Dragonshard 09/13/2004

セレン

キース・ベイカー





いまわのきわの絶叫が平野に反響したとき、赤のカーリザークは黒曜石の祭壇を挟んで"冷たきもの"デラシャと対峙していた。カーリザークが先祖の刃を塗らす血を舐め取る。

「ホワイトワンダラーズの血は甘いな」 彼の喉がしゅっと音をたてた。

「貴様の部族が炎の中に滅びるとき、俺は貴様らの血で腹を満たす事が出来るだろう」

デラシャの青ざめた瞳が白い鱗の仮面の影で煌いた。ここにいたってなお冷静で穏やかな声が告げる。

「お前は自身の炎によって目がくらんでいるのだ、カーリザーク。セラストハークに最後の裁きが下り、お前は冷たき死を迎えるだろう」

カーリザークは嘲り笑い、刃をデラシャの胸につきつけた。

「そういうおまえの手には武器の一つもないな、ドラゴンスピーカー。それとも鉤爪を生やして俺を切り刻んでくれるのか?」

「お前は今夜の内に滅ぶだろう」 デラシャは返答する。「しかし、それはお前が恐れるべき私の鉤爪によってではない」

彼女は手を広げ、ドラゴンのルーンが刻まれたワームリングの牙を見せた。

何かが月の無い夜空から駆け下りてくる。カーリザークの恐怖と激怒がないまぜになった絶叫は、ホワイトドラゴンの咆哮によって掻き消された。

 

精神世界と歴史

クバーラかラザー公国連合を通り抜ける旅行者は確実にセレン諸島の部族の物語を耳にする。これらの激しいバーバリアンはアルゴネッセンの海岸を守り、トーテムビーチの砂を犠牲者の血で赤く染めるのだと言われている。ありきたりの歌や物語ではセレン人は常に恐ろしい怪物として描かれている。その炎の吐息が敵を生きたまま焼き尽くし、子供を殺して彼等の信じる竜の神に生贄として捧げるのだと。

これらの話は勿論誇張されたものだ。セレン人がよそ者からアルゴネッセンの岸を防御するために自らの命を捧げた恐るべき戦士なのは事実だが、けして人食い人種ではなく、また竜に対する彼らの崇敬は単なる強大な獣に対する崇拝とは一線を画したものである。

およそ30のセレン部族がセレン島とアルゴネッセンの海岸線に点在する。あらゆる部族には、竜との契約に関する伝説がある。強力な竜によって彼らの先祖がいかにして遥かな地から連れて来られたか、竜を崇める事を知り、弱く価値無き者達からアルゴネッセンを守る任務を授かることになったか。そんな物語だ。僧侶階級であるドラゴンスピーカーは、竜が人の最良の精神の具現であると言う。セレン人が死ぬとその魂は審判を受け、死者が竜との契約を受け入れたなら、彼は竜の卵の中に宿る。そして卵の中に充分な魂が満ちたとき卵は孵り、そこに宿った全ての高貴な魂の精髄を昇華した、新しい竜が生まれるのだと。

セレン島は厳しく容赦ない場所であり、絶え間なく部族間の紛争が起きている。記録に残るセレン人との最初の接触は3120年前のサーロナの記述である。彼等の文明は数千年の間、ほとんど変わっていない。セレン人は自らの伝統にその身を捧げる。ドラゴンたち自身の命令を受けるまで、セレン人は契約を守り続けるだろう。よって、ドラゴンの大陸を探検しようとする全ての者は、これらの蛮族をどうにかしなければならない。

島民の気性

それぞれのセレン部族は固有のドラゴンとの契約により特徴付けられる。セレン人の部族を創設するとき、DMは、以下の質問に答える必要がある。

  • 氏族を創設したドラゴンの体色は? 外観、ブレス、およびエレメンタルとの関係が、その部族を特色付けます。例えばレッドドラゴンを崇拝するブリンガーズ・オブ・ファイアー部族は体を赤く塗り、炎を上げる油を武器として戦うといったように。属性や信念が違っていても、同じ色のドラゴンを崇める部族同士は伝統的にしばしば同盟を結びます。
  • 氏族を創設したドラゴンの属性は? エベロンでは、属性と体色は必ずしも一致しません。
  • セレン人は、価値無きもの共からアルゴネッセンを守り、部族の創設者たるドラゴンを崇拝する義務を課せられています。しかしこれは指示としてはあいまいです。ドラゴンは何か特定の言葉を伝えませんでしたか?何をもって価値がないと判断しますか?そして、彼等はどのようにドラゴンを崇拝しますか?セレン人は契約こそが来世の鍵だと感じています。そこが最も重要な点です。暴力的な混沌の部族は、弱い者の血液を流すことによってドラゴンへの崇拝を行っていると信じ、より平和的な部族は、知識や宝物を集めることによって崇拝していると実感することができました。
  • アルゴネッセンを守るという一般的な誓いに加えて、いくつかの部族には特別の任務が授けられています。例えば特定の神殿を保護したり、特定の宝物を守ったりと言った事です。

セレン文化は非常に戦闘的であり、セレン人はどんな侵略者も退ける。これのために、コーヴェアとサーロナの人々はアルゴネッセンを避ける事を学んだ。結果、セレン人は彼らの時間の大部分を互い同士で戦うのに費やす事になった。しかしセレン人はこれらの戦いで、戦いの技を磨き、守護者としての自らを鍛え上げている。それらの中で最も強い戦士だけがアルゴネッセンの岸を直接守る任務を授かる。なお、この内戦においてはたとえ敗北しても部族が消滅にまで至らないよう、この時子供とその世話をするだけの人数が避難をするのは容認される。

セレン部族の大部分には、同様の社会構造がある。どの部族でも将軍は最も強力な戦士だ。この地位は純粋に実力に基づいており、部族のどんなメンバーも将軍に挑戦することができる。パトロール、訓練、戦争など将軍はすべての軍事行動を統括する。これに対して内政や祭祀を司るのが複数のドラゴンスピーカーからなる評議会だ。ドラゴンスピーカーは終身制であり、霊的な権威として智恵と魔法によって部族をまとめる。評議会の序列は年齢で決まる。セレン人は生来戦闘的だが、最終的な意思決定はドラゴンスピーカーの評議会によって行われ、彼等は将軍の決定を覆すのみならず退位させることすら出来る。

性別による役割分担はしばしば部族で異なっており、氏神(崇めるドラゴン)の性別に依存するところが大きい。多くの部族では女性の戦士(バーバリアン)は男性と同じく一般的だが、そうでない部族では精神的指導者、ないしは家庭内での役割のみを負う。

セレン人の外見

セレン人は、竜が多くの土地から自分達をつれてきたと主張する。そして、セレン人の外見はその主張を裏付けており、色黒と大きい体格にやや偏る傾向はあるが、彼等の中にはあらゆる種類の皮膚と髪の色を見つけることができる。入れ墨を入れるのは島における一般的な習慣である。セレン戦士が戦いで勝利を収めると、彼らは肉体に竜の特徴の入れ墨を入れる権利を得る。

セレン文化は原始的だ。戦士は通常獣皮か革の鎧を着ており、竜の鱗の刺青を物理的な防具の代わりにするものもいる。武器は木、骨、貝殻などから作られるが、それぞれの部族にはドラゴンから授かった武器と鎧が存在する。これらはドラゴンの骨や鉤爪から作られた武器や鎧であったり、その他の秘宝であったり、その両方であったりするかもしれない。

戦場から離れれば殆どのセレン人は簡素な灰色の服を着ている。セレン人がその影響と名声を高めれば、彼等はドラゴンの色の衣と装飾品を身につけることが出来る。竜の鱗と骨から作った装飾品は部族のもっとも偉大な英雄のための物であり、そのような宝物は英雄とともに葬られることもあるが、むしろ次にこれを受け継ぐべき英雄の為に部族に返還されることのほうが一般的だ。

言語と名前

セレン人は共通語ではなくドラゴン語を用いる。セレン人にとっての共通語はボーナス言語であるかもしれないし、技能ポイント1点を支払って学べる物かもしれない。

またセレン人の名前はドラゴンの言語に基いている。彼等は姓を持たず、その代わりに氏神から名誉ある二つ名を授かる。デラシャールハスク(Delhasha'alhasc)、すなわち"冷たき者"デラシャといった具合である。

典型的な男性の名前:ダルシャスト(Durshast)、カーリザーク(Kharizhak)、ラシャラク(Lhasharak)、ノラシャル(Nolashar)、ソラシャン(Solashan)、ザザーン(Xaxhan)

典型的な女性の名前:アリシャイル(Aralithyr)、デラシャ(Delhasha)、エシュカ(Eshka)、フレイラシュカ(Freilashka)、ハカラッシャ(Hakalasha)、シャーシル(Shaesthyr)

キャラクタークラス

セレン人は、崇敬する竜と同じくらい強くなるように育てられる。島の厳しい生活が人々を鍛え上げる。ほとんどの成人したセレン人の殆どは、少なくともバーバリアンを1レベル持つ。軍事的伝統をもつ幾つかの部族ではレンジャーかモンクをバーバリアンに混ぜるが、これは珍しい例であり、一方で彼等は尊敬されている。

ドラゴンはドルイドの秘儀を人類に伝えた。ほとんどのドラゴンスピーカーは「門の監視人」か「森の番人」の伝統に従うドルイドである。いくつかの部族には、バードの伝統があり、またソーサラーもセレン人の中で普通に見かけることが出来る。ソーサラーは氏神に関連した方面にその力を伸ばしていくのが普通である(例えばレッドドラゴンの部族は炎の呪文を修得する)。ソーサラーは一般的に祝福された存在だと考えられているが、部族の氏神にそぐわぬ呪文を研鑚するようなソーサラー(例えばホワイトドラゴンの部族で炎の呪文を磨くような)は部族から追放されるかもしれない。

また、セレン人の中にはDracolytes、Dragonsong Lyricists(以上二点、竜の書所収の上級クラス)、およびドラゴンディサイプルが存在し、部族の中で象徴的な存在となっている。しかしそう言った個人はしばしば竜の召喚を受け、彼等に直接仕えるべくアルゴネッセンの奥地に消えていく。

セレン人の冒険者

セレン人がアルゴネッセンの島と岸を去るのは、珍しいことだ。旅立つセレンPCかNPCを作成するとき、あなたは、彼がなぜ故国を捨てたかを決めた方がよい。以下のような例がありえる。

  • ドラゴンスピーカー(ことによると変装したチャンバーのメンバー)は、キャラクタが予言を実現させて、彼女の運命を見つけるために世界を変えなければならないと主張する。
  • 「門の護り手」は、ロード・オヴ・ダストと地下竜教団の邪悪なたくらみをくじくため、悪魔の地(コーヴェア)に旅立つことをキャラクターに命じた。
  • キャラクターは、神聖な寺院から遺物を盗んだために追放された。彼女は潔白だが、これを立証する唯一の方法はそれらがどこにあっても必ず見つけ出すことのみだ!
  • 部族の中で内紛が起き、キャラクターの家族は皆殺しにされた。彼は復讐を遂げるべく強力な同盟相手を見つけ、仇を討つと同時に部族の指導者達を糾弾することを誓った。

セレンの部族

およそ30の野蛮な部族がセレン諸島とアルゴネッセンの海岸で生活している。いくつかの代表的な部族を紹介する。

  • ブリンガーズ・オブ・ファイアは混沌にして悪のレッドドラゴンを氏神としている。最も大きくて最も危険な部族の1つであり、彼らはセレンで唯一、他の部族を完全に皆殺しにすることで知られている。価値がないと見なした部族は生きていてもしょうがないのである。ブリンガーズ・オブ・ファイアの気性は極めて荒々しく、戦に臨んで体を赤い塗料で塗り、燃える油を使って戦う。
  • ホワイト・ワンダラーズは真なる中立のホワイトドラゴンを氏神としている。彼等は幾つかの聖堂を守護する使命をおっており、知識と魔術の力を信じている。実際彼等の識字率と輩出するドラゴンスピーカーの多さは特筆すべき物である。それゆえこの地を訪れる探検家たちは彼等を親しみやすく穏健な部族と感じるが、彼等の態度は冷淡でよそよそしく、決して感情を表に出さない。
  • ストームウォーカーズは秩序にして中立のブルードラゴンを氏神としている。小さい部族ではあるが、それにもかかわらずその戦闘力の高さによって畏敬を受けている。ストームウォーカーズは戦うドラゴンの動きを真似た武術を編み出しており、この芸術とも言うべき技のもっとも偉大な達人はドラコノミコンに掲載されたDraconic Mysteries上級クラスの教えを受けることが出来る。
  • フロストブレードは秩序にして中立のホワイトドラゴンを氏神とする。セレンを侵入者から守るとともに、ブリンガーズ・オブ・ファイアなどの乱暴な部族から弱小部族を守るために戦っている。フロストブレードのドラゴンスピーカーはコーヴェアの錬金術師の使うような霜の秘密を解き明かしており、これを戦いに用いる。
  • トーテム・ガーディアンズは部族ではなく、多くの部族から集められたエリート戦士集団であり、トーテムビーチとグレートバリアの守護者だ。夢のお告げを受けたドラゴンスピーカーにより部族の戦士が指名され、新たなトーテム・ガーディアンズの戦士となる。トーテム・ガーディアンズの戦士は最低でも6レベルであり、ドラコノミコンに記載されたDracolyte、Dragonkith、Dragonrider上級クラスのレベルを持っているかもしれない。