Dragonshard 05/30/2005

エアレナルのエルフたち

キース・ベイカー




訳注:今回前半部分が「エベロン・プレイヤーズ・ガイド」の内容と被ってますのでお持ちの方は「エアレナルの魔法」からお読みください。

 

エアレナルの島においては生と死を隔てる壁は決して厚い物ではない。エアレニ・エルフは彼らのもっとも偉大な英雄を魔法と信仰の力で現世にとどめ、これらデスレスは数千年に渡り子孫達に守護と助言を与えてきた。

エルフの文明はゼンドリック大陸で始まった。何千年もの間エルフは巨人たちの奴隷であり、抑圧されていた。三万九千年前、エルフたちは巨人達に戦争を仕掛けた・・・しかし、この戦争に勝者はいなかった。戦争が最も激しかった頃、エアレンという名のエルフの予言者が次に起こる大災害を予見し、多くのエルフを率いてゼンドリックから脱出した。予見どおりゼンドリックの帝国はドラゴンの炎と恐るべき魔法に砕かれた時、エルフの艦隊は新たな故郷となる島に到達していた。しかし、エアレン自身は長い旅の途中で病に倒れ、その光景を見ることはなかった。新しい故郷の土に偉大な預言者を葬り、彼らの指導者はその島をエアレナル、すなわち「エアレンの眠る地」と名付けた。

避難民はエアレンの旗の下で団結したが、彼らは様々な伝統と信念を持つ、多くの異なった部族の出身であり、しかし種族の自由のために死んだ先祖と英雄たちに対する崇敬は共有していた。エルフの文化は軍事的であったが、エアレンは秘術の知識こそ最も素晴らしい武器であると教えており、多くのエルフはこれに従って剣をおき書を取った。そうしたエルフたちは自らをエアレニと呼び、魔法と神秘の探求に生涯を捧げた。彼らの最大の関心の一つは死霊術の技に関する物で、先祖に対する崇敬から自らの種族の英雄を永遠にこの世に止める方法を見つけようとしていたのである。時間と共に二つの派閥が魔術の分野を二分するようになった。一つはヴォルの系譜であり、その多くはアンデッドへの変化による不死をコーヴェアに広めようと考えていた。もう一つが変成の聖職者たちであり、正のエネルギー及びイリアンのパワーに着目したもの達であった。最終的には正のエネルギーを用いた手法が定着し、二本の道はデスレスのカルトの元に一つとなった。今日不死宮廷は二万年以上に渡りこの島を支配しており、デスレスはエアレニの生活と不可分に結びついている。

現在のエアレナル

エアレナルの都市では生と死が隣り合わせに立っている。街路は名誉の戦死を遂げた英雄と人類よりはるかに古い文明の記念碑にそって通り、はるかな古代の英雄のそれの隣にすぐ前の世代の偉人たちの記念碑が立っている。この戦死者への傾倒は外部のものからすれば病的に思えるかもしれないが、アンダイングの存在を前にしてはそんな感想も色を失う。不死宮廷のメンバーは死の街シャー・モルダイから出てこないが、より若いデスレスはエアレナル中で見かけることができる。外国人からはまずデスレスとアンデッドの区別はつかないため、旅行者はしばしば生者がゾンビ及びリッチと暮らす島としてエアレナルを記述する。

死及びデスレスの魅力を抜きにしても、エアレナルでは現在は過去の上に作られるという考えが一般的である。エアレニ・エルフは何よりも伝統を重んじ、芸術家や吟遊詩人は新しいスタイルを生み出すことよりも古代の技を完全にマスターすることが求められる。エルフは自らの仕事に対して不可思議なほどに没頭する。エルフの弓師は何世紀もの時間を技能の練磨につぎ込み、人間の職人が夢にしか見れないような素晴らしい弓を作るかもしれない。しかし彼は過去の伝統に従っているだけであり、彼が今日作る弓は五千年前の墳墓で見付かる弓の完全なコピーである。ただし、エアレニは秘術の技に関しては完全な物などありえないと信じているので、魔法の分野においてのみ革新は奨励されている。しかしこの分野でさえエルフはうっかりすると過去の伝統に目をくらまされており、しばしば若い種族が魔法において彼らと互角の域に達する理由はこの辺りにもある。

あらゆる国の人々がピラス・タレアーの港で商売をすることができるが、外国人はエアレナルのほかの場所ではまず歓迎されない。リードラと異なり、旅行に関する制限はエアレナルには存在しない。冒険者たちは自由にこの島を移動することができる。しかしエルフにはより若い種族に対する忍耐が殆どない。エルフのウィザードと賢者は生涯を研究に捧げ、エアレニの職人は自らの技芸に専念し、農夫や他の労働者でさえ自らの義務に対して驚異的な献身を行う。部外者はそれらを乱す邪魔者であり、うるさいか、無礼であるか、あるいは単に無知であり、エアレナルの秩序を乱す。従って彼らはエアレナルを自由に移動することは出来ても、歓迎されたり歓待を受けたりすることは滅多にない。加えてこの島の法は迅速で厳しく、犯罪がエアレナルではまれな事もあって、警吏には平和を乱す人々に対する忍耐がまったくない。エアレニの裁判官はゾーン・オブ・トゥルースなり他の占術なりを事実確認のために使うかもしれない。しかし、裁判官の言葉は絶対であり、犯罪者に権利は全くない。追放が一般的であるが処刑が行われないわけでもない。賢い悪党ならもうちょっとやりやすい場所で仕事をするだろう。

エルフの系譜

エアレナルは幾つかの血統に連なる、血縁集団によって構成される国家であり、それらがシブリング・キングスと不死宮廷の元で一つに纏まっている。それぞれの系譜はゼンドリックから予言者エアレンに付き従った部族の一つに血統をさかのぼることが出来、それらの血を引く血統をメリデス、ジェリアン、メンデリアン、トーレンといった名家がまとめている。だからあなたがドロレンシ家のエルフであると同時にジェリアンの血も引いているというのは充分ありうる。

名家はそれぞれの系譜を率い、伝統的にこれらの名家の子弟のみがデスレスとなれる。しかし名家の子弟というのは生まれつきのものではなく、実力で掴み取る地位である。あらゆるエアレニ・エルフは貴族として生まれるのではなく、貴族として選ばれるのである。名家のメンバーが、率いる系譜の中から優秀なものを後継者として指名する。エアレニの名家の子弟=貴族は同じ血族と子を作らず、優秀な血を広く伝えるために系譜の他の家のメンバーと子を成す。エアレニにとっては繁殖と結婚は別の話である。結婚は愛の問題だが、子供は共同体全体の問題であり、全てがそうでないとはいえ死者が死した後も生者と同じく闊歩するこの島で、人口抑制は極めて重要な問題なのだ。エルフは子を作る権利を得なければならず、貴族にはもっとも有望な組合せを決める権利がある。その結果、エルフは自分の属する系譜の全てのメンバーを大家族の一員として捉える傾向がある。

共同体に属する全てのメンバーは貴族に、そしてそこから不死宮廷に上る可能性がある。通常貴族は彼らが持つ技能によって選ばれるのだが、これがエルフが何世紀もかけて自身の技能を一意専心に磨く理由である。しかし、近年より若いエルフは外国での功績を通して自分の価値を証立てようとする。あるいは翡翠爪騎士団と戦い、あるいはゼンドリックの秘密を求めて。ひょっとしたらこれこそ君が冒険者になった理由かもしれない。英雄的な行いはすなわち不死の世界への切符なのだから!

これまでハーフエルフが名家に加わったことは一度もない。しかしいくらかのコラヴァールが彼らの先祖の列に加わってはいる。エアレニのプライドと偏見はハーフエルフの貴族が生まれる可能性をごく低い物とするが、世の中に不可能などはない。恐らく君は英雄となり、エルフの祖先から受け継いだ賢明さが人の血でいささかたりとも揺らぎはしないということを立証するだろう!

死者とデスレス

エアレナルのエルフは死んだ仲間を手厚く葬る。彼らの防腐処理技術は芸術の域にまで高められており、コーヴェアの大都市でそれを商売にしているものすらいる。亡骸の埋葬準備が整えられている間に、個人の一生を記した伝記が二部つくられる。一つは亡骸とともに葬られ、もう一部はシャー・モルダイの大図書館に保管される。いつか亡骸を掘り起こした誰かが、その業績を知ることができるようにとの配慮である。亡骸はエアレナルの都市の下に作られた墳墓に納められ、ここ数万年の先祖達とともに眠りにつく。盗掘はエアレナルでもっとも凶悪な犯罪であり、それを繰り返したものは処刑の上火葬されて死の記録が作られることもない。

エルフはそのもっとも偉大な英雄にのみ不死の生という褒賞を与える。エアレニは軍事的技能と同様に知恵と知識に敬意を払うので、不死宮廷には戦士のみならずウィザードや、あるいは賢者や芸術家もいる。それでも殆どのエルフは死後地下墳墓に入る。伝統的にデスレスになれるのは三世紀を生きたエルフだけであり、変成の聖職者たちは例えこの名誉にふさわしい者であっても充分な人生を送っていないものは次の段階に進む尊さが分からないのだという。よって、見込みがあるとされる者であれば、若くして死んだ場合、充実した人生を送ることを期待されて蘇生を受けることができるかもしれない。

デスレスも自動的に不死宮廷のメンバーになれるわけではない。通常戦士であればアンダイイング・ソルジャーになり、国家の防衛にあたる。大都市か地下墳墓であればその姿を見ることができるだろう。一方アンダイング・カウンシラーはまず賢者や行政官の仕事につく。とは言え重要なものは生者に任せておく。これは生者の成長を妨げず、死者に依存しないようにするためである。そして千年の修行を積むとようやく新米カウンシラーは不死宮廷の見習となることができる。そこでアセンダント・カウンシラーに仕え、偉大なる先達の下で学ぶのだ。次の段階ともなるともうこれは常命のものの理解の及ばぬ所であり、齢何千歳にも達し、イリアンのエネルギーに満ち溢れたアセンダント・カウンシラーは、この世でもっとも想像を絶する存在の一つである。

エアレナルの魔法

野蛮な人間が炎を我が物にせんと四苦八苦していた頃、既にエアレナルのエルフはコンティニュアル・フレイムを使っていた。それぞれの世代で島の大都市には新しいマジックアイテムとアーティファクトが加わり、ピラス・タレアーにはシャーンにさえ勝る驚異がある。多くの都市には強力なプレスティディジテイションの込められたオーブが埋め込まれており、エアレニの都市を通り抜ける人々はどこからともなく流れてくる音楽を聞くかもしれないし、気づくと衣服、髪、皮膚が完全に清潔になっているかもしれない。噂では大都市間に貴族用のテレポートゲートのネットワークが存在するというが、これが本当であるならばそれらは貴族たちの重要な任務の為に使用されるだろう。

エアレナルのエルフは秘術魔法が科学であり芸術であると考えている。殆どのエルフは天賦の魔法の才能を持ち、人間よりもはるかに容易くこの道に入ることが出来る。エアレナルの住民の大部分はコモナーないしエキスパートであるが、多くのものは1,2レベルのウィザードレベルを持ち、専門のウィザードもコーヴェアにおけるメイジライトと同じくらいに一般的である。一般に死霊術に対する関心は高いが、一方でこうしたウィザードの殆どは実用的な魔法――テンサーズ・フローティングディスク、アンシーン・サーヴァント、プレスティディシジョン、メイジクラフト、或いは同様の魔法を重要視する。

一般に死霊術は死の魔法であると考えられているが、エアレナルではそれが特に顕著である。死を研究する際にエアレニのウィザードは生命に関して学び、恐怖を研究する際には希望に関して学ぶ。エアレナルのエルフにとって魔術の研究とは力の探求であると同じくらいに哲学的な逍遥である。ウィザードのレイ・オブ・エンフィーブルメントで敵を打ち倒す能力などは研究の余禄に過ぎない。エアレニが避ける物の一つがヴァンパイア、リッチ、レイスなど負のパワーで動くアンデッドの創造である。エアレニはこれらのクリーチャーが生命にとって大いなる呪いであると信じている。彼らによればデスレスはイリアンの正のパワーと子孫たちの崇敬――彼らが自ら望んで差し出す力によって支えられている。対して負のパワーで動くアンデッドはエベロンそれ自体の生命を吸い上げて存在を維持しているのだと。カルナスの魔術師はこうした考えを一笑に伏すが、エアレニはこれを非常な重大事として受け止めている。

エアレナルには"永遠の夜"マバール及び"永遠の昼日"イリアンとリンクする多くの顕現地帯がある。これらは死霊術の呪文に力を与え、エアレニのウィザードとクレリックはこれらの顕現地帯でだけ実行可能な多くの死霊術の儀式を編み出した。デスレスが島の外に出ることは可能ではあるが、エアレニは不死宮廷の存在を維持するためにはイリアンのパワーとのリンクが不可欠であると考えており、結果としてアセンダント・カウンシラーがシャー・モルダイ――広大なイリアンの顕現地帯――から外に出ることは滅多にない。

ファッションと習慣

エアレニは全てにおいて完璧を求める。エルフの衣服は美しく、多くは2,3色の異なった色が複雑におり混ざる紋様を為している。しかし、エアレニの衣服はまず機能性を重視する。結果としてエルフのシャツは色あせないままで30年間使い続けられるかもしれない。エルフはそれと同じくらい建築に対しても気を使う。実際シャー・モルダイの建築物のいくつかは二万年前からそのまま変わらぬ姿を保っているのである。エルフはデンスウッドとライブウッドから都市を作るが、これらの木造建築物は石のそれと同じくらいにその姿を保持する。

エルフは美を作ることに大きな喜びを感じる一方、肉体美に関してはちょっと理解しがたい考えを持っている。不死宮廷の信奉者にとって肉体は仮の器であり、老いどころか死すら恐れる物ではない。それは人生の一部なのである。デスレスはゆっくりと肉体を分解させ、死者そのものの姿に近づいてゆく。ならば当然、不死になろうとするエルフにとって肉体の美など些細なものということになる。これがエアレニ・エルフが他の人型種族がやるような化粧を全くしない理由の大部分を占めている。仮面はエルフのファッションとしては一般的なものであり、不死宮廷の聖なるシンボルは金色の仮面である。中にはそれを一歩推し進めて自分の体を傷つけるエルフたちもいる――自ら肉体美を捨てる事によって死者に近づき、より良い来るべき生に備えるのである。

武力よりも秘術の知識に重きを置いてはいるが、一方で彼らはその先祖の軍事的伝統に敬意を払っている。全てのエルフは子供の頃から剣と弓を学ぶし、弓術と様式化された決闘は彼らの間では一般的な娯楽である。普通のエルフにとってこれは肉体的な運動であると同時に精神的な活動でもある。ターナダルの従兄弟と同じく、エアレニは戦争を芸術であると見なし、単純な力ではなく速度と技を重視する。スワッシュバックラーとスカウトが一般的であるが、ファイターも一定の地位を得ている。彼らは弓か、攻防一体から始まる特技を主に習得した危険な戦士達である。

よそ者からはしばしばエアレニは冷たく無感情のように見える。しかし実際にはエルフは他の種族と同じくらい喜怒哀楽を感じる。彼らは単に他の若い種族のように感情を大っぴらにしないだけなのであり、また親しくない人間に自分たちの本心を明かすことも滅多にない。エアレニには洗練された、或いは洗練されすぎているユーモアのセンスがある。例えば冗談一つが完結するのに1時間、或いは1日かかるかもしれないくらいの。一般に人間からするとエアレニのユーモアは無味乾燥であるかまぎらわしい物であるが、エルフのほうからすれば五つ国の文化の底が浅いだけである――勿論彼らは若い種族の至らなさを許す度量を持っている。

プレイヤーへの質問

エアレナル出身のエルフをプレイするとして、必ず答えなければならないのがなぜ故郷を捨てたかということである。エアレニは滅多に旅しない。エアレナルは聖なる地であり、コーヴェアは混沌と無知の渦巻く大陸である。あなたは貴族に列せられ、不死宮廷に加わるという望みの為に出てきたのかもしれないし、またデスガードのアンデッドハンターやカーダル・ブレードのスパイなのかもしれない。あなたはあなたの系譜を代表して行動することができるし、ひょっとしたらあなたの後援者は不死宮廷の一員その人であり、自らの目として世界を見るようにあなたに言ったのかもしれない。そうでなければあなたはエアレナルの文明が澱んでいると感じて、世界へ飛び出す必要性にかられたのかもしれない。より若い種族の知恵を捜し求めるために。

以下はあなたに必要かもしれない幾つかの質問である。

  • あなたの系譜の歴史はいかなるものですか? ジェリアンの系譜は深く霊的であり、エアレナルの強力なアデプトとクレリックの大部分を輩出しています。あなたの系譜には魔法、ないし軍事的な特定の伝統が存在しますか?
  • あなたの両親は誰ですか? あなたの実の親の一人はあなたの系譜の名家の一人であるかもしれない。彼女と密接な関係がありますか?或いは全く疎遠ですか?
  • 先祖の助言特技は特定の不死宮廷とのメンバーとの密接なつながりを示します。全てのエアレニは不死宮廷に先祖を持ちます。先祖の助言を得る権利のためにあなたはかなり大きな功績か、潜在的な可能性を示したはずです。この特技を持つのであればあなたとあなたのDMは後援者が誰であるか、また彼があなたのことをどのように知ったのか決める必要があります。
  • エアレニ・エルフは我慢強く育てられます。あなたは何千年も生きることができるのです。成人に達したエルフとして、あなたは既に普通の人間の一生よりも長い時間を生きています。何かを決定するとき、マイペースを貫いてください。結論を急がず、感情的で短気な行動をしないで下さい。平常心です。
  • エアレニ・エルフとして、あなたは肉体的な外見は結局の所無意味であると教えられて育ちました。外観で人を判断しないで下さい。他の者は美に惑わされたり、醜さに戦慄するかもしれませんが、あなたにとってはどちらも単に人生のある過渡期における状態のひとつに過ぎません。