Dragonshard 12/27/2004

ドラゴンの予言書

キース・ベイカー


 

占いの水盤は空を映し、その中にシベイの輪がきらめいていた。ティエランスラクサがかすかに呟くと水盤の映像が拡大され、シベイの輪を形作る個々のかけらが見てとれるほどになる。破片がラーンの月に影を落としているのが見え、そして水盤の映像はついにそれをとらえた。赤い月の光に取り囲まれたそれは紛れもなく、カイバーの爪であった。

ドラゴンはいらだちまぎれにしゅうしゅうと音を立てて息を吐き出した。彼女は何日も天空に現れたサインを観察しており、アララクサスの書及び水と煙の動きから読み取れる前兆を繰り返し確認した。これはパズルの最後のピースであった。ロード・オブ・ファイアは幻の都で甦り、三つのものだけが彼を再びその牢獄に縛めることができるだろう。嵐の子供、鋼を形づくる者、そしてキーパーの手。今夜彼女はコーヴェアに向かう。そして運命の戦士たちを探しだすのだ。



ありとあらゆる伝説の中でもっとも古いものは三頭の祖なる竜の物語である。ある物語によればカイバーがシベイを殺し、エベロンによって縛られたという。そしてエベロンがこの大地に、カイバーが地下の暗黒に、シベイは空にきらめく輪になったと。

殆ど全ての人間がこの伝説を知っている。殆どの宗教もまた、他の神格やその時々の権力者などと共にこれを受け入れてきた。しかし極僅かに、この伝説の裏に隠された真相を語るものがある。カイバーとシベイはこの宇宙の運命そのものにかかわる秘密を知り、それを我が物にせんと戦ったのだと。

この伝説の真実を知っている人間は一人もいない。しかしアルゴネッセンのドラゴンは人類よりはるかに古くから存在しており、本当の意味でシベイの子らである彼等は古代の神秘――すなわちドラゴンの予言書の研究に何万年もの時間を捧げてきた。

予言は未来を指し示すが、ただ一つの明確な未来を示す事はめったに無い。この記事のはじめを見て欲しい。賢者たるドラゴン、ティエランスラクサは幾つもの前兆を読み取り、考察した後に「ロード・オブ・ファイアはデーモン荒野で復活し、三なる者のみが彼を再び縛めにつかせることができる」と結論を下す。予言の断片に示された三人の人物だけがこのデーモンを打ち破る事ができると。しかし、予言書は彼等が「そうする」などと語ることはない。ただ「そうできる(かもしれない)」というだけなのである。殆どのドラゴンの学者は予言書の知識を収集するが、それが示す運命に対して干渉する事はない。長老たちはドラゴンという種族の目的は予言を記録する事であると信じている。チャンバーの、より若いドラゴンたちは未来を自分たちで作ろうとしているが、必ずしも彼等の中で意見の一致を見るわけではない。結果としてあるものは三人の運命の戦士を導き、またあるものは三人に困難を与えようとするかもしれない。これらの竜たちはデーモンにかかわる予言についてそれぞれ異なった解釈を持っており、予言された事態が起こるまでこのデーモンには他者からの余計な干渉を受けて欲しくないのだ。どちらの陣営も予言された出来事の結果としてデーモンそのもの、また三人の戦士がどうなろうともそれには興味を持たない。重要なのは誰が未来を制御し、誰の解釈が現実となるかということなのである。

ストーリーを動かす小道具として予言を用いることで、DMはストーリーテリングに幅を持たせることができる。予言によればPCたちはかのラークシャサ・ラジャーを打ち破る事ができる唯一の存在なのだ、というように。しかしこの例では彼等がいつどのようにしてそれを実現するかは言及していない。これは冒険の導入になる――しかし、解釈と失敗の余地を残しているのである。パーティーの失敗はイコール予言の否定ではなく、彼等は再挑戦することができるし、予言に対しても新しい解釈を行う事ができる。恐らく彼等は単独で勝利を収める事は出来ないだろうが、シルヴァー・フレイム教会とドル・アラーの勇士の力を一つに合わせるための重要な役割を担う事が出来る。DMは予言書の関連する箇所がどれだけ詳細な記述を持っているのかを決めなくてはならない――つまり、予言にそって行動する際にパーティが創造的でいられる余地をどれだけ残すか、ということである。

予言の断片

どんなキャラクターも(ことによるとDMも)ドラゴンの予言書の全文を見つけることはできないだろう。セレン人及びドラゴン達そのものとの接触で、賢者たちは彼等が予言を記したドラゴンシャード・テキストを持っていること、それらのうちもっとも注目すべき物がアララクサスの書及びタラッシュ・シベイの書と呼ばれるそれである事を知った。しかし、これらの大半は既に起こってしまった出来事か、単独では役に立たない不完全な断片である。これらの断片を完成させる為のピースは世界そのものを画布として書き記される(訳注:エベロンの「世界」とはすなわち、中たる竜そのものである)。予言は時に空の星とシベイの輪を構成するシャードの動きに、時に深い海の底に、時に生あるものがかつて触れたことのないはずの洞窟の壁面に浮かぶ不可思議な紋様として現れる。しかしこれらはもっとも単純で分かりやすい形であり、ドラゴンの賢者は囁く風、斜面を滑り落ちる雪崩れの形、砂漠の砂が形作る風紋にすら霊感を受け、予言を見出すかもしれない。これらはもはや人間には殆ど理解できないレベルのものであり、賢明にして鋭敏なドラゴンですら、それらの読み解き方を学ぶには数世紀を要する。

さかのぼる事三千年、予言は新たなキャンバス――コーヴェアの住人の皮膚の上に現れるようになった。ドラゴンマークの紋様はかつて世界の奥深く、洞窟の壁面と海底の岩礁にのみ現れた予言を示すそれと共通点を持つ。ドラゴンの賢者がこれらマークの顕現が新たな予言であるという共通認識を作るには一千年を要した。多くはドラゴンマークを持つ個人個人の行動に意味を見出すが、それぞれの氏族が予言の上で固有の役割を演じるのではないかと主張するものもいる。予言の特定の部分の解読を試みているチェンバーのメンバーは「嵐」という単語が全てのリランダー氏族を指すと解釈するかもしれないし、また彼が「嵐の子供」であると考えた氏族の特定の個人を指すと解釈するかもしれない。

PCはさまざまな予言書の断片に遭遇する可能性がある。

翻訳されたテキスト:パーティは予言の(不可解ではあるが)完全な断片を入手する。チャンバーのメンバーは自己の行動を正当化するために特定の解釈を伝えるかもしれない。キャラクターはセレンの人間から予言の記された巻物を手に入れるかもしれない。彼はエアレニの暗殺者、ロード・オブ・ダストのエージェント、またはチャンバーの対立するメンバーによって殺害されたのかもしれない――そうした場合、予言の解釈そのものが生き残る鍵となることもありうる。

地形:最初のドラゴンマークが人々の中に現れる前、それは大地そのものに現れた。洞窟の壁に刻まれた文様、海底のサンゴの形、或いは曲がりくねった河の流れ、そう言ったものがしるしを形作るかもしれない。またそれらは特定のときにだけ現れ、ある時期の月の光のもとでのみ意味のある形をなすかもしれないし、数時間で消えてしまう溶岩流の中に現れることすらあるかもしれない。

これらの地形の上に現れる予言は生物の皮膚に現れるドラゴンマークと共通点を持つ複雑な紋様である。それらの一般的な意味を読み解くにはドラゴンの持つ知識と、知識(神秘学)で難易度30の判定に成功することが必要になる。しかしそれらのより深い意味は、周囲の地形、月やシベイの輪との関係、さらにアルゴネッセンのドラゴンが永劫の時をかけて蒐集した予言書のデータといった「文脈」を全て読み解かなければ理解できないかもしれない。こう言った予言書が冒険に登場した場合、それらを翻訳するだけで冒険が終る事はめったになく、例えばその目的となるのは敵の手中に落ちる前にそれを写し取ったり、移動させたり、場合によっては破壊する事であったりするかもしれない。

生きた予言書:あらゆるPCは予言書の中で役割を割り振られている可能性があるが、ドラゴンマークの保有者は予言と不可分の運命を持つ。単に世界中を動き回る事によってでもキャラクターは生きた予言書としての役割を果たす。彼が他のドラゴンマークを持つ人物と接触すれば、その相互の反応がまた神託としての意味を持つかもしれない。結果、チャンバーはドラゴンマークを持つ特定の二人が同時に特定の場所に存在するという状況を作り上げるためだけに入念な陰謀を練り上げるようになる。パーティに、ドラゴンマークを持つ「何度も出てくる敵役」かライバルがいるならこれが予言と関係している可能性は高い――未知の運命が英雄と悪漢を結びつけるのだ。

偽の予言:ロード・オブ・ダストはアルゴネッセンの竜を蔑んでおり、彼等には陰謀を練るための何万年という時間があった。例えば狡猾なフィーンドは予言の誤った解釈を作り出す。長老たるワーム・ドラゴンが騙されなくとも、チャンバーのより若いメンバーを誤らせ、冒険者のパーティを裏切らせる事ができるかもしれない。

予言を形づくる者

多くの学者がドラゴンの予言について聞いたことがあるが、それに興味があるのはドラゴンだけだと彼等の殆どは信じている――アルゴネッセンのドラゴンのみがこの難解にもほどがある予言書を解読できるのだと。しかし事実は異なる。ドラゴンの予言には多くの集団が注目しており、それはPCの冒険を後押ししたり妨害したりする勢力となるかもしれない。

チャンバー:もちろん、ドラゴンはもっとも活発な予言の代行者である。チャンバーのメンバーは何世代をかけてでも予言を実現させて見せると決心している。しかしチャンバーの異なる派閥は予言の同じ部分に付いて異なる見解を示すかもしれず、冒険者はこのドラゴン同士の争いに巻き込まれる。注意すべきことだが、ドラゴンは人間の生命に大した関心を払っていない――普通、彼等にとっての人間は単なる道具でしかないのだ。よってあるときドラゴンの後援者はパーティを助けるかもしれないが、その次に死の罠に送り込むかもしれない。

チェンバーが現れたのは極最近であり、600歳以上のメンバーは殆どいない。エージェントの多くはブロンズ、シルヴァー、そしてゴールドドラゴンであり、人間の中で活動するにはこれらのドラゴンの持つ別形態の能力が極めて有用だからであるが、他のドラゴンもポリモルフを用いることによって同じ効果を得られる。チャンバーはまたセレン人やその他の種族のメンバーを雇うこともある――従って、チェンバーの全てのエージェントがドラゴンであるなどと言う事はない。

アルゴネッセンのドラゴンの長老:原則としてアルゴネッセンのグレートワームはドラゴンは予言の結果を記録するのがその役目であると信じている。チャンバーの子供のことは基本的にほうっておくが、何らかの力が予言を捻じ曲げていると考えるなら、断固として行動する。また自分たちで動く一方で、長老たちもセレン人のエージェントや密偵を用いる。

不死宮廷:不死宮廷の不滅のエルフはドラゴンの予言書を解読する事が出来るほどに古く、賢明である。不明瞭な点は彼等が自分たちのためにそれを研究しているのか、あるいはドラゴン達を滅ぼすために研究しているのかと言うあたりだろう。これはエアレナルとドラゴンとの長年の対立の原因であると考えられる。

ロード・オブ・ダスト:これらの不滅のフィーンドはコーヴェアでもっとも古い存在であり、古代のドラゴンによってラークシャサ・ラジャは打ち破られた。その生き残りであるロード・オブ・ダストは敵の子孫を妨害する事自体を深く楽しむ。

その他:スフィンクスのフレイムウィンド(「シャーン:塔の町」に所収)やソラ・テラザ(「エベロンワールドガイド」p190)はパーティに特定の解釈をさせるため、ドラゴンの予言の断片を明らかにするかもしれない。モルデン・ザ・フレッシュウィーヴァー(「エベロンワールドガイド」p190)や、エランディス・ド・ヴォル(同p226)のような力あるウィザードは自らの計画に関係する特定の予言書の断片を持っているかもしれない。特にヴォルは死のマークを回復するためにチャンバーのエージェントと協力さえするかもしれない。