Dragonshard 03/07/2005

エベロンの月

キース・ベイカーとクリス・パーキンス




エベロンの空は驚きに満ちている。赤道を回るシベイの輪は昼の光の中でさえきらめきを放ち、賢者は星の連なりに天駆けるドラゴンを見る。そして色と光で夜空を満たして、12個の月がエベロンの上を回っている。

この沢山の月はエベロンに様々な影響を与えている。例えばザランティルはエベロンの潮の満ち干にもっとも大きい影響を与えるし、その他の月も風と水に一定の影響を与える。そして月の合はそれ自体が冒険になるほどのドラマチックな影響すら生み出す。月の合は海面の大幅な低下を引き起こし、ゼンドリックの沿岸に存在する、海中に没した古代遺跡を出現させる。船乗りはザランティルがアリスを覆い隠すときに起こる大渦巻きの話を伝えている――そこに引き込まれた船は、"黄昏の森"ラマニアのエレメンタルの海か、"永遠の氷原"リシアの凍てつく海に放り出されてしまうのだという。セレン人の中で生活したことのある賢者ガレオンによると、月は水と同様魔法の力の満ち干にも影響を及ぼしており、セレンの蛮人たちはその月の神秘の力を引き出す秘術的儀式を知っているという。もっとも、秘術評議会では今のところその主張を裏付けるにたる確実な証拠は見出されていない。しかしダンジョンマスターは特定の儀式やマジックアイテム、またはエルドリッチ・マシンが特定の月の合の間のみ働くとしても良いし、また満月が特定の次元界の顕現地帯の効果を高めるとしてもよい。

それぞれの月には活性期間(ascendant phase)――異常に輝きを増す28日間の期間が存在する。現在までに学者達はこの現象に対して納得がいくような説明が出来ておらず、依然として空の神秘の一つのままとなっている。この活性期間のサイクルが陰暦の基礎となっており、暦の各月はその時活性化している月にちなんで命名されている。占星術師の中には活性化している月が生まれる子供の技能と精神に深遠な影響力を持っていると主張する。例えばザランティル月に生まれた子供は野性的かつ機敏になり、セレンドール月生まれの子供は優しく親切になるなど。またドルイドとレンジャーにとって、活性化している月は力の源であるかもしれない――ドラヴァゴ月生まれの子供には、この月が満ちているとき動物を静める特別な力を得ると信じているのだ。これをゲームに取り入れるなら、DMはキャラクターの生まれ月が満月である夜は1アクションポイントを彼に与えることにしてもよい。このポイントは彼の月に関係する作業にのみ用いることができる。

ドラゴンマークが現れたとき、賢者たちはマークのパワーと月の特性の間にある類似性を素早く発見した。一般的な伝承では、それぞれの最初のドラゴンマークは特定の月が活性化したときに顕現したのだという。また俗説によればマークと関連した月の間に生まれる子供はそうでない子供に比べて強力なドラゴンマークを発現する可能性が高いと言い、縁起を担ぐドラゴンマーク氏族のカップルはその月の間に出産できるよう、様々な努力を行う。賢者の中にはかつて13のドラゴンマークがあったのと同じく、天にも既に消えてしまったか、或いは単に肉眼で見えない13番目の月があると信じている者がおり、複数のドラゴンやゼンドリックの遺跡で発見された彫刻によってもその存在はほのめかされている。この月が空にかつて輝いていたとしたら、人類の文明が生まれるはるか前に消滅したか見えなくなったことは疑いないし、主要種族の中でその月の名前や天空に占める(或いは占めていた)場所を知る者もいない。

12の月

ザランティル、嵐の月
: パールホワイト
関連するドラゴンマーク: 嵐
直径: 1,250マイル
エベロンからの平均距離: 1万4300マイル

ザランティルはエベロンにもっとも近い月であり、故にこの惑星の潮の満ち干にもっとも大きな影響を与える。ある言い伝えによれば、ザランティルが満月の時にはその表面からエベロンの表面に向かって稲妻が走ることがあり、からりと晴れた空から、まさに晴天の霹靂が降って来るのだという。ドルイドによればザランティル月に生まれたものは野生的で嵐のように激しい本質を持っている。これは攻撃的と解されることもあるが、純粋さや抑制されないエネルギーの顕現とも言える。バーバリアン、ファイター、ソーサラー、力術師はみなこの月との絆を感じるかもしれない。

オラルーン、歩哨の月
: 薄いオレンジ
関連するドラゴンマーク: 歩哨
直径: 950マイル
エベロンからの平均距離: 2万2500マイル

このオレンジの月はその縁の色がやや薄くなっており、満月のときに肉眼で見ると金具で縁取りをした丸い盾のようにも見える。ドルイドはオラルーンが活性化しているときに生まれた子供は共同体と秩序に対する強い絆、そして他のものを保護しようとする自然な願望を持っているという。一般的に信じられている所では、この月に生まれた英雄の数は他の月に生まれたいかなる英雄の数よりも多いという。またライカンスロープ(特にワータイガー)は守護者たる半神の女神としてオラルーンを崇める。

セレンドール、医師の月
: 薄いグレー
関連するドラゴンマーク: 治癒
直径: 1,100マイル
エベロンからの平均距離: 3万9000マイル

セレンドールはバラカスの兄弟月であり、ランタンの月と同様の、しかしより狭い軌道を共有している。セレン人とドルイドはセレンドールが満月でバラカスが新月の時に調合した薬草は普通のそれよりも強い力を持つと主張している。セレンドール生まれは優しく、人の気持ちを察することが上手いと考えられており、聖職者、調停者、医師にはしばしばこの月の生まれのものがいる。

イール、金床の月
: 銀白色
関連するドラゴンマーク: 創造
直径: 1,200マイル
エベロンからの平均距離: 5万2000マイル

イールが満月であるとき、目のいい者ならその表面にどことなく金床に似た形を見て取ることができる。ドルイドの言う所によれば、イールの下に生まれるものは堅実で実用的な本質と、物を作るための才能を授かる。職人の中には特に難しい仕事を行うときにイールが満月になるまで待つものもいる。また金床が空に完全な形を描くとき、カニス氏族はしばしば祝い事を行う。

ドラヴァゴ、牧夫の月
: 薄いラベンダー
関連するドラゴンマーク: 調教
直径: 2,000マイル
エベロンからの平均距離: 7万7500マイル

その大きさと鮮やかなラベンダー色は、ドラヴァゴをして強烈な印象を与えている。その軌道は他の月のそれとは大きく離れており、古い伝説によればこの月は他の月を率い、その軌道を一定に保つ役目を果たしているのだという。ドラヴァゴ生まれの子供は、他の人々に囲まれているよりも動物や植物と一緒にいる時に心地よく感じるという。牧夫、御者、農夫としては天分の素質だが、その一方で社会的な行動をしばしば苦手にする。時折ドラヴァゴからエベロンに石が落ちてくることがあると言う。そして錬金術師はこの「ドラヴァゴの紫の塵」が特筆すべき魔法的特性を保持していると長年主張し続けている。

ニム、王冠の月、または"ニム王"
: 浅い黄色
関連するドラゴンマーク: 歓待
直径: 900マイル
エベロンからの平均距離: 9万5000マイル

ニムの黄金の円盤は忠誠心に関係しているといわれる。ニムが活性化しているときに生まれた子供は社交的、カリスマ的であって、天才的な雄弁家とペテン師を生み出すといわれている。ガランダ氏族のハーフリングは「ニム王」が満月の夜はしばしば経営する宿で割引を行う。

ラーヴィオン、目の月
: 黒い筋の入ったぼんやりした白
関連するドラゴンマーク: 探知
直径: 1,350マイル
エベロンからの平均距離: 12万5000マイル

この月には長さ750マイルに及ぶ黒い割れ目を持ち、エベロンから見ると満月のラーヴィオンは細長い瞳を持つ目に見える。多くの迷信ではこの月が災いをもたらすことになっており、ラーヴィオンの目が完全な姿を取る時には奇妙な出来事と災いが空に起こるようにも思える。ドルイドはラーヴィオン生まれの子供に不自然な洞察力が備わると信じており、天才的な予言者と調査員がこの月にはしばしば生まれる。

バラカス、ランタンの月
: 薄いグレー
関連するドラゴンマーク: 発見
直径: 1,500マイル
エベロンからの平均距離: 14万4000マイル

バラカスはエベロンでもっとも明るい月であり、狩人は夜獲物に忍び寄るとき、この月の光を大いに評価する。この月は姉妹月であるところのセレンドールと同様の、そしてより広い軌道を共有しており、時折この兄弟の後ろに隠れる。セレンドールがバラカスを覆い隠す――俗に「バラカスが恥ずかしがっている」と表現される――合の時、船乗りは海で行方不明にならないように注意を払う。この月に生まれたものは狩人の才能を授かると信じられているが、そうした才能の持ち主が用いる物事を明白にするコツは、そうした才能を持たない者を混乱させてしまう、と信じる者も多い。ラーヴィオンの息子が他者に見えない物を見るなら、秘密に光を当ててそれをさらけ出すのがバラカスの娘なのである。

ラーン、本の月
: 薄青
関連するドラゴンマーク: 刻印
直径: 800マイル
エベロンからの平均距離: 16万8000マイル

エベロンのもっとも小さい月であるラーンは、ぱっと見単なる明るい星にも見える。望遠鏡で見れば一ページ分の文章にも似た、ひと連なりの隆起が見えるかもしれない。ドルイドはラーンが創造的思考を与えると考えており、ダンサー、音楽家、詩人、及びあらゆる種類の芸術家はこの本の月からインスピレーションを得ると信じられている。

シフェロス、影の月
: 煙った灰色
関連するドラゴンマーク: 影
直径: 1,200マイル
エベロンからの平均距離: 19万3000マイル

シフェロスは鈍い光を放つ月であり、しばしば夜空に紛れて見つけられなくなる。近年になって高性能な望遠鏡で観測した結果、月の中央にぎざぎざしたひびが(まるで月が二つに割れるかのように)入っていると確認された。多くの人はこの月の間に生まれた子供はずるくて信頼できない性根の持ち主であると信じており、両親はしばしばこの月の出産を避けようとする。しかしドルイドはシフォロスの子供は邪悪ではなく、影に親しみ、恐怖することなしにそれらと向き合えるのだと言う。

アリス、門の月
: オレンジのかった赤
関連するドラゴンマーク: 移動
直径: 1,000マイル
エベロンからの平均距離: 22万1000マイル

ブラックドラゴンのヴァラークが最初のドルイドに伝えた所によれば、アリスはザランティルが潮の満ち干に対して持つのと同じような力を顕現地帯に対して発揮し、アリスが満月の時のみこの力が弱まる故に、顕現地帯が現れるのだという。この月の下で生まれたものはひとところに落ち着くことはなく、漂白と探検の抑えがたい衝動に突き動かされるのだという。ラザーの人々はサーロナからコーヴェアへの最初の大移動を導いたのがアリスの子らであったとしている。

ヴァルト、監視の月
: 灰色。無数の凹凸が見て取れる。
関連するドラゴンマーク: 監視
直径: 1,800マイル
エベロンからの平均距離: 25万2000マイル

ヴァルトはエベロンから最も遠い月であり、星々の彼方から来る力を防ぎとめているという伝説がある。ドルイドは一般にヴァルト生まれの子供はあらかじめ計画を練り、常に最悪の事態に備える実際的で慎重な人々であるという。突然の災厄が起こるとき、ヴァルトの子供たちは文明を団結させる。賢者ガレオンはセレン人に関するその研究の中で、彼らはヴァルトが神の座に達しようとして叶わず死んだグレートワームの魂を「貪り食う」と信じていると報告している。

エベロンのライカンスロープと月

満月はライカンスロープに大きな影響を与える。そしてエベロンでは変身生物は一夜の間に複数の月の影響にさらされ、その間で揺れ動くかもしれない。12の月の内一つが満月であるならば、ライカンスローピー罹患者は「望まない変身」を巻き起こす。こうした罹患者は変身制御技能の判定に成功することにより、通常どおりこれに抵抗することが出来る(難易度25、モンスターマニュアル303ページ参照)。しかしこの判定には変身の第一夜以降、二回目以降の満月が来るごとに-2のペナルティを負う。

これはライカンスローピーにかかったキャラクターが一ヶ月で平均19回の間呪いに抵抗しなければならないことを意味する。従って、一度罹患して一週間以上属性が変化しないでいられる患者は滅多にいない。