は人型種族には厳しい。丁度他の国でモンスター種族に厳しいように。

グレート・クラッグはこの地の首都である。そして同時にドーター・オブ・ソラ・ケルと呼ばれるハグ達の家でもある。トロールとオーガーはこれらのハグの敷いた法を守るために存在するが、その執行において力が入りすぎることも珍しくはない(それは彼らが楽しむためである事もしばしばある)。彼らは時折剣闘士奴隷として囚人をコロセウムに送り込む。一回の勝利と引き替えに彼らは自由を与えられるのだが、彼らの相手となる剣闘士は概ね手練れであり、実際にそうなることはまずない。ハグ達がこれを冷酷であると感じた場合、囚人は蘇生を受けて複数回のチャンスを与えられることもある。

何らかの理由でグレート・クラッグを訪れていたPCはやせ衰えたハーフエルフが通行人に話しかけているのを目撃する。彼は鎖に繋がれ、威嚇しているようにも見える二匹のトロールに両脇を固められており、大方の通行人は彼を無視している。
「私は潔白だ!」
「誰か、私の代わりに戦ってくれる人はいないか!」 
彼は大罪を犯して起訴されたが、裁判の代わりに闘技場に引き出されることになっている。しかし一目してそれに耐えないとわかったため、代理を立てることを特別に許されたのだ。もし闘技場で勝利できなければ、彼に下される罰は死以外にはあり得ないだろう。しかも、彼は最大の感謝以外に差し出せる何も持っていないのだ。

注意:これはあからさまにお人好しなキャラクターのための導入であり、食いついてこない場合は無理に使用せず、すっぱりと別の手を考えてください。

d100ロール:動機

00-60 ハーフエルフのイズモラスは本当に潔白であるが、それを立証する手立てがない。人間やハーフエルフに対し、この国の正義は少しばかり及び腰なのだ。よって、この戦いに勝つことのみが彼の潔白を証立てる唯一の手段である。もし勝てたなら、行政官は実際に戦ったのが誰かどうかは気にせずに彼を釈放するだろう。

61-70 このハーフエルフが道ばたで晒されているのは、闘技場を盛り上げようとする関係者の意志が関わっている。こうして道ばたに晒された囚人は彼が初めてではないが、代理人を見つけられたのは彼が最初である。

71-00 ハーフエルフはこのトロール達が彼の犯罪の責任までを背負って(つまり負ければ彼の代わりにPCが死刑になる。これもまたドロアームの正義だ)戦う誰かを捜していることを知っているが、自らそれを口にすることはない。彼は臆病であり、とにかくPCをその気にさせようと躍起になっている。

d100ロール:カスタマイズ

00-45 このハーフエルフはスケープゴートであり、既に罰せられているため、犯罪のことは既に誰の頭にもない。問題は戦いであって、PCが勝つか負けるか、それすらもどうでもいいのである(PCを除いてだが)。しかし、この犯罪を詳しく調べることは、ハグの暗い陰謀に満ちた面白い冒険に繋がるかも知れない。

46-80 闘技場の主は時折不正をすることで知られており、彼は思い通りの展開を仕組むために何かを動かす。PCが順調に勝ち進んでいるなら追加のモンスターを放つかもしれないし、格下と見せかけて手強い剣闘士を出してくるかもしれない。またPCに与えられる武器に細工をするかも知れない。

81-00 剣闘士の中に派閥がある。PCは本来の仕事をこなす傍ら剣闘士奴隷の反乱を成功させねばならないかもしれない(「グラディエーター」のように)。

キャンペーン適合

このフックには、いくつかのキャンペーン世界には不適当であるかも知れない要素がある。だがもし使用するならば戦士大全とモンスターマニュアルは必須だろう。そうそう、スパイクト・チェインとネットを忘れないように。わからないならラッセル・クロウの「グラディエーター」を見るんだ。これは闘技場の描写をするためにも有益だぞ。

フォーゴトン・レルム:これは月海のヒルズファーによく似合うだろう。モンスター剣闘士を人型種族の剣闘士に変える必要はあるだろうが。

D&D一般設定:そのキャンペーン世界に剣闘士がいるならば、何ら問題なく導入できる。そうでないならばそれを作るなりこのフックをスルーするなりしてくれ。

グレイホーク:この手のことが起こりうるのはアーリッサ連合王国だろう。特に東側の国でうまくいくはずだ。

 

家畜泥棒 ―― グレイホーク

おら人間の村さ行くだ!祭政一致の神権国家ペイル神聖国はフラネスの北、寒冷な地域に存在する。フォルタスの司祭達が確固たる哲学を持ってこの地を支配している。東のレイカー山脈、西のフォスト森に囲まれ、人々は質素な暮らしを送り、よりよき人生を求めて労働に勤しんでいる。

PC達がこの国の東部を、レイカーヴェイルから南のオグバーグまで旅している途中、東を目指して街道を横切っている巨人の足跡を発見する。追跡特技を持っていて、技能判定に成功すれば、足跡の主はヒルジャイアントであり、八体ほど存在すること、何か重い物を引きずった後があることもわかる。足跡は東のレイカー山脈に続いており、西に辿れば牧畜を営む農村にたどり着く。農村では多数の家畜が行方不明になっており、混乱が起こっている。足跡は農村を横切っているが、それが何であるか彼らは知らない。三週間前にも一度同様のことが起こっており、その時はそれっきりであると村人達は思っていたが、そうではなかったわけである。しかし、ただの村人に巨人を追いかける技能や勇気があるはずもない。であるからして、彼らは折良く村に訪れた冒険者・・・つまりPC達にフォルタスの名において家畜を取り戻してくれるように願う。彼らは巨人が多くの宝を持っているに違いないとは言うが、彼ら自身はそれほどたくさんの報酬を払えるわけではない。

d100ロール:動機

00-75 巨人は本物であり、家畜が盗まれたのも事実である。そして牧場主は非常におびえていて、彼らの牛が戻ってくることなど想像もしていない。

76-85 巨人はこの国を混乱させようとしているアイウーズのエージェントから報酬をもらっている。このエージェントは件の村に住む村人の一人から様々な情報を提供されているが、村人の方では自分が悪党と取引していたり、家畜泥棒の巨人を手助けしているなどとは思ってもいない。

86-00 農民の一人が牛を盗んで、それを遠くに売り飛ばしている。巨人の足跡はカモフラージュに過ぎない(必要に応じて以下のカスタマイズを参照)。

d100ロール:カスタマイズ

00-25 巨人が家畜を盗んでいるのは自分たちのためではなく、彼らを奴隷としているホワイトドラゴンのためである。

26-70 巨人は自分たちのために家畜を盗んだが、前回も、そして今回も彼らの村には戻らなかった。ルモアハズやパープル・ワームと言った山に生息する獰猛なクリーチャーによって、略奪隊は牛ごと食われてしまったのだ。

71-75 巨人達は単独ではない。彼らは東方を侵略するためのアイウーズのエージェントに率いられた部隊の一部に過ぎないのだ。巨大な露営の中には邪悪な人型生物とその他のクリーチャー、デーモンすら存在する。

76-00 追跡に備えて彼らは罠を残していく。落とし穴、崖崩れ、及び落下してくる丸太などである。

キャンペーン適合

巨人はどんな世界でも人間の飼っている家畜が大好きである。巨人に関する本はないため、強化するならバーバリアンかスカウトのレベルを、少数の巨人にはクレリックないしソーサラーのレベルを付与すること。

エベロン:ドロアームから来た巨人が隣接するブレランドに侵入して・・・というのがいいだろう。

フォーゴトン・レルム:シャー。遊牧民と近くの丘ないし山に住む巨人。PCがそこにいる理由さえあれば実に理想的な舞台となるだろう。

D&D一般設定:いくつかの牧場と邪悪な巨人の住む山、後は適宜必要な物があれば。近くに都市がある必要はないだろう。