Dragonshard 10/04/2004

ヴァラナーのエルフたち

キース・ベイカー




ダーグールの将軍はフレイルをゆっくりと回しながら油断なくカーリスを観察した。
「エルフよ、貴様は何を求めてここに来た?」
部族の者達が二人の周囲を遠巻きに囲み、赤い目で注視している。

カーリスは彼女のダブルブレードを肩の高さに静止させ、隼の守りの構えを取る。水平に静止するそれはあたかも彼女の両肩から刃の翼が生えたかのごとし。
「我が求めるは伝説。一万年の昔、ティーリのディーリスはこの地に立ち、汝が祖と相対す。かの歌う刃の前に瞬く間に二十が倒れん。されど汝、いにしえのダカーンのつわものにあらず、たとえ二十の首級上げようともティーリの誉れとなることなからん」

将軍の牙の間からしゅうしゅうと怒気が漏れた。振りかざしたフレイルが火灯りを反射してきらめく。だが振り下ろされたそれの鎖が彼女の刃をかすめたとき、既に彼女は身を翻していた。フレイルの頭は空しく虚空を打ち、彼女は踊るようなステップで将軍の懐に飛び込む。刃が炎を反射して円を描いたその刹那、既に鋼の歌は歌い終えられていた。

一瞬の後、将軍の体は地面にくずおれた。彼女の嘲るような手首のスナップで刃から血が飛び散り、周囲を囲んでいた部族の戦士たちの目を打つ。たちまち囲みに剣林が生い茂り、彼女に向かって一斉に突きつけられる。その数を冷静に数え、彼女は心の中で微笑を浮かべた。

「しかれども、四十の首級ならばよし」



精神世界と歴史

エルフはゼンドリックの大陸で生まれ、ジャイアントの奴隷として文明と魔法を学んだ。ゼンドリックの巨人の帝国は竜の炎と巨人の魔法、そしてエルフの鋼が奏でる黙示録によって瓦解した。文明は後退し、大陸に残る生物は野蛮人にまで後退した。そしてゼンドリック最後の日、崩壊を予知していたエルフの予言者は数千人のエルフを連れて海を渡ったのだ。

海を越えたエルフたちは新しい故郷を見つけた。すなわちエアレナルである。エルフたちは二つの異なる文化――偉大な祖先への崇拝と、滅びた巨人の帝国による英雄的な行為――を結び付け、一つの文化として昇華した。移住者の大部分は剣を置いて、書物と魔法の技の研究に没頭し、英雄の魂をこの世に止めるべく秘術と信仰双方からアプローチが続けられた。これが一万二千年の時をかけて不死宮廷とエアレニを生み出すこととなる。

最終戦争がはじまるまで、エアレナルにもう一つの文化があることを知る者は殆どいなかった。ターナダル、すなわち"誇り高き戦士たち"である。ターナダルの先祖はエルフがエアレナルに到達したとき、剣を捨てることを拒否したものたちである。ドラゴンが彼等のものになるべき勝利を盗んだと呪いの言葉を吐くものがいれば、ゼンドリックに残ったエルフの命を奪ったアルゴネッセンの竜に対して罵りをぶつけるものもいた。エアレニは死を超越する方法を捜し求めたが、ターナダルの僧侶は過去の英雄の魂が子孫を通して生き続けると教えた――戦で勲しを上げた戦士こそ、過去の英雄の化身そのものであると。

二万五千年前、ドラゴンがエアレナルに来襲し、全てのエルフは再び共通の敵に対して団結した。アルゴネッセンとエアレナルの激突は神秘的で、いっそ目を奪われるほど魅惑的なものであったが、現在に至るまでその影響は深刻な形で残っている。最低でも数世紀のスパンで行われたこの戦争は、人間の眼にはまるでカタツムリの歩みのような代物に見えたかもしれない。戦いはゆっくりと、肉体のぶつかり合いから魔術的なものへと移り変わり、それに伴って不死宮廷に重い義務がのしかかってきた。一時戦いから遠ざかる事となったターナダルは、いさおしを求める新たな場所としてコーヴェアに目をとめた。

一万年前、キャセール・ヴァダリアはコーヴェアの南海岸に戦士たちを率いて上陸した。そこに住み着いた彼等はヴァレス・ターン、すなわち「栄光の戦士」と自らを称する事になる。南西に広がっていったエルフたちはやがてダカーンのゴブリン帝国と接触し、小競り合いはすぐに戦争へと姿を変えた。ヴァレス・ターンは勿論一騎当千の勇士たちであったが、ダカーンにも鉄の規律に統率された大規模な軍があったのだ。

ダカーンとヴァレス・ターンの戦争が佳境を迎える中、ドラゴンの、いまだかつてない規模の軍勢がエアレナルを襲った。ヴァレス・ターンのエルフは急ぎ帰国し、残された砦はゴブリン達が占領するところとなった。そしてダカーンがエアレナルに対して戦いを挑んだとき、ドラゴンとの泥沼の戦いを続けていた彼等に、同時にゴブリン達と戦うだけの力はもはや無かった。ターナダルの指導者がダカーンと交渉を持ち、和平条約が調印された。「助けを求めてこれを呼ばぬ限り、ターナダルのエルフが再びコーヴェアに上陸する事は許されざる物とする」と。

彼等は約定を違えなかった。ダカーンのゴブリンは誇り高く、デルキールの侵入を受けたときも、帝国が崩壊したときすらターナダルに助けを求めなかった。その間ターナダルは軍を整え、技を磨き、数千年待ちつづけた。王国歴914年、ついに召喚が為されるまで。

呼びかけを行ったのはサイアリのミシャン女王であった。最終戦争は続いており、サイアリはあらゆる方面から攻撃を受けていたのである。女王の請願に好奇心をそそられた指導者、シーラス・ヴァダリアはヴァレス・ターンの一族を呼び出し、戦士たちも喜んでこれに応じたのである。

42年の間、ヴァレス・ターンはカルナスとブレランドに恐怖を撒き散らし、そして突然サイアリとの全ての関係を断ち切った。多くのものは同盟が価値のないものになったせいだと考えているが、若い女王ミシャラがヴァダリアを侮辱したのが原因だというものもいる。ヴァダリアはサイアリの南東の端に自らの軍を集め、古代のエルフがここに築き上げた権利と人間の文明より古いこの血との絆について語って聞かせた。ダークウッドの王冠が彼の頭上に置かれたとき、彼はかつて祖先の物だった大地を回復し、栄光を得る機会を全てのターナダルに与えると誓った。彼は土の中に自らの刃を埋め、ヴァラナー、すなわち「栄光の王国」の建国を宣言したのである。

国民性

ヴァラナーは軍事文化の国であり、戦団のメンバーは常に栄光を求めている。ヴァラナーにとって戦争は芸術でありゲームである。かつてのゼンドリックの英雄たちは単なる力よりも技術と隠密の技を重視し、ゲリラ戦法で戦った。ヴァレス・ターンのエルフたちは弱敵に当たればすみやかにこれを打ち倒すが、価値ある敵だと認めた場合は隠密の技や策略を駆使し、長引かせて、その敵との戦いを最大限に楽しむ。これはどう言った規模の戦いであっても同じであり、社会生活ですら同様である。エルフ同士の戦争が何故何世紀も続くのか、その理由はこういったところにあるのだろう。その長い寿命ゆえにエルフは人間と同様の視点で歴史を考えることはなく、まためったに切迫感などは感じないのだ。

ヴァラナーの持つ捕食者の本能は生活のいたるところに反映されている。商人との契約、古代の宝物の探索、哲学的な議論、いかなる時でもヴァラナーのエルフは「狩人と獲物」という視点で状況を見ている。

ヴァラナー・エルフは戦団(Warclan)と戦隊(Warband)に組織化されている。これは強い絆で結ばれた軍事ユニットである。ヴァラナー人は自分たちの先祖の精霊のことを全てに優先させるが、それに次ぐのが血縁者と同じ隊の仲間なのである。

ヴァルナーの戦士は通常ゆったりとした衣服を着込んだ上に軽装鎧を装着し、精緻な彫刻や刺繍で装飾するのを好む。赤や茶色の紋様は血しぶきであり、戦いの凄惨さを身にまとっているのである。加えてゼールタ、「魂の仮面」と呼ばれる装具がある。この顔半分を隠すヴェールはブレード砂漠の環境を凌ぐのに非常に役に立つが、加えて彼本人の個性を消し、先祖の精霊の印象を強めるためのものでもある。ヴァラナーの戦士は兜かブローチに先祖を象徴する印章を刻み、加えてゼールタで顔を隠す事によって単なる常命の者の戦士ではなく、英雄である先祖の精霊そのものであることを印象付けるのだ。

ヴァラナーの宗教:現代を生きる古代の英雄

ヴァラナーエルフは祖先を信仰する。エアレニが偉大な過去の英雄に不滅の肉体を与えて助言を授かるのに対し、ヴァラナー及び全てのターナダルは彼等の祖先の為した栄光を再現し、それによって過去の英雄の魂を現代に蘇らせようとしているのである。

エルフが生まれると聖職者であるキーパー・オブ・ザ・パストはさまざまなしるしからそのエルフを守護する祖先の霊を判断する。この祖先を崇め、その行いに倣い、また家族全てにその栄光をもたらすべく努力するのがその子供の義務となる。同じ守護祖霊が複数のエルフを守護している事もあり、その場合どのエルフがもっとも祖先の姿を完全に再現できるかという競争が彼等の中で起こることもある。

ターナダルと不死宮廷との関係は個人によって異なる。不死宮廷はドラゴンとの戦いで決定的な役割を果たし、ターナダルはこの強力な古代のエルフたちに尊崇の念を抱いている。こうした態度はエアレニと肩を並べてドラゴンと戦った年かさの戦士たちの中では一般的なものである。しかしより若い世代の者たちの中にはエアレニは怠惰な臆病者であり、不死宮廷のカウンシラーは正真の英雄ではないと主張するものもいる。

キーパー・オブ・ザ・パストはクレリックないしバードである。この宗教を信じるヴァラナーのバードは4レベル呪文としてスピリット・スティード呪文を得る。クレリックは破壊、守護、戦の領域を選択する事が出来、戦の領域の4レベルをスピリットスティード呪文に、9レベルをヒーローズ・ブレイド呪文に置き換える。属性は中立、神格の好む武器はダブルシミターである。

戦場のヴァラナー

ヴァルナーは剽悍無比の戦士であり、剣に関してはエベロンに並ぶものが無い。彼等の侵攻を阻止できている理由はひとえに彼等の人口の少なさにある。この戦闘技能はPCクラスと高いキャラクターレベルによってもたらされる(※)。ヴァラナーの(ルーキーでない)古参兵の殆どは4〜6レベルのレンジャーであり、これだけの技量を持ってすればたかだか8〜12人ほどの戦隊一つですら特筆すべき脅威となる。

※エベロンでは高レベルキャラクターとPCクラスを持つキャラクターは希少である。例えば、人間の平均的な古参兵はたかだか2レベルに過ぎない。ドラゴンシャード「人口統計学」とアンダー・ザ・グラス「キャラクターのクラスとレベル」を参照。

ヴァラナーの兵士は軽装鎧を好み、単純な腕力ではなく速度と技に頼る。ヴァラナーはその騎兵の強さで知られており、殆どの兵士は乗騎を動物の相棒にしている。彼等の間では攻防一体、回避、騎乗戦闘、及びそれらを基点とする特技が一般的である。

ヴァラナーといえば騎兵であるが、彼等は自身のシミターとダブルシミターに対する技量にも強い誇りを持っている。全てのヴァラナーは通常のエルフの種族的な武器習熟ではなく、シミターとダブルシミターに対するそれを得ている。全てのヴァラナーにとり、剣術使いとしての夢はジェルダイラ(Jaeldira)、すなわち「刃の踊り手」として知られる達人になる事である。彼等はモンク/デルウィーシュ(戦士大全所収)であり、ジェルダイラ・モンクはモンクとしての2レベルないし6レベルにおけるボーナス特技に「双刃攻撃」をツーブレーデッドソードのかわりにダブルシミターを対象として取得することができる。

魔法はヴァラナーの軍隊においても重要な役割を果たす。古代のエルフは主人であったジャイアントから魔法の秘密を盗み、古の英雄の多くもまたウィザードであった。殆どのヴァラナーの戦隊が少なくとも一人の召喚術師か力術師を含んでおり、他のクラスのヴァラナーもしばしば1,2レベルのウィザードクラスを取得する。多くのヴァラナーレンジャーは皮や鎖の鎧よりメイジアーマーを好むし、マウント呪文は馬を失った騎手に非常に重宝がられる(彼等の使うマウント呪文で呼び出される馬は、あたかもヴァラナー・ホースの生まれ変わりであるかのように見える。能力的には通常の物と変わりないのだが)。ヴァラナーのウィザードは偵察の役に立つという理由から殆ど全てが鳥を使い魔とする。

キャラクターへの質問

ヴァラナー・エルフの個性は彼の守護祖霊に大きく影響され、ヴァラナーはあらゆる手段で彼等の先祖に近づこうとします。ヴァラナーのPCかNPCを作成するとき、守護祖霊についてある程度の時間を費やして説明してください。彼は何の技で知られていましたか? 伝説的な射手? 剣術使い? 詩人? 反逆者? 彼にとってもっとも大きな戦いは何だったのでしょう? そして彼はどのように最期を遂げましたか?

次の重要な質問は何故彼がヴァラナーと彼の戦隊から離れてここにいるか、ということです。1レベルからはじめるならあなたは典型的なヴァラナーレンジャーほどの強さを持っていません。ここに幾つかの選択肢が存在します。

  • 若いターナダルは数十年を基礎訓練に費やします。あなたは1レベルの新米ではありますが、エアレナルやヴァラナーの砦で訓練をするよりも、広い世界で冒険に出るのが栄光と強さを得る手っ取り早い道だと考えています。家族はあなたの選択を支持するかも知れませんが、伝統には反逆する事になるでしょう。
  • あなたの先祖は名誉と美徳において模範となるような立派なエルフでした。そしてあなたはヴァダリア大王のサイアリへの裏切りを許容する事が出来ませんでした。先祖の名を辱めぬため、あなたは国を去る事に決めました。
  • あなたの守護祖霊はコーヴェア遠征において先発隊を務めており、他の種族との接触と交渉において名を残しています。あなたは冒険者のグループに加わり、未知なるものと出会う事で祖先の生き様を再現しているのです。