Dragonshard | 09/25/2006 |
キース・ベイカー
サイオニクスはこの数十年の間ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの分かちがたき一部分であった。しかしながら精神の力は剣と魔法の世界で実際どのような地位を占めているのだろうか? サイオニクスが設定の中で不可欠であり、自然に溶け込んでいると感じさせるためには何ができるだろうか? この記事はサイオニクスの隠れたセオリーをいくつか拾い上げ、ダンジョンマスターがゲームの中でいかにサイオニクスを取り扱うかを論じる物である。
外方次元界の構造はエベロンの賢者達によって熱心に討論が行われてきたテーマの一つである。ある学派によれば次元界は実の所無数の現実がない混ざったたった一つの世界であると言う。エベロンにおけるあらゆる戦いは"戦いの野"シャヴァラスにその鏡写しの闘争を持ち、どんな小さい炎にさえも"炎の海"フェルニアへの接続が存在する。この理論によれば全ての生物は生まれながらにしてさまざまな次元界に霊的な接続を持っており、これらのつながりが魂を夢にあってはダル・クォールに誘い、死して後はドルラーに引き寄せるのである。
またあるものは二つの次元界が死すべきものの精神を特に引き寄せるという。その説によれば"夢の領域"ダル・クォールは常命のものの想像力そのものに固く結び付けられており、"狂気の領域"ゾリアットはあらゆる強い感情を映す鏡である。更に人によっては怒り、哀しみ、喜びを問わず、圧倒的な感情の奔流が起こるときはゾリアットから心の底に感情のうねりが噴出しているのだと信じている。
これらが真実であるなら、サイオニック・パワーは常命のものの心を経路として、また同時にレンズとして吹きだす次元界の力そのものである。ワイルダーの"荒れ狂う激情"はゾリアットに満ちた生の感情の噴出を利用する物であり、一方サイオンの研ぎ澄まされた能力は夢の力をもって現実を改変するものである。
サーロナはエベロン・キャンペーン・セッティングにおけるサイオニックのメッカである。ここはインスパイアドとカラシュターの故郷であり、エラン、ドゥエルガル、ドロマイト、ミーナッド、ハーフジャイアントは全てこの大陸に(或いは大陸の地下に)住んでいるといわれている。アダールの長老たちはかつてこの大陸が一度ダル・クォールと密接に接近したことがあり、それがサイオニック的な生物が大量に存在することの理由であると信じている。しかしダル・クォールが巨人族の魔法によって永遠に軌道を外れたとき、ダル・クォールと繋がる顕現地帯も全て消え去っている。
その理由に関わらず、サーロナは多くのサイオニック的クリーチャーが存在しており、サイオニクスハンドブックやComplete Psionic(未訳)のソースを最も簡単に導入できる場所である。DMがサイオニクスを制限したいのであれば、サイオニクスの力はサーロナという土地に何らかのつながりを持っていると設定することができる。テレパスになりたがっているチェンジリングはアダールでカラシュターの師匠を見つけて修行しなければならないかもしれないのだ。あたかもザ・シャドウ(暗黒六帝にあらず。スーパーマンなどの一世代前、1920年代の大衆小説のヒーロー)が人の心を惑わせる術を学ぶためにチベットの高僧に弟子入りしたように。
サーロナについての解説と住民たちの力については「Secrets of Sarlona(未訳)」で詳細に語られるであろう。
サーロナにダル・クォールとの結びつきがあるならば、コーヴェアにはゾリアットとの伝統的な結びつきがある。マインドフレイヤーたちはこの狂気の領域を象徴する存在であり、これら異形のサイオニックパワーは伝説的なものである。イリシッドはダカーン帝国との戦いにおいて様々なサイオニックのアイテムや武器を使い、今日ではそれらが世に出てくることもある。デルキールとマインドフレイヤーは等しく他の生物を堕落させることを楽しみ、その実験の成果は殆どあらゆる生物に現れるイリシッドの烙印に見ることができる。地下竜教団は生の感情と狂気から力を得るワイルダーとアーデント(ardent、Complete Psionics所収のサイオニック基本クラス)を養成している。顕現地帯は魔法に対してそうであるようにサイオニクスにも作用するかもしれない。特にゾリアットと繋がる顕現地帯は闇の使徒を見つけるのに最適であり、地下竜教団のワイルダーはそこを聖地として恐怖の砦を築くことだろう。
これらのゾリアットとの接続はコーヴェアの荒野にサイオニック能力者を生み出す・・・しかしそれは文化としてはいかなる物になるのだろうか? より深い役割をサイオニクスに与えたいと思うなら、考慮すべき選択肢がいくつか存在する。
ラザー公国連合。ラザーの人々は古いサーロナの伝統――長い間に五つ国の市民には忘れられた伝統を保持し続けている。インスパイアドが現れる前、サーロナではサイオニクスは一般的ではなかったものの、幾つかの王国はサイオニクスの技を編み出しており、秘密裡にその衣鉢を継ぐ公国が存在しているかもしれない。DMがComplete Psionicを導入しているならば、隠された六氏族(Six Hidden Houses)はラザーを越えてたやすくコーヴェア全土に勢力を広げるかもしれない。
クォーリの啓示。インスパイアドとカラシュターはともに天才的なサイオンであり、どちらの勢力にもコーヴェアの人間に彼らの技術を伝えるという選択肢がある。カラシュターの場合それは純粋な善意に基づく行為であり、恐らくは光の道の伝道とセットになっているだろう。一方、ドリーミング・ダークがサイオンを訓練するならばそこには隠された動機がある――恐らく、修行者を騙して新たなインスパイアドのための肉体を訓練しているのだろう。ドリーミング・ダークは憑依した人間を使うことによって容易く自らの痕跡を隠すことができるため、人々は自分たちを訓練しているのがインスパイアドだなどとは夢にも思うまい。カラシュターが平和的な力に焦点を合せて修行を積む一方、ドリーミング・ダークはより邪悪な軍隊を生み出すかもしれない。ソウルナイフの暗殺者、報酬目当てのサイキックウォリアー、あるいはテレパスのスパイ・・・そうした者たちは自らがクォーリのゲームのコマだということにすら気づかないのだ。
国家による養成。戦争ともなればあらゆる国家は新しい兵器を捜し求める。サーロナとコーヴェアの貿易は増大する一方であり、五つ国の指導者達もこの新たな力の潜在能力を学び始めている。多くの国はこの外国の伝統を無視するだろう。アンデールは秘術の力に信を置き、スレインはシルヴァー・フレイムの信仰の力に依存している。しかしカルナスとブレランドではサイオニックを取り入れる余地が充分にある。テレパスのスパイを排除し、或いは自身で用いるための超能力工作員を養成するために。ブレランドのキングズ・ダークランタンが潜入工作員のチームを訓練している一方、カルナスではキネティシストの戦場における運用に付いて研究を重ねているだろう。勿論、政府機関における最高位のサイオンがもしクォーリのスリーパー・エージェントであればとんでもない騒ぎになるだろう。
この記事はエベロンのキャンペーンにおいてサイオニクスを拡張する手段について述べてきたが、ダンジョンマスターによっては魔法のみが超自然的パワーの源である、という設定を作るためにサイオニクスを排除するかもしれない。
エベロンの基本設定においてサイオニクスの主な源はカラシュターとインスパイアド、そしてサーロナ大陸である。DMがサイオニクスを無視したいなら最も簡単なのはこれらをゲームから削除してしまう事だ。クォーリはダル・クォールから物質界にアクセスする方法を見つけることが出来ず、カラシュターもインスパイアドも生まれなかったとすればよい。ただし、その場合DMはサーロナ大陸を現在支配している新たな勢力について考えねばならない。ロード・オブ・ダストがリードラの支配者であるかもしれないし、イリシッドの暴君と汚らわしきアボレスによって統治される異形の王国であるかもしれない。または、単にコーヴェアと隔絶した文化を持つだけの普通の人間の王国かもしれない。
DMがサイオニックを使用したくは無いが、カラシュターやドリーミング・ダークを捨て去るに忍びないというならば別の選択肢もある。カラシュターとインスパイアドは心のパワーのかわりに秘術エネルギーを生成する天賦の才能を持つ、生まれながらの魔術師であるとすることだ。この場合、DMはマインド・シードのパワーに相当するようなオリジナルの秘術呪文を作成したくなるかもしれない。もしそのような呪文が存在しているとすればそれはクォーリの目的にとって非常に重要なツールと成り得、ドリーミング・ダークは秘中の秘としてそれを隠すことだろう。
選択ルール:サイオニクス抜きのカラシュター及びインスパイアドキャンペーンにサイオニクスを導入しないなら、カラシュターの種族的特徴に以下の変更を加えること。 適性クラス:ソーサラー 生来のソーサラー;カラシュターは呪文を準備しない秘術呪文使いのクラス(ソーサラー、バードなど)になるとき、ボーナス呪文を決定する際に有効魅力度を+2して計算することができる。これは呪文の抵抗難易度を計算するときには考慮せず、使用できる呪文レベルを計算する際にも考慮しない。これはカラシュターの「生来のサイオニック能力」にとってかわる。 擬似呪文能力:マインドリンク(1/日)。擬似呪文能力であるということ以外はエベロン・ワールドガイドの同名の擬似サイオニック能力と同じであり、これにとってかわる。 マインドリンクの擬似呪文能力以外については、インスパイアドの空の器(空の肉体)にも同様の修正を施すのが適当であろう。 |