Dragonshard 11/28/2004

ズィラーゴのノームたち

キース・ベイカー




ドリラン・デル・カロルダンはちびちびとやりながらテーブルの地図を見た。

「マックリーへ捧げられた最初の寺院――そこにはどんな秘密が眠っている事か! しかしソラス、こいつは君が漁った事のない遺跡の一つに過ぎないって事もあるんじゃないのか」

ハーフオークが吼えるように笑った。「勿論危険だろうさ、ドリラン。けどよ、俺たちゃもっと碌でもない状況を何度も潜り抜けてきたんだ。 おれはゼンドリックで、シャドウマーチにいたよりも長い時間を過ごしてきたんだぜ。心配すんなって事よ、マイ・リトル・フレンド――俺達が、お前さんにゃ傷一つ付けさせないって」

「問題は私の安全でもなければゼンドリックに潜む危険でもないんだよ、君。真昼間に教師の家に侵入して血を流し、情報を得るために商人を殴りつける――場所を弁えない振る舞いとしか言い様がないね」

ソラスは微笑み、自分のコラシュクエールを大きく煽った。このノームのお行儀のいい事と言ったら! シャーンじゃ一日も生き延びられないだろうさ。「何がいけねぇんだよ? 俺はここに来て以来一人も衛視を見てないぜ。賭けてもいいが、ここほど無用心な街ってのはそうそうないさ」 ふとソラスはドアを見た。「カイルナとジャラルはどこで道草食ってやがるんだ?もう一時間近くになるじゃあないか」

「もう死んでるよ。二人ともね」 ドリランが言った。しかし、もはや彼はドリランではなかった。

ソラスの手が素早く剣の柄に伸びたが、それを抜く前に彼の筋肉は凍りついた。どんなに力を込めてもぴくりとも動こうとはしなかった。

テーブルの下に隠していた象牙のワンドを見せ付けながら、ノームは微笑んだ。彼女はドリランより若く、ダークウィーヴと革を身につけていた。「私達はね、最良の衛兵は姿を見せないものであると考えているのよ」 彼女の手の中で銀メッキされた鋼がきらめき、まるで短剣のように見えた。



ハーフリングが恐竜に跨り、エルフの侵略者が戦いの栄光を求める世界において、殆どの人はノームを脅威と考えない。ノームは学者であり、造船工であり、吟遊詩人であり製本業者である。一般的なイメージとしてズィラーゴは様々な色彩と歓声で満たされた場所であり、ノームは常に必要とする人にその腕か知恵を貸す陽気な職人達なのである。

しかし、実際にノームの中で暮らす人々は、ズィラーゴは見た目より遥かに深く暗く、ノームの愉快な振る舞いは慎重に選び抜かれた仮面である事を弁えている。正面からの戦いとなればハーフオークのバーバリアンに敵うべくもないが、ズィラーゴのノームが正々堂々と戦うことなどそう滅多にあることではない。

密林のネズミ(Jungle Rats)

ノームについての最初の言及はダカーン帝国に関する記録に見つけることができる。グーラッシュの書はハウリング・ピークとシーウォール山脈の間の海岸に出没する「密林ネズミ」に対する最初の出征について詳細に記している。一万年前のノームは現在の文明的なそれとは大きく違い、野性的かつ原始的であった。当時のホブゴブリンの賢者はセラニスの力を受けて変異したげっ歯類か、血が薄くなって変身する能力を喪失したワーラットであると信じていたようである。その根拠としてはノームの小さな体格、家族間の絆の強さ、穴に住む習性、及び穴を掘る哺乳類に共通するような種族的能力が挙げられている。

野蛮なノームがダカーンの規律ある軍隊に敵うべくもなく、帝国はこの地域をあっさりと版図に加えた。ノームたちは或いは奴隷にされ、あるいは荒野のより深くにおいやられた。しかし、征服は統治よりも遥かに容易かった事をダカーンのゴブリン達は後に痛感することになる。ノームは原始的でこそあったものの地の利を完全に我が物としており、また毒に対する才能を持っていた。彼等はダカーンの軍と戦うことは出来なかったが、井戸に毒を入れ、輜重隊を襲撃することが出来た。彼等が真の意味で帝国の脅威となることこそなかったが、数百年の間ノームたちはゴブリンの侵略者たちの悩みの種でありつづけた。

この膠着状態はひょっとしたら今日まで続いていたかもしれないが、運命はデルキールの襲撃を告げた。この越境者たちは帝国を打ち砕き、ノームたちは弱体化した敵に襲い掛かった。物理的な補給遮断と暗殺に加え、ノーム達は将来自身の代名詞ともなる心理的なテクニックをも使い始めた。まだ魔法の技を会得していなかったとは言え、その血の中には濃厚な魔法の力が息づいており、多くのノームは影からの声を呼び出し、幻術に特化したソーサラーとして才能を開花させるものも現れた。これらの技を変装や偽造といった俗な技術と融合させたノームたちは、ダカーン帝国の寸断された通信網を乗っ取って地域内の将軍達に不和を広め、ゴブリン同士を戦わせ、ダカーンをバラバラに引き裂いた内戦に火をつけたのである。

都市国家の出現

ゴブリン達が後退したとき、ノームはデルキールによって無人と化した都市を我が物とした。残された知識を貪欲に吸収し、彼らはダカーンの作った都市の跡に新たな文明を築き上げた。ノームの家族はゆっくりと集まり始め、トロランポート、コランベルグ、ザランベルグ(ゾランベルグ)といった都市国家を形成していった。彼等は低地でゴブリンと戦い、山でコボルドと戦い、時にお互い同士で戦った。しかし常に知恵比べと騙しあいを好むノームは鉄の代わりに機知を戦わせることがもっぱらであった。ノームは領土を拡張する必要性を全く感じず、敵を防ぐことで満足して自分達の主張する領土を維持しつづけた。

ノームには拡大と植民地化に対する欲求はなかったが、知識欲には抗う術を知らなかった。ある意味ではこれは生存本能に基づくものである――ノームは、情報こそが武器である事を知っていたのだ。敵について知れば知るほど、彼らの持つ力もまた増大するのであり、そして周囲は全て潜在的な敵性国家であった。ノームたちは大陸の探検を始め、コーヴェアに存在するありとあらゆる文明と交渉を持ち、それらの知る全てを学ぼうとした。

ズィラーゴの誕生

国の歴史の中でもっとも決定的な瞬間はコランベルグ図書館が作られたことだった。ドラゴンマークがコーヴェアに現れ始めたとき、ローアマスターであるドリウス・アライヤ・コランは知識の砦――エベロンのあらゆる神秘を納めた研究施設――を建設することを誓った。この考えはそれを知ったノームの想像力に火をつけ、国中がゆっくりとこのプロジェクトに熱中していった。三つの都市国家全てが資産を寄贈し、書架はすぐにダカーンの巻物と、木の棒に彫られたノーム自身の最初の記録とで満たされ始めた。図書館はノームの誇りのよりどころとなり、全ての都市国家の代表が長老評議会に参加した。

そして、現代史における最初の大戦が始まった。メレオン・リーヴァーが南海岸を素早く通過し、カルン・ウィリアム一世王は息子ガリファーが終わらせることとなる大仕事に着手した。そしてノームたちは自分達が双子のジレンマに直面していることに気づいた。都市国家のいずれであっても、単体で人類に抗する事ができるだろうか? 他の都市国家が彼らを裏切ることがないと信じられるか? そしてノームのリーダー達はその両方の懸念を解決するアイデアを見つけた――彼らが長老評議会と共に作り上げた同盟をノームの住むこの地の全土に広げ、三つの都市を正式に一つのものとして纏め上げるのである。幾つかの社会的実験の後、市議会議員によって三執政による三頭政治の携帯が決められ、ここに統一国家が誕生した。新しい国の名はズィラーゴ、すなわち「賢明なる故郷」と名付けられた。

ズィラーゴのノームは、ゴブリンに対してそうだったように、人間に対しても決して屈しなかった。ノームは木と言葉の扱いについて等しく熟達した達人であり、またシーウォール山脈に眠る宝石の鉱脈を発見した。船乗り、船大工によってコランベルグとトロランポートの名声はいやがうえにも高まり、ノームの商人、調停者、翻訳者、書記が五つ国中に広がっていった。

トラスト(The Trust)

ズィラーゴの同盟は過去の不和を帳消しにしたわけではなかった。三頭政治はノームの競争を好む本質を変えることは出来なかった――実の所、ノームの情け容赦ない狡猾さは国家としての誇りのよりどころでもあった。しかし、これらの不和が国家の結束すら乱し始めたので、何らかの対処をする必要性が明確になり、国はもう一度図書館を頼った。ここで学ぶ学生達に誠実さを強制するための手段にヒントを得て、それぞれの執政は自身の統治していた都市のエージェントを集め、直属の秘密警察――何よりも国の為に働くエリート部隊――を作り上げた。これがトラストである。やがてトラストは法の執行と国家の安全保障を一手に握るようになる。多くの国ではノームが弁護士を務めるが、ズィラーゴには裁判所はない。トラストは迅速に、そして無慈悲に正義を執行する。それは目に見えず、知らぬことはなく、スパイ、占術師、暗殺者を擁している。どのズィラーゴ市民がトラストのエージェントであるかわかったものではなく、これは友情や家族にすら優越する任務である。一人でいるときでさえ、あなたは不可視のスパイによって監視されるか、スクライ呪文で見られているかもしれない。ズィラーゴのノームはこれが国の美点であると見なす――プライバシーが存在しない一方で、これによって彼らはコーヴェアのどの国も及ばない犯罪発生率の低さを誇っている。トラストは必要なときにそこにいるし、そうでないときは決して目に見えない。組織のメンバーでさえ、極一握りの同僚と上司の顔しか知らない。大方のノームの考えでは、プライバシーの損失というのは安全の対価としてはごく安価なものである。

社会を脅かす何かが存在するときのみトラストは行動する。ズィラーゴのノームは絶えず脅迫と陰謀に従事しているが、これはズィラーゴではごくあたり前のことに過ぎない。そして、陰謀が国を危うくしたり、法を脅かしたりする場合にのみトラストが動くのである。たとえば脅迫によって有利な出荷契約を強制的に結ばせるならトラストは全く関知しない。冨は国にまだ残っている。一方、彼が殺人を起こしたり、図書館から貴重な書物を盗み出したり、カニス氏族にエレメンタル捕縛の秘密を明かしたりするなら、それは即座にトラストの介入を招く。

これらの事実は一つの問題を提起する――トラストが非常に強力な組織であるなら、冒険者はズィラーゴでどうすれば上手く仕事をすることができるだろうか? まず最初に、ズィラーゴ市民の安全が脅かされない場合、トラストは冒険者の仕事に介入しない。市民の安全と生活を損なうのでなければ、ブレランドから逃亡した犯罪者を捕縛する事も問題なくできるだろう。もちろん、犯罪者がズィラーゴの長老の家に逃げ込んだりすれば、冒険者たちは家人を傷つけずにこれを捕縛する方法を考えなくてはなるまい。二番目に、前述のとおり陰謀は必ずしも犯罪ではない。そして最も重要なことには、トラストも――人々はそう信じているが――ズィラーゴで起きる事全てを知っているわけでは決してない。たとえ誰であろうともトラストのエージェントである可能性はあるが、ズィラーゴの全てがそうであるわけではない。法を犯したと思われている不注意な犯罪者や冒険者はトラストによって細切れにされるかもしれない。しかし、パーティが綿密な計画に基づいて慎重かつ用心深く振る舞い、変装や魔法による利点を活用するのであれば、トラストの目をさえ逃れおおせるだろう。冒険者はズィラーゴで、いかなる目的であろうとも充分に果たせる――しかし、あらゆる問題を解決するためには剣とファイアーボールではなく、知恵と工夫を武器とする必要がある。

現代のガリファー

ズィラーゴのノームは一度も自らの帝国を打ち立てようとしたことはない。代わりに彼らはいつも他の種族の国に巧みに浸透してきた。ムロール・ホールドではノームが銀行の実務の多くをこなし、ラザー公国連合ではノームの商人と船員が大きな勢力を形成しており、コーヴェア中の沿岸で商売をしている。ブレランドでは産業の中心にノームの職人と技術者がおり、アンデールではノームの賢者が秘術評議会とワイナーン大学に重要な地位を占める。シヴィス氏族の伝達所は国際的な通信網の中心であり、コランベルグ・クロニクルは大陸で最も信頼できるニュースソースである。ノームはいたるところにいる。そして常に気づかれない。しかし、ノームの持つ家族の絆は殆ど誰にも知られていないが、それこそはノームの力の源そのものである。

 

 


「五つの言葉で千の剣をも打ち負かせる」

――ズィラーゴの諺



国民性

ズィラーゴのノームを社会的なげっ歯動物、と例える人がいる。実際ノームは集団でいるときにもっとも深い幸福を覚える。彼らはエネルギッシュで非常に勤勉で、大きな生物との戦いを避けようとする。しかしノームはねずみのようにしぶとい。隠密、だまし、そして純粋な頑強さがノームの生き残るための武器であり、追い詰められれば驚くほど危険な敵となりうる。

ズィラーゴの通りは明るく賑やかである。ノームは概ね頼りがいがあって親切で、旅行者の相談に大抵は耳を貸し、必要であれば手も貸す。これらは純粋な親切や善意である事もあるが、ズィラーゴのノームは生まれたときから人のだまし方を教わって育つ生き物である。彼らの親切や好意的な態度の裏には十中八九何かが隠されていると思ったほうがいい。ズィラーゴのキャラクターにはしばしば偏執狂的な傾向が見られるし、ズィラーゴのノームが本質的に利他主義者である事は滅多にない。ノームは本質的に好奇心旺盛である一方、その好奇心はしばしば潜在的な敵に影響力をもちたいという願望により活性化する。あなたが何らかの問題を抱えてノームに相談を持ちかけるなら、彼はあなたを助けるかもしれないし助けないかもしれない。助けたならばあなたは彼に借りを作ったことになるし、助けなかったのであれば彼はあなたの弱点――あなたが問題を抱えているという情報を握ったことになる。ズィラーゴの考え方によれば、あらゆる情報には相応の価値があるのだ。

全てのズィラーゴ・ノームが冷酷な策士であるというのは誇張である。確かに大方のノームは狡猾で用心深くはあるが、そうしたもの達ばかりではない。冷血な日和見主義者もいれば、他者を助けることを楽しむ者もいる。しかし、善良なノームでさえ他者を操り、騙すことによって目的を達成するかもしれない。

ノームはエネルギッシュかつ愉快な人々であり、愚かさと幼稚さからは最も遠い所にいる。彼らは熟達した商人かつ交渉者であり、言葉で他者をからめとり、己が描いた図柄どおりに織りこんでしまうことなどいとたやすい。ズィラーゴの人々は言葉を芸術であると見なしており、普通上品で洗練された言葉遣いをする。ノームは例え農夫や鉱夫であっても会話と議論の訓練をつんでいる。そう見えるように彼女が装った場合を除き、典型的なズィラーゴのノームは冠を被った道化師でもなければ人を笑わせる芸人でもない。

機知と思慮のゲーム

ズィラーゴのノームは壮大な謀略のゲームを愛するが、娯楽として最も好まれるのはもっと身近な陰謀である。一見して愚鈍に見える農夫が一ダースもの陰謀に関わっているかもしれない。これらの陰謀はしばしばその地方の共同体と関係してくる。例えば各家の間の力の均衡を崩してみたり、恋愛沙汰に首を突っ込んでみたり、または経済を動かそうと試みたりなど。貴重な書物を巡る陰謀に身を投じる二人のノームは本当にこの稀覯書を保護しようと動いてるのかもしれないし、また単なるゲーム――狡猾さと機知を試すテストとして手を出しているのかもしれない。しかしこれらの無邪気なゲームとは別に、酒場のウェイターはトラスト、アーラム、コランベルグ・クロニクル、その他国を超えて活動するような組織の為に働くことができる。

個人的な計画とは別に、全てのズィラーゴ・ノームは彼の家族、及び氏族(クラン)との強い絆を持っており、それぞれはその中で個人的な経済的・政治的目標を追求する。ビジネスにおける契約、鉱山の採掘権、政府における地位、様々なギルドに対する影響力、ズィラーゴではそうしたもの全てを決定するのに狡猾な振る舞いだとか他者を上手く操作する術といったものが関わっているのだ。前述のように、国家の安全が脅かされるか、実際の法律に触れるのであれば、それはトラストの介入を招く。例えばロリダン家とリリマン家のどちらがブラックハウル鉱山の権利を得るかで争っているとしよう。誰も殺されず、鉱山資源がノームの為に活用されるのであれば、トラストは何が起ころうとも気に留めない。しかしロリダン家がリリマン家の者を殺害し始めたり、リリマン家が鉱山をカニス氏族に売却しようとするなら、トラストが乗り出してくるかもしれない。

自分の家への忠誠心はズィラーゴでは非常に重要な物である。だましや陰謀によって反映する社会では、無条件で信じることのできるなにかの存在は非常に重要なのは当然であり、ズィラーゴにおいては血の絆がそれなのだ。同じ氏族(クラン)に属する家同士が氏族内での地位を巡って争うことはあるにしても、ノームが同じ血を分けた家族を裏切る事などまず殆ど聞かないし、仮にあったとすれば最悪の形の代償を支払う事になるだろう。同様に、好意と借りはこの賢者の国の重要な要素である。秘密、好意、そして貸し借りのネットワークは国中に張り巡らされており、そしてノームは常に、個人的な行為やその家族の負った負債の返済を望む誰かの訪問を受ける可能性がある。道理に適った要求に従わないのは大いなる過ちであり、この国を支える仕組みと同時に本人の命をも危うくする。勿論これは双方向の物であり、ノームのPCは負った借りを返すことを期待されるが、冒険を通じて助けるノーム達に好意という形で貸しを作ることができる。

吟遊詩人の役割

ズィラーゴ・ノームのデータはPHBに提示された標準的なノームのそれを使用する。彼らの珍しい文化は、他の国でいえばコモナーに相当する多くのノームが、エキスパート1レベルを取得するかわりに、生計を立てるための製作や職能といった技能に加えて、真意看破、ハッタリ、交渉などの技能と幾ばくかの言語を身につけているという点に反映される。

驚くべき数のノームがエキスパートを超えてバードの道に至る。ノームのエンターテイナーはコーヴェア中で歓迎されるが、全てのバードがエンターテイナーであるわけではなく、ズィラーゴのバードの多くは芸能技能に全くランクを持っていない。しかし、バードの呪歌の事を置いておくとしても、このクラスはズィラーゴの文化に共通する多くのものを反映している。バードの取得できる技能はズィラーゴの気風に非常にマッチした物であり、特に交渉などの社会的なそれと知識技能、そして言語技能に重点が置かれる。バードの知識はあらゆる方面の知識に注ぐノームの愛情が形を為した物であり、バードの魔法はノームの持つ生まれながらの魔法――種族の血の中に脈々と受け継がれるそれ――の拡大されたものである。であるからして、ズィラーゴのバードはエンターテイナーでありうるのと同じくらい記録者、政治家、調停者、弁護士などでありうる。

エンターテイメントに目を向ければ、ノームは単なる音楽ではなく歌と物語とを愛し、技量あるバードは己の語る物語に幻影の力を使って彩りを添える。音楽では小さなドラムと木管楽器が最も一般的である。しかしズィラーゴの名音楽家の代名詞といえばなんと言ってもサリンバー・ロッド(Thurimbar rod)――ノームが生来持つゴースト・サウンドの力を増幅し、使い手の思うがままにいかなる音をも生み出す魔法のアイテムである。これは非常に高価(2800gp)なため、普通は最高の吟遊詩人の手にあるか、もしくは秘蔵の家宝とされている。

ズィラーゴの様式と習慣

ズィラーゴの呪文の織り手(spellweavers)は布の中に幻影を織り込み、最も素晴らしいグラマーウィーヴはこの地で産出される。多くの仕立て屋は自分たちの作品に明確なイメージ、例えばイブニングガウンにシーウォール山脈に沈む太陽の目のさめるような情景を織り込むが、中には催眠的で抽象的な紋様を好む者たちもいる。魔法的なものであるか否かを問わず、多くのノームは明るい色の、ゆったりした衣服を好む。帽子も一般的であり、典型的なズィラーゴの通りでは多種多様なかぶりものが過剰なほどに自己主張をしているのを見ることができる。衣服のアクセントとして宝石やそれに準じるような石もしばしば用いられ、金や宝石を用意できないノームも銅やガラスできめ細かく作られた飾りを恥じることなく身につける。

ズィラーゴの建築物はノームの衣装と同じくらいに美しく、異なる種類の木材と石が心地よいパターンを形成して組み合わされる。最も小さい共同体でさえコンティニュアル・フレイムに照らし出され、町や大都市ともなれば捕縛されたエレメンタルが熱や光、その他の様々な素晴らしい物を提供してくれる。ノームは家の構造に異なる種族の来訪者が利用しやすいような配慮を施す。都市では中型の生物が小型生物同様に利用できるよう、あらゆる建物にサイズに応じた家具とドアが用意されているし、小さな村でさえ少なくとも一つはそうした建物がある。ズィラーゴの家屋はしばしば外国の文物――ゼンドリックやクバーラの珍しい植物、エアレ二・エルフの木工工芸、サーロナのタペストリなど――で一杯に飾られている。伝統的に、客は主人の親切なもてなしに応えるべくささやかな贈り物をもたらし、これはしばしばある種の競争になることがある。裕福なノームは彫像一つの為に冒険者パーティをゼンドリックに派遣するかもしれない――彼女はなんとしてでもパーティでその彫像を見せたがっているのだ。

ノームは自身の風采と清潔さを維持するのにプレスティディジテイションを用いる。その結果街路は不自然なまでに明るく、色は目を引く鮮やかさを保ちつづけ、ノーム達に完璧な衛生的状態をもたらす。汚い外国の都市でさえ、ノームは彼女達の外観を維持するために苦心するし、汚いノームは恐らくズィラーゴに存在しない。同様に、外観に気を使わず、不潔な状態のままでいる冒険者はズィラーゴの様々な施設やイベントから立ち入り禁止にされるかもしれない。またノームは嗅覚が鋭く、ズィラーゴのファッションにおいても香りは重要な役目を演じる。男も女も等しく香水と香油を用い、自分の香りには気を使う。その微妙さは人間には殆どかぎ分けられないレベルの物である。この社会的な「香りによる会話」は親交、会話、孤独、助け、その他を求めるという意思表示であり、ノームは判断力で難易度10、ないしは知識(地域)で難易度15の判定を行えばその意図を汲み取ることができる。長鼻の能力を持つシフターなど、鋭敏な嗅覚を持つ他の生物なら臭いの違いをかぎ分けることができるが、ノームの中で育ったのでもない限り、それらの持つ意味を察するのは難しいだろう。

ノームの持つ嗅覚と魔法(プレスティディジテイション)の才能はズィラーゴの料理にも当然の如く反映される。ズィラーゴ・ノームは多種多様な香辛料を用い、その中にはプレスティディジテイションのみが再現できるような風味も含まれる。この土地でもっとも一般的な飲み物の一つはメルコ(Maleko)で、これは冷やした水にかすかな芳香を溶け込ませた物である。エールのジョッキに目もくれず、グラス一杯の水を味わって飲むノームたちの姿は訪問者をしばしば困惑させる。

技術(アーティフィス)、錬金術、及び秘術魔法

ノームの血に流れる魔法の力――セラニスの遠い接触の証というものもいる、ちょっとした幻術の才能。多くのノームは正式なトレーニングを積む事無くこの才能を見出す。こうした発現はバードないしソーサラーとして表現される。そしてノームは心術、幻術、召喚術に焦点を合せる。ノームの飽く事なき好奇心はアーティフィサーの技術と秘術魔法の探求にも繋がった。ノームのアーティフィサーはつとに高名であるが、カニス氏族はコーヴェアでもっとも優れたアーティフィサーを有しているし、アンデールの秘術評議会(Arcanix)はこの道における最高の権威である。しかしズィラーゴのノームは二つの分野において何ものの追随をも許さない・・すなわち、錬金術とエレメンタル捕縛である。ある者は彼らがゼンドリックの遺跡からエレメンタル捕縛の秘密を発見し、それを恐るべき執念で守りつづけているのだと言う。エベロン・ワールド・ガイドではどの種族のものでもエレメンタル捕縛特技を取得できるが、DMはゼンドリックかズィラーゴでなければこの特技を取れないとしても良い。加えてズィラーゴのノームはこの知識を国家の財産であると考えており、PCがエレメンタルを捕縛した鎧や武器を作る程度ならほうって置くが、飛行船を作ってこの分野におけるズィラーゴの独占を脅かすなら、トラストのエージェントは彼らを標的とするかもしれない。

プレイヤーへの質問

ズィラーゴ・ノームのPCかNPCを演じるとき、以下のことを考えてください。

  • あなたの家族とあなたとの関係は?
  • あなたは何か長期にわたる陰謀にかかわっていますか? 貴方の敵とライバルは誰ですか?
  • あなたの好奇心はどんな形で発揮されますか? 影響力を得る? 秘術の知識? 単純に新天地を旅して興味ある人々に出会うこと?
  • 気の置けない親友を除き、誰からも自分の本心を隠してください。必要とされるどんな感情も演技も見せてください――あなたのもっとも信頼する仲間だけがあなたの本当の顔を知っています。
  • ズィラーゴのノームは殆どいつも直接的物理的な戦闘を避けようとします。暴力に訴えないで対立を解消する方法がありますか? そうでなければあなたは状況を有利に導くために何が出来ますか? ズィラーゴのノームにとって、正々堂々とした戦いなど馬鹿のやることです。
  • 言葉は芸術です。思慮深く、機知に富んだ二つの言葉を用いることができるのなら、それを一言で済ませてはなりません。