Dragonshard 12/20/2004

エイト・ウィンズ・レース(八風レース)

キース・ベイカー




立体都市シャーン。その何世紀もの歴史の中でシャーンの人々はこの都市のユニークな構造を利用する様々な競技を生み出してきた。風追いレース(ウィンドチェイサー)は綿密に計算された経路に従い塔の周囲を飛び回り、スカイブレードは地面のはるか上で馬上試合を行う。しかしそれら全てを霞ませるイベントがシャーンには存在するのである。
そう、夏の盛り、ラーヴィオン月の23日に開催される八風レース(エイト・ウィンズ・レース)がそれだ。これはコーヴェア中から観客と掛け金の集まるビッグイベントなのである。ある点ではレースであり、ある点では空中戦闘である、この痺れる光景はドゥラ区の文化の重要な部分を担っており、また冒険者にとっても様々なチャンスを提供してくれるだろう。

歴史と構造

伝説によればガリファー二世は飛行する騎兵と偵察兵の育成に熱中し、シャーンの街を利用して飛行する獣のそれぞれの特徴を調べ上げ、飛びぬけて優秀な騎兵に領土と褒賞を与えたと言われる。レースの為にドゥラ区は8つの区域に分割され、それぞれは異なった生物(その地区はその生物を用いてレースに出場する)によって象徴される。これは街やそこの住民の隠喩としても使われ、例えば「あの嘘吐きフクロウ」と言った場合はラットルストーンかバザールの住人のことを指している、と言った案配である。

レースそのものは速度と技を競う物だが、乗騎と騎手双方の反射神経と戦闘能力も試される。レースはハレス・フォリーから始まり、塔の周囲の曲がりくねったコースを飛び回ることになる。各騎手と乗騎はライバルと接触を起しても何ら反則にはならないため、騎手は競争相手を排除する事で確実な勝利を得る事ができる。

このレースはシャーンの多くの地区よりも古い歴史を持つ。ドゥラ上層区を代表して騎手が出ないのは何故か? この伝統が始まった時代に「上層区」なるものは文字通り存在していなかったからである。なお、ハレス・フォリーとホステルホームの地上は常に観客のための中立地帯である。

シャーンの全てのものが熱中する、というわけではないがドゥラ下層及び中層の住民の多くはこの競技の熱心なファンである。レースはあらゆる種族と職業の者を惹きつけ、直接レースにかかわるものはその地区においては英雄である。騎手や調教師がそうだが、加えてウィンドガード――その地区の代表チームを運営する委員会――も含まれる。これは素晴らしい名誉だが大きな責任をも伴う。エイト・ウィンズ・レースは単なる技能の比べ合いという以上の意味を持っている。
例えばウィンドガードはレースに使用する外国産の動物を取得し、維持し、訓練するために資金を集めなくてはならず、これは通常地元の商人による寄付によって賄うが、その不足分を穴埋めするのもウィンドガードの仕事だ――ただし、その額は任意ではある。運営費の問題に加え、ウィンドガードのメンバーは地域を代表して終る事の無い計画の立案と他のウィンドガードとの交渉を続けている。
こうした同盟関係と「貸し借り」のネットワークは何世紀もの間相互に発展しつづけ、レースをスピードの勝負から政治の勝負へとどんどん傾けつつある。例えばフクロウはもっとも遅い生物の一つだが、フクロウのチームであるバザールはその経済的な地位を利用してしばしば贈収賄によって勝利を得ようとする。またグリフォンチームは積極的に勝ちに行こうとすることは殆どないが、その肉体的な力を取引材料として、レースとレースの間にあちこちに「貸し」を積み上げておく。グリフォンにとってレースには勝てなくとも、他のチームを脱落させる事は容易いのである。例えば鷹のチームはフクロウに一つ借りを作り、グリフォンにペガサスを無力化するように依頼する事によってこの借りを返済する、と言った具合。なお、これは貸し借りの例としてはかなり単純なものである。

ルール

伝統的に各地区は乗騎と騎手一組を出場させる。しかし地区が250gpを寄付するなら二組目の騎手と乗騎を出すこともできる。めったにはない事だが、PCが参加する方法としてはこれがもっとも使いやすいだろう。地区の代表になりたいというのであれば、どこか適当な地区を探して自分を売り込む必要がある。

レースは危険であり、騎手や乗騎同士が激しく接触する事も許されている。また乗騎は自身が持つどんな肉体武器を使用する事も許されている。騎手はあらゆる呪文、サイオニック、ドラゴンマーク、魔法のアイテム、錬金術アイテムの使用を禁止されており、これを破ればただちに失格となり、観客に袋叩きにされる事になる。騎手は威力を弱めたクロスボウと12本のクォレルの携帯を許されており、これはライトクロスボウと同じに扱うが、射程距離は80ft、ダメージは1d4(小型は1d3)である。これらは一瞬の殺し合いで決着がつくのを防ぐと共に、レースを程よくエキサイティングにしてくれると考えられている。

レースに勝利した騎手は500gpと僅かな土地を褒賞として得る。一方勝利した地区のウィンドガードは八風のロッド(ロッド・オブ・エイト・ウィンズ)を手にする。この神秘的なアイテムは都市のはるか下層の断層から発見されたメジャー・アーティファクトである。これは"紺碧の空"シラニアとリンクしており、小さな顕現地帯を作り出す魔力を秘めている、と主張するものもいるが、ロッドの歴史や能力に関心を持っている者はあまりいない。重要なのはこれがドゥラの誇りのシンボルであるという事――そして各地区がこれを手に入れようと必死になっていることなのである。

エイト・ウィンズ・レースをゲームに取り入れる

エイト・ウィンズ・レースは大陸中から注目される大規模な競技である。これは色々な方法で冒険に取り入れる事が出来るだろう。

地方色:レースに出場するそれぞれの生物はドゥラの中の特定の地区と関係付けられている。レースが近づくにつれドゥラの各地区はそれぞれ街路に動物のバナーを飾り、人々はその動物を象徴する色をまとうようになる。冒険者が食事に誘われたりすれば、地元の動物の健康に乾杯したり、ライバル地区の動物の色の服を着用していて一悶着起こしたりするかもしれない。これらの要素は敵ないし味方である新しいNPCとの出会いをもたらしたり、また単に演出の一環として使用する事ができる。

参加:熟練した騎手が自身でレースに出場する事を希望する事もある。そうしたキャラクターは地区の一つのスポンサーに自分を売り込む必要がある。勝ち続けて名声を得たならば、地元の優勝を切望する(ヒポグリフとペガサスを除く)チームの方から引き合いがくるかもしれない。キャラクターはレースに勝つと土地の所有権を得るが、これも面白い展開に繋げられるかもしれない。またそれは彼を否応なくシャーンでの有名人にし、多くの新たなチャンスを呼び込むだろう。

トラブルシューティング:誰かが地区代表のグリフォンに毒を盛った。プレカリアスのウィンドガードが代わりのグリフォンを見つけるための猶予は三週間しかない。パーティは時間内に野生のグリフォンを見つけることができるだろうか? レースが一週間後に迫ったある日、ロッド・オブ・エイト・ウィンズが盗まれた。冒険者は果たしてアーティファクトを回収する事ができるだろうか? PCはダースク(シャーンの犯罪組織の一つ)がちょっかいを出してきたときの為にペガサスを護衛する仕事を頼まれた(実に楽な仕事だ!)。一方、PCの友人はギャンブルで破産し、ボロマール・クラン(シャーン最大の犯罪結社)が彼女の命を脅かしていた。PCは彼女を助ける事ができるだろうか? 最悪の場合彼等は彼女を使ってペガサスを害しようと企むかもしれない!

動物たち

ドゥラに幾ばくかの彩りを添える動物たち。これら地区の代表として伝統的に特定種類の動物を用いる。

イーグル:ブロークンアーチとストームホールド地区は茶色と金で象徴される巨大な鷲を代表としている。鷲はめったに勝たないが、ストームホールドの住民は特に熱狂的なレースのファンである。多くの住民は鷲の如く激しく気高く誇り高いため、レースに関する政治的な陰謀に参加する事はめったにない。彼等は他の鳥のチームに特に敵愾心を燃やしている。鷹は小さな鷲に過ぎず、フクロウは不誠実なうえに小賢しい。

ガーゴイル:フォールンとマレオンズ・ゲートを代表するのは元々ダイアーバットだった。ドロアームからの移民がシャーンにきたとき、大部分がマレオンゲートかコグに住み着き、12年前に蝙蝠の地区は灰と黒のガーゴイルの地区に変わった。現在この地区を象徴するのは《顕現飛行》特技(Manifest Flight、「シャーン:塔の街」にて追加。顕現地帯でなら機動性が1段階上昇し飛行速度が5割増になる)を持つ頭脳明晰なカーラッグ(真なる中立のガーゴイル、男性、ローグ4)である。

マレオンズ・ゲートの人々はイベントに熱狂するたちである。暴力をもってダーグールに訴える一方、都市のゴブリンは上層地区のエリート共に一泡吹かせてやるチャンスを常に待ち望んでいる。ガーゴイルはまだレースに勝った事こそ無いが、コウモリよりはるかに良い成績を残している。そして地区の中ではダースクをはじめとするドロアームの勢力による支援がどんどん多くなっている。

グライドウィング:この翼竜(詳しくはエベロン・ワールドガイド参照)はゲート・オブ・ゴールドとザ・ストアーズ地区の代表であり、灰色と緑色で象徴される。グライドウィングはシャーンのハーフリングの間では非常にポピュラーな乗り物である。グライドウィング・ウィングガードの後ろ盾にはボロマール・クラン(この犯罪結社の中核はハーフリング達である)が付いているという噂もある。

グリフォン:この強力な獣はプレカリアスとオールドキープの代表であり、茶色と赤で象徴される。レースの間、グリフォンの前足には赤いリボンが結ばれる。蹴爪と流血のイメージを結びつけようとしているのだ。プレカリアスの住民は狂信的に(そしてしばしば暴力的に)レースに熱中する。多くは勝敗を気にしないが、グリフォンが他の動物一つをリタイアさせたならば、それは勝利だと考えられている。

ホーク:タンブルダウンとアンダールックは色が薄茶と焦茶で象徴される恐ろしい鷹によって代表される。アンダールックは観光業で毎年かなりの利益をあげており、ホークがめったに勝たないにもかかわらず殆どのタンブルダウン住民は熱狂的に敗者を迎える。

ヒポグリフ:ダガーウォッチとオーバールックの代表はヒポグリフ。色は白と金である。金翼隊(ゴールドウィング、シャーン都市警備隊所属のヒポグリフによる空中機動部隊)はダガーウォッチ地区に基地を置いており、そのメンバーがこの地区の代表を務めるのが通例である。ヒポグリフはこのレースのベストレコードの一つを記録しており、ペガサス以外で対抗しうるチームはいない。

ジャイアントアウル:ジャイアントアウルがラットルストーンとバザールの動物であり、色は茶色と灰色である。レースでもっとも遅い生物の一つだが、このチームは陰謀と外交でレースの結果を操ることで悪名高い。ドゥラの住民の多くが「偽善者フクロウ」について話している間、この地区の商人、詐欺師、スリは彼等の象徴のずるさを誇らしげに語る。またこの地区はその一貫した実益主義でも名高い。現在、その商人のうちの何匹かは以前レースに出場したフクロウその人たちである。幸運に恵まれればバザールで珍しい遭遇を体験する事ができるだろう。

ペガサス:ハイウォーターはエイト・ウィンズ・レースに参加した最後の地区だったが、ヴァダリス氏族のおかげでペガサス――色は白と銀――を自らの地区の代表とする事が出来た。ペガサスはこのレースで最速の存在であり、幾たびも勝利をもたらした。ハイウォーターの住民は傲慢であり、時と場所を選ばずにペガサスの自慢をはじめる。しかし、成功には必ず代価がつきもの。ペガサスを開始直後にリタイアさせるため、しばしば他の地区による同盟が組まれるし、レースを離れても下層地区の住民の多くはハイウォーター地区の住民を嫌いぬいている。泥棒やいじめっ子はわざわざ紳士気取りのペガサス支持者を対象とするだろう。

 

2008/03/24 訳者追記

先日NHKの世界遺産紹介番組でイタリア、トスカーナ地方のシエーナ(シエナ)という古い街(現存する世界最古の銀行が生まれた町だそうです)を紹介していました。
このシエナという街は17の自治区(コントラーダ)に分かれており、それぞれが塔、波、芋虫、馬と言った地区ごとのシンボルを持っていて、お祭りのときや子供が生まれたときにはシンボルを染め抜いた旗を掲げるんだそうです。
さらに毎年一度、街路と広場をコースにしてパリオ(Palio)という地区対抗のレース(無論、こちらは普通の競馬ですが)が行われ、優勝した地区にはその証として昔から伝わる旗が一年の間預けられるんだとか。
案外これがエイト・ウィンズ・レースの元ネタかもしれません。